第122話 パストーレとの激闘 5
合流してから数日経過した
パストーレからの襲撃を警戒しながら進軍していたが、襲撃は無かった
「見えてきたな……あれがトルリか」
大きい都だな……
「トルリの様子で、もう1つの疑問も解決しますね」
ルーツが言う
もう1つの疑問……パストーレの民が何処に行ったかだ
神隠し……ってのはあり得ないな
普通に考えて他の都に避難させているんだ
本命はパルンだが……もしかしたらトルリかもしれない
「パストーレの連中がどんな策を用意してるかわからないが……」
「それを看破するのが、私の仕事です……任せてください」
ルーツが言う……
そうだな、マルスヒ平原での雪辱も晴らしたいだろうし……ルーツに任せよう
「それじゃあ、話し合いでもするか……何か策があるか?」
「アレを使いましょう……パルン攻略まで取っておきたかったのですが……出し惜しみをしている場合ではありませんからね」
もう使うのか?
まあ悠長に構えてる余裕なんて無いからな、仕方ないな
その後、将で集まって話し合い
四方に布陣しトルリを包囲、そしてアレ使って一気に攻略を目指す
それで決まった
そうと決まれば早速行動! 善は急げだ!
・・・・・・・・・
ーーーバベルク視点ーーー
「バベルク将軍! オーシャン軍が現れました!」
兵からの報告
「そうか、方向は?」
「西です!」
「人数は?」
「見ただけで大軍です!!」
「そうか……ユルクルの予想通りだな」
なら、自分は己の使命を果たそう……
「兵達に伝えよ、策を実行すると」
「っ!? しかしそれは最終手段では? ユルクル様はどうしようも無いときに行えと……」
「うむ、そうだ……今がそのどうしようも無いときだ……明日にはオーシャン軍にトルリは包囲されるだろう」
「し、しかし! それではバベルク将軍が!」
「構わん……目的を見失うな、パストーレに勝利をもたらすのが、自分達の使命だ」
「っ! はっ!!」
兵は決心したのか走っていった
「……ふぅ」
自分は玉座に座る
『バベルク……君にトルリを任せる』
テリアンヌ様の命
『私がもっと強ければ……君達にこんな苦労を与えずに済んだのにっ!』
『テリアンヌ様……あなた様はそれで良いのです……あなた様の想いは我々にしっかりと伝わっております……ご安心を、必ず勝利を届けましょう』
「……ふっ」
我ながら、甘いことを言ったな……
「メルノユ様……テリアンヌ様……この忠義は……揺るがず……」
自分は剣を高く掲げて……己を鼓舞した
・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
さて、夜のうちに移動して、朝になった今……包囲は完了した
西の軍は
俺
アルス
レルガ
ルーツ
北の軍に
バルセ
ユリウス
ボゾゾ
ティール
南の軍に
ブルムン
マリアット
ペンテリウス
メット
東の軍に
メビルト
ゲルド
ルミル
レムレ
シャルス
となった
東はパルンからの援軍を警戒して戦力を多目にしている
そしてそれぞれの軍に1つずつ……これを用意した
「カイト様! 投石器の組み立てが完了しました!!」
そう投石器だ
またか! って思うかもしれないが……これは今までの投石器よりも少し改良したやつだ
今までのは運ぶのに苦労した為に、防衛にしか使えなかった
しかしこれは少し小型化し、更に分解して運べる様にしたのだ
うん、微妙に感じるかもしれないけど……実際に作って使う俺達からしたら、これはかなりの進化なんだ!
本当に苦労したんだぜ? 少しでも部品の大きさが違ったら組み立てられないし……
組み立ててもマトモに使えなかったりしたし……試行錯誤して遂に完成したのだ!
「兄さん、これで都を攻略出来るの?」
アルスが聞いてくる
「ああ、上手くいけば門も外壁も破壊できる……飛んでいく岩の威力は知ってるだろ?」
「うん……あれは当たったらまず助からないよね」
「そして、近くで使えば……都の中にも岩が届く……この意味がわかるよな?」
「……敵は籠城する意味がなくなる!!」
そうだ! 籠城していても敵の攻撃が届くとわかれば、パストーレの連中は籠城なんて止めるだろう
怯えて降伏する兵も出てくるはずだ!
