第121話 パストーレとの激闘 4
ーーーカイト視点ーーー
「以上が報告になります!」
「そうか、わかった」
俺はリュウリとペルールの中間地点にある森
そこに作った陣の中で兵からの報告を聞いていた
「第1軍団はリュウリに到着……第2軍団は今夜ペルールに襲撃を仕掛けるか」
俺は見上げる
木々でわかりにくいが……暗いのと枝の隙間から星が見えるから、今は夜だ
多分レルガ達は夜襲をもう仕掛けてるな
「さて、どうなるか……」
リュウリとペルール……この2つの都が手に入れば、パストーレ攻略はかなり楽になる
2つの都を拠点にすれば、兵達もゆっくり休めるだろう
士気も上がるし、敵襲も対処しやすい
良いことばかりだ
「カイト様、少々宜しいですか?」
「んっ? マリアット? どうした?」
俺はマリアットを見る
ガシャ! って音がするくらいの重装備の彼女は、見た目にもわかる通りパワータイプな人間だ
彼女の振るモーニングスターはかなりの威力だ
「付近の巡回をしている時に猪を狩りました、兵に振る舞いたいのですが」
「ああ、構わないよ、皆で食べててくれ」
「カイト様も食べますか?」
「出来たら少し貰おうか」
猪か……豚とはまた違う味なんだよな……是非とも鍋で食いたかったが……石狩鍋ぇ……
「では調理にうつります」
そう言ってマリアットは歩いていった……
そっちの方に猪を置いてんのか?
「カイト様」
マリアットと入れ替わりでメビルトがやって来た
「んっ? どうしたメビルト」
お前も何か狩ったのか?
「少し聞きたいことがあったので……宜しいですか?」
そう言って俺の前の地面に座る
「聞きたいこと? 何をだ?」
なんか不思議な事があったか?
「カイト様は今のパストーレをどう思っていますか?」
「……?」
俺は首をかしげる
「それは、どういう意味で聞いているんだ? 戦力的な意味か?」
俺は椅子から立ち上がり
メビルトの目の前に座り、目線を合わせる
「いえ……率直に聞きましょう、テリアンヌ・パストーレをどう思っていますか?」
「……ああ、そういう」
テリアンヌ・パストーレは2年前にメルノユ・パストーレから領主を継いだ
ハッキリ言って、テリアンヌの情報は殆んど無い
まだ2年だし、戦もしてなかったからな……
どんな人物か、武芸はどうか、知略はどうか
全く情報が無い
まあ、ゲームでの知識ならあるんだがな……
しかし、ゲームでのテリアンヌは23歳で領主になっていた
これはメルノユが寿命を迎えるからだ
そう、メルノユが隠居することなんて無かったのだ
そのメルノユが隠居してテリアンヌは15で領主になった……今は17歳か?
それはつまり……
「テリアンヌはメルノユよりも優秀なのかもとは思ってる」
「……メルノユよりもですか?」
そうだ、メルノユ・パストーレは領主としては優秀な人物だった
外交の腕が良く、他の領だけではなく、他の大陸とも繋がりを持っていた
だからゲームでは、他の領よりも早くに別大陸の文化や技術が手にはいった
異文化交流って言うのか? それが得意だったのだ
言葉で言ったら簡単そうに聞こえるが……これは本当はかなり難しいことだ
新しい事や今まで無かった事を受け入れる……それをどう民や配下に納得させるか……
シャンバルや香辛料の流通でも俺は苦労したんだ……
メルノユがどれだけ優秀なのかよく分かる
そんなメルノユが隠居を決意するほど……つまりテリアンヌはメルノユ以上の才があるって事だな
「メビルト、俺は兵力差があるからって油断したりはしない 逆に警戒を強めている」
「……ふむ」
メビルトが顎に手を当てる
「奴等がどんな策を使ってくるかはわからない……でもな、追い詰められた相手がどれ程厄介な存在か……それは理解してるさ」
だってさ……
「俺達がそうだったからな♪」
俺は微笑む
「ふ、ふふふ、そうですな、いやー失敬、我輩としたことが……貴方に限って慢心などあり得ないと思いはしましたが……」
そうか、メビルトは俺に警告しようとしたんだな
『兵力差があるから楽勝♪』なんて答えてたらお説教でもしようとしてたかな?
