第128話 パストーレとの激闘 11
ーーーティール視点ーーー
「ふぅ、漸く着きましたね」
私達はペルールに到着した
「では、レルガ達を運ぶとするか……城より街の宿の方が良さそうだな」
メビルトが兵に指示を出す
「そーれ! わーしょい!」
「わーしょい!」
「お前ら! 楽しんでんじゃねえ!! 治ったら覚えてろよ!?」
運ばれるレルガが叫ぶ……元気ですね
「さてと、夕方ですし……私達も今日はペルールに泊まりますかね」
「そうだな、明朝からパルンを目指すとするか……ティール、君はもう休んでいなさい、後は我輩がやっておこう」
「何故です? 私もまだ動けますよ?」
「しかし君は……」
「女だからって甘やかされるつもりはありません」
私はそう答える
「……ふむ、そうか、ならば言い方を変えよう、若者はさっさと休め、年長者の言うことには素直に聞いておくべきだ」
「……そうきましたか」
女だからではなく若者だから甘やかすと
全く……これ以上は何を言っても駄目って言われそうですね
「わかりました、お先に休ませてもらいます」
「うむ!」
私は街の宿の一室を借りる
「…………ふぅ」
鎧を脱いで、椅子に置く
鎧掛けは無いみたいですからね
「それにしても……」
私は外を見る
「本当に人の気配がありませんね……」
ちらほら見えるのはオーシャンの兵
パストーレの民は1人もいない
「普通に考えて……戦が始まる前から避難させてたって事ですよね?」
戦時中に物見の兵が気付かないうちに避難させるなんて不可能ですからね
「やはりパルンに集められてるのでしょうけど……」
パルンに全員が入るのだろうか?
「……ユリウス様達はもうパルンに着いたのだろうか?」
無理をしてないといいのだけど……
バルセ様ももう年ですからね……肩凝りしやすいとか言ってましたし……
「ボゾゾ殿が居るから大丈夫だとは思うけど…… 」
私いまだにあの人がわからないんですよね……
いい人なのはわかるんですけどね……
「汗でも流しますかね……」
これからまた水浴びも難しくなりますからね
この宿……シャワーありますよね?
あ、自分で用意するタイプでしたか……オーシャンでは蛇口を捻るだけだったんですけどね
「いや、あれもメイド達が用意してくれてるんでしたかね?」
そう考えたらメイド達にも感謝しないといけませんね
今度何かプレゼントでもしますかね
私はお湯を沸かすために部屋を出た
・・・・・・・・・
「ふぅ……」
シャワーを浴びて、身体を拭く
「……はぁ」
そして自分の身体を見て溜め息を吐く
傷跡だらけの身体……
いや、それは良いんですよ、そうなるのを覚悟して軍人になったんですから
問題は……胸ですよ胸!!
「なんで大きくならないのかなぁ……」
サルリラやヤンユは大きいし
ティンク様も成長されて!!
最近ではルミルにも……あぁ! もぅ!!
「確かに戦いの時は楽ですけど!! 少しは欲しいんですよ!!」
彼女達にはわからないんだ!!
全く無いっていう苦しみが!!
人によっては無い方が良いとか!
無い方が楽とか言いますけど!!
私は欲しかったんですよ!! 平均的な大きさが!!
「そうすれば少しは……」
色恋に縁があったかも……
「はぁ……」
まだ25歳
まだ若い
相談した女性達はそう言うけど……
ティンク様もサルリラも……
皆既婚者じゃないかぁ!!
「……止めよう……なんか涙が出てきた……」
明日からまた行軍するのに……こう凹んでいたらいけない!!
「失礼します! ティール様!? し、失礼しました!!」
女性の兵士が飛び込んできて、私が裸なのを見て驚いて出ていった
「……服着よう」
・・・・・・・・・・・
服を着て兵士から用件を聞く
「バルセ様からの伝令?」
「はい! 先ほどやって来ました!」
妙に早いですね?
私達がペルールに向かって、直ぐに放ったのでしょうか?
「今はどちらに?」
「宿の前に居ます! 彼は嗅覚が凄いですね! あっという間メビルト様とティール様の居場所を把握しましたよ?」
「?」
嗅覚?
てか宿の前に?
私は窓から外を見る
「ああ、彼でしたか、納得しました」
宿の前にはシャルスが立っていた
私に気付いて手を振っています
「直ぐに向かうから広間にでも入れてあげなさい、温かいお茶も……いや、冷たい水の方が良いのでしょうか? まぁ、好みの方を出してください」
「はい!!」
兵士が出ていく
さて、私も向かいますかね
・・・・・・・
「やっほ! 姐さん!!」
シャルスが水を飲みながら手を振る
「シャルス、どうしたんですか? 伝令らしいですけど?」
「あ、そうそう! バルセのおっさんから姐さん達にって」
シャルスが手紙を私に渡す
「ふむ……んん?」
手紙を読む
そこにはこう書かれていた
『リュウリを目指し、更に北上してほしい、そして海岸線にて小船を出来る限り多目に作ってほしい』
「……小船? 話が見えませんね……シャルス、本隊の状況を聞かせてください」
「了解!!」
私はシャルスから話を聞く
パストーレの籠城策
それを打開するためにバルセ様が動いていると
……んっ? この話を聞いて思った事があります
「シャルス、その話を聞くと君は2日でパルンからペルールに来たことになるのですが?」
「新記録でました!!」
親指を立てるシャルス
……突っ込むのも面倒ですね
「取り敢えずバルセ様の指示はわかりました、メビルトと相談して、今夜か明朝にでも出発しましょう」
「じゃあオイラはカイトの旦那の所に戻ります!! 1日で戻って見せる!!」
「君は何を目指してるんです?」
やれやれ……
それにしても……小船?