「でもそれって民も巻き込むんじゃ?」
「それなんだよな……トルリに民が居たら間違いなく犠牲が出る……気にするなって言えたら楽なんだが……そこまで非情になれないのがな……俺の悪いところだな」
人を何人も殺してるのに……民を殺すのをいまだに躊躇っている……
これは戦だ、そんな甘い考えは捨てないといけない……なのに……
「僕は兄さんのそういう所が好きだけどね? 甘くていいと思うよ?」
「……ありがとな」
「うん……それに……非情が必要なら……僕が殺るから」
「それは……いや、そうならないように頑張らせてもらおう」
止めろと言いたかった……けど、アルスは覚悟を決めて言っているんだ
それを簡単に否定するわけにはいかなかった
そうしてる間に、他の軍からの準備完了の報告が届く
「よし! じゃあ行動開始だ! 蹂躙しようかぁ!!」
『おおおおおおお!!』
俺達は進軍を開始した
・・・・・・・
ーーーバベルク視点ーーー
「将軍! オーシャン軍が動き出しました!」
自分は西の外壁を登る
「来たか……他の軍も動き出したな……弓兵! 構えていろ!」
『はっ!』
射程内に入ったら射つ
少しでも数を減らそう
「むっ、止まった?」
オーシャンの軍が進軍を止めた……何をするつもりだ?
「将軍! 何か飛んで来ます!!」
「むっ? あれは……岩か!!」
ドスン!!
岩が外壁の手前に落ちる
「うわぁ!! な、なんだ!?」
「あんなのが飛んでくるのか!?」
兵達が動揺する
「噂には聞いていたが……成る程な」
マールマールやカイナスに攻められても勝つ筈だ……こんなものを受ければこちらの士気は下がる
「しょ、将軍! ど、どうしましょう?」
「…………」
考える……今のは多分威嚇だろう
次は当てにくる……外壁も、門も簡単に破壊される
そして都の中にも飛んでくるだろう……
……あれを破壊すればまだなんとかなるが……
「今の兵力ではそれは無理だな……」
どうやら、我等に勝ち目は無いようだ
それならば策にうつるまでだ
「実行する、急いで準備し、1部の者以外はパルンに逃げろ」
「将軍! 貴方様は?」
「城に戻る……」
「将軍……」
「1人でも多く生き延びよ、それがテリアンヌ様の願いだ」
「しかし将軍が!」
「…………」
自分は城に向かった
・・・・・・・
ーーーレムレ視点ーーー
ヒュン!
ドン!!
そんな音が戦場に響く
「これが投石器の……うわぁ」
ヘイナスやオーシャンでも投石器は見たけど……実際に使うのは初めて見た
「岩があそこまで飛んで行くんだ……こわ」
ルミルも呟く
「ふむ、メリアスト平原での戦いを思い出すな……」
メビルトさんが言う
「何があったんです?」
僕は聞く
「あの時、我輩はマールマールの将としてオーシャンを侵略するために攻めたのだ、しかし、メリアスト平原で投石器を使われてな……あの時の絶望感ときたら……」
顔を押さえるメビルトさん
「そ、そんなにですか?」
「目の前や側に落ちる岩、潰される部下達……響く断末魔……今でもたまに夢に出るくらいだ」
「う、うわぁ……」
トラウマになってませんか?
「あれ?」
僕はトルリの門を見る
「どうした?」
メビルトさんが聞く
「ちょっと待ってください……あ、やっぱり! 門が開きます!!」
「なに?」
僕がそう叫んで数秒後、トルリの門が開いた
そしてパストーレの兵達が突撃してくる
「ほう、籠城をやめて攻めに転じたか……なかなか胆が座っている……迎え撃つぞ!!」
メビルトさんの掛け声で全員が迎撃の準備をする
そして突撃しようとした時
「メビルト様!」
後方から兵が来た
「どうした!」
「後方からブライが攻めてきました!! パルンからの援軍です!!」
「なに! くっ……挟撃か!!」
「いつの間に……」
どうやって連絡をとったんだろ?