「いいさ、俺は自分の経験があったから言えたが……普通ならこんな大勢力を連れていたら慢心するからな」
20万の兵力を連れてる俺TUEEEEとかさ
でもそれは勘違いでしかない
いくら大量の兵が連れていても、俺自身は強くないんだ
敵が突撃でもしてきて、乱戦になったら……
敵の矢が届く場所に立っていたら……
目の前まで敵が来たら……
俺はアッサリと殺されるだろう
……弱いからな
「だから、俺の護衛は任せたぞ?」
「ええ、任されましょう……では早速果たしますかな」
そう言ってメビルトは双剣を抜いて立ち上がる
俺も剣を抜いて立ち上がる
「おい! 降りてこい!! 居るのはわかっているぞ!!」
そして真上の枝に向けて叫ぶ
「……ちっ、バレてたか」
そう言って1人の男が飛び降りた
スタッ
メビルトの後ろに着地する男
メビルトはすぐに向きなおし、男を睨む
「貴様は……マーレス!!」
「よぉメビルト」
マーレスが剣を抜く
「なんだ? 俺を闇討ちしようとしたのか?」
「まあな、お前を殺せば俺達の勝ちだろ?」
「他の奴が総大将になるだけだろ?」
「ならそいつも殺すさ」
マーレスが踏み込んで一気に斬りかかって……
「させん!!」
ギィン!!
メビルトが止める
「ちっ、邪魔だな」
剣を振るうマーレス
俺から見ても、マーレスの剣は一撃で相手を殺せる、それがわかるほど鋭い
「ふん!」
それをメビルトはしっかりと捌く
何て言うんだ? 流れるように? マーレスの剣を無理矢理弾くって言うより……こう……スーとして……ああ、もう! どう表現したらいいのかわからない!!
でも、これだけは言える……
俺は自分の身が狙われるって言うのに
「おぉ……」
2人の戦いに見惚れていた……
綺麗だと思えたんだ
「くっ!」
マーレスが後ろに跳ぶ
ヒュン! とマーレスの頭があった所に矢が飛んでいった
「カイト様! 無事ですか!」
レムレが駆けつけてきた
「レムレか! 陣内の状況は?」
「少人数での夜襲を受けました! 被害は兵が7人ほど殺されました! 19人が軽傷です! この男以外は……」
レムレがマーレスを狙いながら俺に近寄り報告する
その途中で……
ドゴォ!
「あんぎゃ!!」
ベチャ!
俺の後ろから人がぶっ飛び潰れる音
「今、全滅しました!!」
「そ、そうか……」
マリアットだな……今の兵を殺ったの
「ちっ! 闇討ちは失敗か……仕方ないな!!」
「むっ!?」
マーレスは振り返って走り出す
メビルトが追う
「逃がさない!!」
ヒュン! っとレムレが矢を放つ
矢はマーレスの後頭部に迫る
「っと!」
パシン!
「なっ!?」
マーレスは走りながら剣で矢を見ずに叩き落とした
「っは!!」
そして木に駆けのぼり
「じゃあな!!」
枝から枝に跳び移って逃げていった……
す、すばしっこい……
「くぅ……」
「に、逃げられた……」
悔しそうなメビルト
驚いているレムレ
「……逃げられたのは仕方ないな……気を取り直そう!
メビルト! 俺の護衛を頼む! レムレ! マリアットと一緒に兵に陣を片付けさせろ!」
「どうするんですか?」
レムレが聞いてくる
「森を出るぞ、俺達がここに居るのはバレていた、この森は安全じゃないな」
マーレス達が夜襲を仕掛けてきたが……俺達が陣を張ってからやって来たとは考えにくい
最初からこの森に潜んでいたんだ……
それはつまり……
「俺達の考えが読まれてる」
これはヤバい……ババ抜きで例えるなら相手に手札を見せながらプレイしているような物だ
つまり手の内がバレているって事だな
今やってる策は中止した方がいい
「全員を集めるべきかもしれないな……」
あーもう! 本当に厄介だな!!
・・・・・・・・
翌日、陣を森から出た所に移し、他の軍団に向けて伝令を行かせた
昼頃には最初からこっちに向かってたのかレルガ達第2軍団が合流してきた
「つまりペルールはもぬけの殻だったんだな?」
「はい、恐らく敵は時間稼ぎを目的にしていたとゲルドが」
レルガから報告を聞く
「…………」
都と僅かな兵を犠牲に時間を稼ぐ……
いったい何のためにそんな事を?
