第124話 パストーレとの激闘 7
レルガの様子を確認した俺は将達から現状を聞く
「ルーツ達の被害は?」
「兵が45人負傷しました、幸い死者は出ていませんね」
頭に包帯を巻かれたルーツが答える
潰れた民家に道を塞がれたあの時には、もう俺とレルガしか残ってなかったからな
最初の爆発で怪我をした兵しか被害は出てないみたいだ
「他の軍はどうだ?」
俺は他の将を見る
ここに居るのは俺とルーツ以外には
バルセ、ブルムン、ゲルド
この3人だ
他の将達は兵に指示を出している
「私達の軍はユリウスが飛んできた瓦礫で頭を打ちましたね、幸い、兜を被っていたので怪我はしませんでしたが」
「都に入らなかったのか?」
「ええ、明らかに誘っていたので」
「そ、そうか」
バルセの発言で、俺の警戒心の薄さを思い知らされる
「南も被害は無いですね、理由はバルセ殿と同じです、ヒヒヒ!!」
ブルムンが笑う……駄目だ、馬鹿にされてる様にしか聞こえない
「小生の方も被害はありません……シャルスが火薬の匂いに気付いていたので」
シャルス、鼻いいんだな
「しかし、パルンから援軍としてブライが駆けつけてきました、それとトルリからもパストーレの兵が出てきました」
「挟撃にあったのか!?」
俺はゲルドを見る
「はい、被害は負傷者が約200名、死者が57名です」
「そんなに……それでブライは?」
「トルリからの兵と会話した後、パルンに帰還しました……恐らくバベルクを救出しようとしたのでしょうが」
ゲルドが俺を見る
「バベルクの自爆を聞いて諦めたのでしょう……」
「バベルクは最初から自爆するつもりだったんだな」
だから玉座の間に火薬を用意していた
あの凄まじい爆発だ……多分カーテンの裏とかにも有ったのかもしれないし
カーペット等にも仕込んでいたのかもしれない
「しかし、都を火計に利用するとはな……」
バルセが唸る
「必死と言うべきか、形振り構わずと言うべきか……」
ゲルドが空を見る
「カイト様、これからどうしますか?」
「どうするって?」
俺はルーツを見る
「我等の損害は軽微ですが……兵達が動揺しています、1度オーシャンに帰還するのも1つの手です」
「帰るか、攻めるか……」
レルガも心配だし、負傷した兵達も休ませたい
ここは1度帰還して体勢を立て直すか……
リュウリとペルールを奪えたし……トルリは壊滅だ
「もうパストーレにはオーシャンに刃向かう力は残ってないと思いますが?」
ルーツが言う
「…………」
確かにパストーレはパルンの都と僅かな村しか残っていない
将や兵がまだ多く残っているが……
領土が少ないのだ、食料や住む場所の問題で勝手に衰退していくだろうな
「ルーツの考えは良くわかる……もう充分目的を果たせたと言っても良いだろう」
「それでしたら」
「本当にそれでいいのか?」
「……?」
つい、口からそんな疑問が出てきた
「どういう意味で?」
ゲルドが聞いてくる
「なんかさ……パストーレの自滅を待つのは違う気がするんだ……」
俺は何を言っているのだろう……
戦わないで済むならそれで良いじゃないか
そう、頭では理解してるのに……
「それで東方を制圧できても……納得できないと思うんだ……俺も、民も、死んだ者達も」
実際はそんなのわからない癖にこんなことを言ってしまう
「ヒヒヒ、なんですか? カイト様は死んだ連中の事も考えてるので?」
ブルムンが笑う
「なんとなくさ……オーシャンの兵も、パストーレの連中も……浮かばれないって思ってさ……」
俺は4人を見る
「いや、細かい理由は考えを言うのは止めよう……単純に俺はパストーレと決着をつけたい」
俺の我が儘だっていうのを強調する
『…………』
沈黙……
こいつ馬鹿だろって思われてる?
「まあ、カイト様がそう決めたなら従いますよ?」
ルーツがやれやれって顔で言う
「私もこのまま攻めることを勧めます」
バルセが同意してくれた
「小生も、オーシャンに仕官して初めての戦です、武働きをせずに終えるのは正直不満でした」
俺を力強く見るゲルド
「自分はどっちでも構いませんよ? ヒヒヒ!!」
笑うブルムン
なんだ、皆攻める派だったのか……いや、ルーツは俺に合わせてくれた様だが
「では攻める方針で行くとして……レルガ達負傷者はどうしますか?」
ルーツが聞いてくる
「そうだな……リュウリとペルール……どっちが近い?」
「ペルールです」
ゲルドが答える
そっかペルールの方が近いんだな
「それならペルールに行かせよう……バルセ、ティールを借りるぞ?」
「構いません」
バルセから許可を貰う
「ルーツ、メビルトを借りるぞ?」
「? 構いませんが?」
「メビルトとティール……それと数千の兵でレルガ達負傷者をペルールに行かせる」
「随分と多いですね、護衛」
ルーツが意外そうに言う
「何か問題が起きてからでは遅いからな、確実にペルールに到着してもらう為さ」
無事にたどり着いて欲しいからな
「よし、そうと決まれば早速指示を出そう!」
善は急げ! パストーレが何かしてくる前に動こう!
