第119話 パストーレとの激闘 2
ーーーユリウス視点ーーー
僕達はパストーレの都であるリュウリを目指して進軍する
「ここからリュウリには何日くらいかかるんだ?」
僕はティールに聞いてみる
「そうですね、私もあまり詳しくはありませんが……3日……いや4日程ですかね」
少し考えてから言うティール
「リュウリにはどれだけの兵が居ることやら……」
「そうですね……兵を均等に分けているなら、2万程だと思います」
パストーレは4つの都を持っている
「リュウリとペルールを攻略すれば……」
「オーシャンの勝利は確実ですね、首都であるパルンの攻略を今回は諦める事になっても……『トルリ』まで奪っていれば、もうパストーレはオーシャンに挑む事は出来ませんし」
「そうなったらパストーレも降伏するか……」
もし戦を仕掛けてきても……奪った3つの都で迎撃すればいいし……オーシャンの都に向かってくることは出来なくなるな
「ええ、ですので正直今回の戦は楽ですね……元々兵力差もありますし」
珍しく余裕そうなティール
「油断はしない方が良いぞ」
「バルセ様……」
叔父上が振り返って言う
「確かに兵力差は大きい、士気も高い……だが、そんなものはいくらでも覆せる」
「は、はい……」
「お、叔父上、そこまで気負わなくても……」
「いや、気負え、常に警戒し……挑む」
叔父上は周りを見渡す
「パストーレにはどの様な隠し球があるかわからん、それに将達も必死に挑んでくる……必死な敵が……どれほど厄介かはわかるだろ?」
「はい、そうですね……申し訳ありません」
気まずそうなティール
「てき、つぶす、ブライ、ころす」
ボゾゾが言う
や、殺る気が凄い……
「パストーレの将だと警戒するべきはブライ?」
僕は叔父上に聞いてみる
「うむ、ブライ、マーレス、ユルクル……それに『ペンクル』……この4人は警戒するべきだろうな」
「ペンクル? 誰ですか?」
聞き覚えの無い名前
「そうか、ユリウスは知らなかったな……ペンクルはブライの息子だ、ティールなら更に詳しいだろう」
「そうなのか?」
僕はティールを見る
「ええ、彼とは何度か戦いましたね、ブライやマーレスの名前に隠れ勝ちですが……彼も充分、名将と呼べる存在です」
ティールの手綱を握る拳がギュッとなる
「今度こそ……決着をつけたいですね……」
も、燃えている……
「辱しめられたらしいからな……」
叔父上は何か知ってるみたいだけど……
話す気は無さそうだ
ティールも話そうとしないし……
なら聞かない方がいいな、聞かれたくない話は誰にでもある
いくら親しい間でもな!
・・・・・・・・・
さて、進軍して4日
数人の兵に偵察させて、リュウリの都を確認した
「妙だな……」
リュウリがギリギリ見える場所で布陣した僕達
陣内で叔父上は呟いた
「どうしたのですか?」
僕は叔父上に聞く
「ここまで、パストーレからの襲撃はなかった、普通なら1度や2度は防衛の為に仕掛けるのだがな」
「……確かに」
言われてみればそうだ
僕だってオーシャンが攻めて来たときは出撃したし……
「リュウリに敵が居るのは確認済みでしたよね?」
ティールが言う
「うむ、兵の姿は確認できた、敵将はわからんがな」
「……どう、せめる? もん、こわす?」
ボゾゾが大きなハンマーを取り出した
それで門を壊す気か?