・・・・・・・・・
更に翌日、他の軍団が合流した
そしてバルセからリュウリの事を聞かされる
「リュウリでもか……」
「……も?」
「ペルールも似たような状況だったらしい」
「ペルールもですか? むぅ……」
考えるバルセ
「ええい、埒があかない! 将達集合!! 全員を集めてくれ!!」
俺は兵に将を呼ばせる
将達が集まる
パーツとケーニッヒ以外が集まる
パーツはリュウリ、ケーニッヒはペルールの防衛を任せているからここにはいない
取り敢えず、集まった将達に今の状況を話す
リュウリとペルールには民が1人も居なかった事
俺がマーレスの夜襲を受けたこと
そしてここで新しい情報が
「あの……国境を越えてから誰かパストーレの民を見ましたか?」
ペンテリウスのその発言で誰も見てないことがわかる
将だけではない……兵達も見ていないのだ
「こんな事ってあるの?」
アルスが呟く
「いえ、流石に1人も見てないって事は初めてですね」
ティールを始めとして長く戦ってる将達が同意する
「訳がわからない」
俺は頭を抱える
「と、兎に角疑問を纏めましょう」
ルーツが言う
「大きく分けて疑問は2つ」
ルーツは人差し指を立てる
「1つ、何故リュウリとペルールを捨ててまでパストーレは時間稼ぎをしたのか、2つ、パストーレの民は何処に行ったのか……先ずは1つ目から話しましょう」
皆が思い思いの意見を言う
「最後の足掻きとか?」
「カイト様を襲撃したんだよな? その為の時間稼ぎじゃ?」
「小生は何か策があると思うのですが……うーむ」
駄目だ、さっぱりだ!!
その時だ
「……援軍を待ってるとか?」
『…………!?』
全員の視線が1人に集まる
「うぇ!?」
「どう言うことだ? 答えてくれるか? ユリウス」
ユリウスが注目が集まったことに戸惑う
しかし、バルセに聞かれて『コホン』と咳払いをしてから
「いや、僕達の時みたいに援軍を要請したんじゃ無いかなって……」
「何処に?」
アルスが聞く
「……うーん……何処かはわからないけど……西方か南方の領に要請したんじゃないの? ほら、領地を少し譲るからって言って」
「…………そうか」
ルーツが地図を拡げる
「…………西方の『シルテン』、南方なら『ベスス』……いや、ベススは同盟国だから違うな……次に近いのは『リール』!! この2国なら東方の領土が欲しい筈だ!!」
シルテン……西方地方でも東方に1番近い領だ
西方は西方同盟がある……これは『お互いに協力して生きていこう』って同盟だが……言い換えれば『お互いに争って領土を奪い合うな』って同盟だ
少しでも領土を増やしたいってシルテンが考えていたなら……東方の領土が欲しいはずだ
そしてリール! ベススと何回も戦をしている領……
もしリールが東方の領土を手にいれたら、ベススを挟撃することが出来る
喉から手が出るくらい欲しいはずだ……
「他に頼れる領なんて東方には無いしな……」
レルガが頷く
「くっ! どうする……」
すぐに戻るべきか?
それとも……いや、落ち着け……冷静に……
「…………」
俺は目を閉じる
全員の視線を感じる
「…………オーシャンに伝令を行かせて、俺達はパストーレ攻めを続けるぞ」
「ヒヒヒ、いいので?」
愉快そうなブルムン
「ああ、オーシャンにも兵は居るし……それに良く考えたらレリスが居る」
俺は自信満々に答える
「レリスなら何とかしてくれるさ」
もし危なかったら伝令を送ってくるさ
「では、このまま全軍でトルリを目指しますか?」
ペンテリウスが聞く
「ああ、パストーレの都も残り2つだ……総力で一気に攻略しよう」
そうと決まればさっさと進軍だ! 夜も進軍するぞ!!
俺達は早速行動を開始した
・・・・・・・・・・・
ーーーパルンーーー
「そうか、リュウリもペルールも落ちたか……カイトの暗殺も失敗」
『申し訳ありません』
テリアンヌに頭を下げるペンクルとナルール、そしてマーレス
マーレスは戻ってきたばかりだ
「いや、構わないよ、君達が生きて帰って来てくれた……それだけで充分だ」
冷静に話すテリアンヌ
「さて、トルリは?」
「はい、準備は万全だと『バベルク』からの報告が」
「そうか……シルテンとリールは?」
「援軍を出すとの返事でしたし……恐らく2週間が経つ頃にはオーシャンを攻めてるかと」
「2週間……それまで耐えるしかないか……」
軍師のミーティと話すテリアンヌ
すると、テリアンヌは立ち上がり、窓の側に行く
そして、窓から街を見下ろす
「…………私は守りたい……この街も、君達も……」
「ありがたい言葉です」
ナルールが答える
「……勝ちたいな」
「勝ちましょう、その為に準備してきたのです」
ペンクルが答える
「ああ…………」
テリアンヌはその後、ずっと外を見ていた
マーレスはそんなテリアンヌをずっと見ていたのだった