・・・・・・・・・・・
ーーーレリス視点ーーー
「……ふぅ」
私はオーシャン城の中庭でヤンユの淹れた紅茶を飲む
大量の仕事が一段落したから、休憩をしていた
「全く、たまには休んだら?」
ヤンユが私に言う
「いや、カイト様達が出ているんだ、休んでる暇はない」
因みにこの休むって言うのは休日って意味だ
流石に今みたいな休息はとるぞ?
そこに……
「レリス様!!」
「ほら、お仕事がやって来た」
駆けつけてくる兵
「はぁ、はぁ」
「どうした?」
息切れする兵に問う
「カ、カイト様からの伝令です!!」
「カイト様から? パストーレを攻略したので?」
随分早いな……移動する時間を計算したらトルリかパルンに到着したばかりだと思ったが……
「い、いえ……」
違うみたいだ
「こ、こちらが文になります!」
兵が私に文を渡す
「ふむ……」
目を通す
そこには西方や南方からパストーレの援軍が攻めてくるかもしれないっという内容だった
「なんだ、その事ですか」
私は文を千切る……後で燃やさなくては
「な、なんでそんなに落ち着いてるのですか!?」
焦っている兵
「もう対策をしてるからですよ……パストーレが他の地方に援軍を要請するのは予想できましたからね」
私はヤンユから紙とペンを受け取り、文を書く
援軍は予想していた事
既に対策をしている事
そして行った対策を詳しく書き込む
「この文をカイト様に……これでパストーレ攻略に集中できるでしょう」
「はっ!」
兵が文を受けとる
「あ、それとカイト様に伝えてください……『貴方様の後ろは私が護ります』と」
「了解しました!!」
兵が走り去る
それを見送って、私は残っていた紅茶を飲み干す
「おかわりする?」
「いや、今ので充分だ……ヤンユ、少し頼みがある」
「何かしら?」
「ああ……」
私はヤンユに頼みを伝えた
・・・・・・・・・・
オーシャンから西
西方と東方を行き来する為の山脈
そこに6万の兵を連れた軍がオーシャンに向かっていた
西方地方のシルテン……規模で言えばパストーレより少し広い程度の領だ
そのシルテンの軍がパストーレからの援軍の要請に応じて、オーシャンに向かっていた
「…………」
この軍をまとめている将は『カルスト』
西方でも武人として有名な将だ
「オーシャン……」
静かにカルストは呟いた
これから攻める領
ほんの数年前には滅ぶ筈だった領
それが今では東方を制圧しようとしている
カルストは純粋にカイトに興味を持った
どのような男か?
武人として成り上がったのか?
それとも有能な者達が居るのか?
「オルベリン殿と戦えるかもしれないな……」
化物オルベリン……武人なら必ず耳にする名
是非とも戦ってみたい……自分がどこまで通用するのか試したい
血が熱く燃え、心が踊る
「……むっ?」
先行させていた部隊に追い付いた
何故彼等は立ち止まっているのか?
オーシャンの軍が待ち伏せしていたのか?
カルストはそう思って馬を走らせる
「どうした?」
「あ、カルスト将軍! これをご覧下さい」
「これは……」
カルストは目の前の崖を見る
ここには本来、巨大な橋が掛けられていた
その橋が有るからこそ、西方と東方は安易に往き来出来たのだ
その橋が無くなっている……いや、壊されていた
「……橋を作り直すのは」
「無理です! 1年以上はかかります!」
そうだろうとカルストは思う
元々あった橋も完成まで2年はかかったのだ
「……むむ」
勿論他にも道はある
しかしそこを通れば、時間がかかる
橋を渡れば1ヶ月で済む移動だが
他の道なら早くても3ヶ月はかかるのだ
「……持たんな」
用意した兵糧は橋を渡るのを前提にした量だ
余裕をもって4ヶ月分はある
しかし、これは橋を渡ったらの話だ
他の道を行けば、オーシャンにたどり着く頃には兵糧が尽きている
これでは戦えない……それどころか帰れない
道中で飢え死にしてしまう
兵はわからないがカルストには武人としての誇りがある
それゆえに民からの略奪という手段を選択肢から捨てる
「…………」
「どうしますか?」
聞く兵士
「1度帰還するぞ……兵糧を用意しなくてはな」
カルストは帰還することを選んだ
他の道を行くなら、大量の兵糧を用意すればいいだけだ
「…………時間稼ぎか」
カルストはそう呟くと不服そうに帰還して行った
・・・・・・・・・・
南方地方
そこにはオーシャンの同盟国ベススがある地方だ
「全軍! 突き進めぇぇぇ!!」
そう叫んだのは『リール』の将『ゴルグッド』だ
リールで1番の将と自称している
そんな彼だが、実力は本物である
突き進むリールの軍
迎え撃つのはベススの軍だ
「奴等を止めるぞ!!」
叫ぶゼルナ
ベススの領主である『ナリスト』の弟である彼はリールの軍に挑む
彼等が戦う理由は東方にある
リールはパストーレの領地を得るために、援軍の要請に応じた
ベススはそんなリールの目的を阻止するために戦う
リールが東方の領地を得る、そうなってしまってはベススは挟撃されてしまう
それは阻止しないといけない
それに……
「我が友の悲願の為にも! ここは通すなぁぁぁぁ!!」
ゼルナは滾っていた
カイトが東方を制圧しようとしている
友の悲願が果たされようとしているのだ
それを邪魔させる訳にはいかない
ぶつかり合うベススとリール
カイトの知らないところで、別の戦が開戦していた