と、取り敢えずどうにかしないと!!
「後方にはゲルドとシャルスが居たな」
「はい! 現在ブライの軍と交戦しています!!」
「ならば我等はトルリの軍をこのまま迎え撃つ!」
「ゲルドさんの援護はしないのですか?」
ルミルが聞く
「あやつは簡単に殺られる男ではない、我輩達は目の前の敵を殲滅するのだ!」
そう言ってる間にトルリからの軍は側まで来ていた
もう話してる時間はない!!
「行くぞ!」
『はい!!』
そしてトルリの兵と交戦する
メビルトさんの剣が兵を3人同時に切り裂く
ルミルの斧が敵兵を斬る
僕は矢を放ち、騎馬兵を撃ち落とす
…………?
「敵将の姿がない?」
さっきから兵を殺してるけど……敵将の姿が見えない
見逃した? いや、もっと奥にいるのかな?
というか……兵達もなんかバラバラな感じがする……統一されてない?
なんか……この場を切り抜けようとしてるみたいな……
「レムレ!」
「うわっと!」
メビルトさんの掛け声で横からの敵の攻撃に気付く
僕は槍を避けて、矢を兵の首に向けて放つ
「ごぶ!」
倒れる敵兵
「ぼーとするな!!」
「すいません!!」
そうだ、ここは戦場なんだ
考えるのは後回し! 今は敵に集中するんだ!!
・・・・・・・・・
ーーーゲルド視点ーーー
「はっ!」
「ぬぅ!」
小生はブライと交戦する
ぶつかり合う槍
「くぅ! ゲルドめ! 邪魔をするな!!」
ブライの槍をかわす
「無理を言う、敵の目的を妨害するのは当たり前だ!」
小生の槍をブライは避ける
「うりゃぁぁぁぁ!!」
『ぎゃああああ!!』
少し離れた所でシャルスが敵兵を引き裂いていく
ふむ、兵長と聞いたが……なかなか強いな
「ぐぅ! むっ!」
「んっ! っと!」
小生の後方から敵兵が数人走り抜けた
むっ? 小生は素通りか? 仕掛ける好機だっただろうに?
「おお! お前達か!」
「ブライ将軍!」
敵兵がブライの側による
何か話しているな……うーむ……今仕掛けるのは卑怯か?
一応一騎討ちをしていた訳だが……
「そうか……バベルクめ……わかった」
ブライはそう言うと
「全員退けぇぇぇ!! パルンに戻るぞ!!」
そう言って走り出した
交戦していた敵兵も撤退を開始する
「えっ!? ちょ!?」
シャルスの戸惑う声
まあ仕方あるまい……小生も戸惑っているのだから
・・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「お! 門が開いたぞ!!」
トルリの門が開く
投石器の威嚇が効いたか?
「全軍進むぞ! あ、でも敵の矢がくる可能性もあるから慎重にな!」
俺達は進軍を開始する
「……どう思う?」
俺は側にいるルーツやレルガに聞いてみる
「降伏した……とは考えにくいですね」
ルーツが答える
「しかし、門を開く理由がわかりません」
レルガも答える
「……警戒した方が良さそうだな」
そしてトルリの門の目の前に到着した
「……敵兵は?」
「調べましょう、数人の兵を行かせます」
ルーツの合図で兵達がトルリに入る
数分後、兵達が戻ってくる
「門の側には誰もいません!!」
「……入ろう」
俺達はトルリに入る
「……ここにも民の姿は無さそうだな」
周りを見渡す……人気がない
「どうやら、パルンに避難させたようですね」
ルーツが答える
「…………」
レルガは周りを見ている
「兄さん」
「んっ? どうしたアルス?」
アルスが話し掛けてきた
「なんか臭い……」
「えっ? 臭うか?」
俺は自分の臭いを嗅ぐ
この数日、水浴びも出来てないからな……やっぱり身体を拭くだけだとな……あー風呂入りたい
「違うよ、なんか焦げ臭い……」
「……確かに」
アルスに言われて気付く
そう言えばなんか臭い
これは……
「……火薬ですね……この臭いは」
ルーツが言う
「何で火薬?」
俺が呟く
あれ? なんか嫌な予感が……
っ!!