何故必要なのだろうか?
……まぁそのうちわかりますよね
・・・・・・・・・・
ーーーバルセ視点ーーー
今、私は船の上にいる
パルンからメイデル港に行き
元々顔見知りだった港の責任者であるバリッシュを説得して船を出させた
「いや~それにしてもバリッシュがカイト殿と知り合いだったとはな」
「ああ、アイツは面白い男だ!」
そのお蔭で説得は楽だった
予定では3ヶ月以上はかかると思ったが……
移動も含めて1ヶ月でここまで来れた
「だがバルセの旦那、俺達は漁師だ、戦えねえぞ?」
「わかっている、私が君達に頼むのは行きの移動だけだ」
戦えない民を戦わせるのは私も本意ではないからな
「恐らくここら辺の筈なのだが……見えたか!」
私は望遠鏡を覗いている兵達に聞く
「いえ! まだです!!」
ふむ、もうすぐ日が暮れる
その前にティール達を見付けたいのだが……
「バルセ」
「むっ? どうしたボゾゾ?」
ボゾゾが私に話しかける
今ここに居る将は私とボゾゾの2人だけだ
ユリウスはカイト殿に任せた
戦力で考えてもここにティールとメビルトが加われば充分だ
それに……もし失敗した時の事を思うとな……
「バルセ?」
「あぁ、すまない……どうしたのだ?」
「あとは、ボゾゾ、やる、バルセ、やすめ」
「なんだ? 私の心配をしてくれたのか?」
「バルセ、まともに、ねてない、やすめ」
「しかしだな……」
「やすめ」
「……うむ」
押しが強いな……仕方ない、少し休ませてもらうか
「バリッシュ、部屋を借りるぞ」
「おう!」
私は船室を1つ借りて横になる
そして仮眠をとる……
・・・・・・・・・
「バルセ様」
「むっ? ……ぬぉ!?」
目を覚ましたらティールが部屋に居た
「お休みの所申し訳ありません……ティール、参りました」
「ああ、すまないな……どうやら合流できた様だな」
窓から外を見る
ふむ、すっかり日が暮れているな……
「日が暮れてどれだけ経った?」
「1時間も経ってないかと」
「そうか、ならばいい……小船は?」
「20隻程完成しました」
「そうか、では10隻ずつ各々の船に積んでもらえるか?」
「はっ!」
メイデル港から出港した船は2隻……
ふむ20隻もあれば上々だな
私は甲板に出る
甲板にはボゾゾ、ティール、メビルトが揃っていた
「バルセ、やすめた?」
「うむ、だいぶ楽になった」
すまないな、と言いながら3人の側に立つ
「それで? バルセ殿は何をするつもりだ? 我輩達にそろそろ聞かせてほしい」
メビルトが聞いてくる
「うむ、簡潔に言おう、我々はこれから小船を利用してパストーレの船を奪いに行く」
「ほぉ……」
メビルトが愉快そうに聞く
武人の血が騒ぐのだな
「今宵は丁度くもりだ……星も月も出ていない」
周りが暗く、この船も松明で照らして進んでいる
「この船でパルンの近くまで進む、それからは小船で一部の兵と我等だけで港に夜襲を仕掛ける」
「この船と残りの兵はどうされるので?」
「メイデル港に帰ってもらうさ、残りの兵は彼等の護衛をしてもらう」
「私達は船を奪わないと帰れないって事ですか?」
「そうなるな」
厳密に言えば、小船でも戻れるかもしれんが
海はそんなに甘くはない……大波が来れば小船は簡単に呑み込まれる
「パストーレの連中が夜襲を警戒してないと思うのか?」
メビルトが言う
「警戒しているだろうな、パストーレにとっては生命線だ……だから少しでも警戒が緩むように、カイト殿に囮を頼んだ」
私達がここまで来るまでに……何回かパルンを攻めている筈だ……
そしてパストーレにオーシャンが数で無理矢理攻めようとしてる
そう印象を与えてくれている……筈だ!
「さいあく、ふね、こわす」
「そうだな、そうすれば目的は果たせる」
パストーレの籠城策を打開する
それが私の目的だからな
「バルセ様! 積込が終わりました!」
「うむ! では行こう!」
兵の報告を聞いて、我々はパルンの港を目指した