「ふむ、様子を見たいが……悠長には構えられないな……ティール、明朝に数千の兵を連れてリュウリに近付いてもらえるか?」
「パストーレが出撃してくるか見るのですね?」
「うむ、迎え撃つのか、籠城に撤するのか、確認しておきたい」
「叔父上、僕も行っていいですか?」
「むっ?」
叔父上が僕を見る
少し考えて……
「そうだな、ではユリウスにも任せてみよう」
「よっし!!」
そして叔父上は近くの兵を呼ぶ
「ブルムン殿に後方で待機してもらうように伝達を頼む」
「はっ!!」
兵はすぐに出発した
「ではユリウスとティールはもう休んでくれ」
「えっ? いいの?」
僕は叔父上を見る
「うむ、朝早くに出てもらうからな、早めに休め」
そう言われるならそうするけど……
……なんかまだ子供扱いされてる気がするなぁ
・・・・・・・・・・
翌日
日が昇り始めた頃に僕とティールは出発した
まあ、馬なら陣からなら30分くらいでリュウリに到着するかな……そんな距離だし
「ユリウス様、少し肩の力を抜いてください」
「あ、ああ」
いけないいけない、冷静に冷静に……オルベリンに鍛えられたんだ
昔とは違うって叔父上達に見せてやらないと!!
……あ、こう考えるのが駄目なんだよな……落ち着け僕
そうしてる間にリュウリに近付く……
迎撃してくる気配はない
「全軍止まれ!!」
ティールが止める
そしてリュウリの様子を見る
リュウリでは外壁の兵達が僕達を見ている
「……出撃してこない……外壁の兵は少ないな」
ぶつぶつと呟きながら確認していくティール
「どうする? 弓兵に射たせる?」
「もう少し近付かないと厳しいですね……しかしこれ以上近付いたら」
「射ぬかれると……」
高低差があるからな、射程が違う
「んっ? 誰か出てきたぞ?」
外壁の兵の後ろから、立派な鎧の男が現れた
見た目で将だとわかる
あれが、リュウリを任されてるパストーレの将か
「っ!? あいつは!!」
ティールが動揺してる
「ティール? どうした?」
ティールの身体が震えてる
怯えてる? ……いや、違う、ティールの表情は怯えてる表情じゃない……これは、怒っている表情だ
怒りで震えてる
「へぇ、オーシャンから来たのは誰かと思ったら、ガガルガの負け犬共じゃないか!」
パストーレの将は愉快そうに言った
「ペンクル!!」
ティールが叫ぶ
あれが、ペンクルか……うーん、見た目で見ると……歳は30くらいか?
「なんだ? ティールお前まだ軍に居たのか? 昔言ったよな? お前みたいな女は戦場にはいらないってよ」
「っ!!」
明らかに挑発だとわかるペンクルの発言
ティールの怒りが増してるのがわかる
「出てこいペンクル!! 私の槍で、今度こそ殺してやる!!」
「断る、そんな兵を連れて来て、後方に控えさせてる奴がマトモに戦えるのか? 邪魔されるのが目に見えてる……まあ、一騎討ちなんてしたら、また俺に負かされるだけだもんなぁ!! また、地べたに引きずり下ろされたいかぁ?」
「きっさまぁぁぁぁ!!」
怒りに任せて槍を投げようとするティール
「落ち着けティール! 槍が届くわけないだろ!」
僕はティールを制止する
「んん? お前、まさかユリウスか?」
ペンクルが僕を見る
「ああ、ユリウス・ウィル・ガガルガだ」
「噂通り弱そうだな!! オーシャンとの戦に負けたのも、お前が原因らしいな!!」
『ハハハハハ!!』
ペンクルがそう言うと、外壁のパストーレ兵達が笑う
「貴様! ユリウス様も侮辱するか!!」
「だから落ち着けって……」
「こふっ!」
僕は槍を反対に持って、持ち手側の方でティールの脇腹を小突く
そしてペンクルを見る
あの挑発……昔の僕だったら乗ってたな
「確かに、僕が未熟だったからガガルガはオーシャンに負けた、それは否定しない」
思い出すあの時の戦
ゲユ砦の防衛戦
リユの都での籠城戦
……僕がもっと将として成長していたら、ガガルガは負けなかった
「でも、それはそれだ、ガガルガという領は滅んだけど……人は皆生きている! だから僕は今に満足してるさ!」
槍をペンクルに向ける
「なあペンクル! そうやって口ばっかり動かしてないでさぁ、出てこいよ! それとも、怖くて出てこれないのか?」
「…………」
「そうだよなぁ、なんか昔はティールに勝ったらしいけど、今はティールの方が強いし、何だったら僕でも勝てそうだもんなぁ!!」
「っ……言うじゃないか!!」
ニヤリと笑うペンクル
「出てこいよ! パストーレ!! おい! 皆も言ってやれ!!」
僕は兵達に言う
「どうしたぁ! 怖くて動けないのかぁ!」
「パストーレの奴らは臆病だなぁ!」
「やーい! やーい! お前のかーちゃんでーべーそー!!」
最後のはただの悪口じゃないのか?