「全員撤退!! すぐにトルリを出るんだ!!」
俺がそう叫ぶのと
ドオオン!
爆発音が響くのは同時だった
・・・・・・・・・
ーーーバベルク視点ーーー
「始まったか……」
自分は窓から外を見る
トルリの街のあちこちで爆発する
……大量の火薬を起爆したのだ……
火が拡がる……
「兵達よ……すまない」
火薬を点火した兵を弔う……
あの爆発だ……助かるわけがない……彼等は了承してくれたが……やはり申し訳ない
「だが……お前達のお蔭で、オーシャンの連中は炎をに包まれていく……兵達よ、お前達は英雄だ……」
自分はワイの栓を開ける
そして、ワインを窓から撒く
死んでいった英雄達に届くように願いながら
・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「ぐぅ!」
耳がキンキンする!
「ちっ! 街が燃えているな!」
やられた! 都を火の海にするとか正気かよ!
「それだけパストーレも必死って事か!!」
皆は無事か!?
アルス! ルーツ! レルガ!
「まさか他の奴等も……」
「兄さん!!」
「アルス! よかった! 無事だったのか!」
「ちょっと耳が痛いけどね! 兄さんは!」
「俺も耳が痛いくらいだ!」
アルスの全身を見る
少し煤が付いてるが傷は無さそうだ
良かった……本当に……
「カイト様……」
「ルーツ! って大丈夫か!」
頭から血を流すルーツ
「ええ、少しぶっ飛ばされて壁に激突したくらいです」
それをくらいとは言わない!!
「おらぁ!」
「うぉ!? レルガ!!」
近くの瓦礫からレルガが飛び出してきた
「カイト様! 無事みたいですね! ルーツは……無事だな!」
いや血がダラダラだからな!?
「取り敢えずトルリを出よう、それから怪我人の手当てだ!」
俺は兵達に指示を出す
無事な兵は負傷した兵を救助してトルリを出る
アルスがルーツを連れてトルリを出た
「トルリの火はどうしますか?」
レルガが聞く
「自然に消えるのを待つしかないだろ」
水を大量に用意していたならともかくな……
取り敢えずトルリから離れて……
ドオオン!
また爆発音がする
「取り敢えず早く出るぞ!」
「はっ!」
俺とレルガは負傷した兵を運び終わるのを待ってからトルリを出よう門に向かう
ヒュゥゥゥゥ!
「んっ? なんだこの音?」
「カイト様!!」
レルガに腕を掴まれる
「っと!」
俺は立ち止まる
その瞬間に
ダァン!!
目の前に家が落ちてきた……家!?
「うぉぉぉぉぉ!?」
「カイト様! ご無事ですか!?」
「あ、ああ……助かったレルガ……」
レルガが止めなかったら潰れていたな俺……
「先程の爆発で飛んできたのでしょうね」
レルガが言う
「そうだな、気を取り直してトルリからの脱出を……」
……あれ? 目の前には飛んできて潰れた家
綺麗に門を塞いでるな……
あれぇ? どうやって出る?
「……ここは無理ですね」
「そうだな、外壁を登る階段も壊れてるし……」
他の門に向かうか……
この火の海を歩かないといけないのか?
……普通に考えて絶対絶命だな!?
「んっ? カイト様……」
「どうした? んっ?」
俺はレルガの視線を追う
あれは……トルリの城か……
あんな爆発があったのに無傷か……頑丈だな
「……なあレルガ」
レルガを見る
「はい」
「他の門を目指すのと……火が消えるまで安全そうな所に避難するの……どっちが生存率が高いと思う?」
「そうですね、闇雲に門への道を探すより、真っ直ぐ城を目指した方が助かるかもしれませんね」
ならやることは決まった
「城に行くぞレルガ! 城の中で窓を閉めたら煙も吸わなくてすむ」
「はっ!」
レルガは返事をする
そして
「失礼します!」
「えっ? おっと!!」
レルガに抱き上げられる、てか肩に担がれた
「カイト様は口を塞いでいて下さい、煙を吸わないように!」
「あ、ああ!」
ここは従っておこう……
お前も無理はするなよ?