「ユリウス様、申し訳ありません」
「あ、ティール落ち着いたか?」
「ええ、もう、大丈夫です」
ティールはペンクルを見る
「出てきなさいペンクル、それとも……女に負けるのが怖いのですか?」
調子が出てきたなティール
「…………くく、言ってくれるじゃないか!! 乗ってやるよ!!」
ペンクルが外壁の向こう側に消える
そして門が開き、ペンクルだけが出てきた
「そうやって言うからには、一騎討ちで戦うんだろうなぁ……ええ! ティール!!」
そう言って槍を振り回す……んっ? あれは槍なのか? 先端が剣みたいな……
「偃月刀……そう呼ばれるジュラハル大陸の武器です」
ティールは馬から降りる……ペンクルが馬に乗ってないから合わせたな
「ユリウス様、行ってまいります」
「ああ、ティールなら勝てるさ」
俺はティールを見送る
・・・・・・・・・
ーーーティール視点ーーー
私は歩く
前方にはペンクルが立っている
思い出す……あれは将になったばかりの頃
ガガルガはパストーレと戦をしていた
戦況はガガルガが優勢だった
しかし、パルンから援軍として出撃してきたブライとペンクル
親子の将に戦況は覆された
私はペンクルと戦って……敗北した
地面に倒れた私に偃月刀の刃を向けるペンクル
少し私を見ていたかと思うと
『はぁ……』
溜め息を吐いて去ろうとした
『なっ! 何故殺さない!!』
私は叫んだ、情けをかけられた……そう思ったが
『お前みたいな弱い女を殺したら、俺の名が汚れる、さっさと軍から退いて男に媚びてろ!』
そう言われた
『ふ、ふざけるなぁ!!』
私はペンクルに叫ぶ
それしか出来なかった……
『くっ! 殺してやる……私を生かした事を……必ず後悔させてやる!!』
屈辱だった……
そんな相手と再び対峙する
「少しは楽しませろよ?」
構えるペンクル
「そんな余裕は与えませんよ……」
私も構える
そして……
「ピー!!」
上空から聞こえた鳥の鳴き声
これが合図になった
「はぁ!」
「ふん!」
ギィン!!
私の突きをペンクルが弾く
「せやぁ!!」
ペンクルは偃月刀を振るう
狙いは私の首だ
「ふっ!」
咄嗟に脚を開いて上半身低くする
私の頭上を偃月刀が通り過ぎる
即座に腰に力を込めて槍を突き出す
狙いは左の太腿!!
「っと!」
ペンクルが脚をずらして
ガッ!
鎧で槍を弾く
そして左手で槍を掴もうとする
その前に槍を引く
「へぇ、昔よりは良い動きをするようになったな」
感心しているペンクル
「貴方は弱くなったのでは?」
「くくく、余裕だな?」
偃月刀をクルクル回すペンクル
仕掛けてくる?
………………
「はっ!」
ペンクルは私の胴体を切断しようと偃月刀を身体全てを使って振るう
「っ!」
受け止めるのは危ない、前に出たら棒に当たって体勢を崩される
後退しても射程外には出れない
伏せても今度は避けきれない
それなら!
「はぁ!!」
跳ぶ!!
「なっ!?」
ただ跳ぶだけじゃない
ペンクルに向かって跳ぶ!!
偃月刀が私の下を通り過ぎる
私は跳んだ勢いを利用して槍を突き出す
「ちぃ!」
刹那で槍を避けられる
私は着地する
私とペンクルの位置は人1人分の距離だ
この距離なら、偃月刀の刃は当たらない!
今なら棒の部分に当たっても体勢を崩される事はない
偃月刀は思いっきり振るからこそ威力を発揮する
この距離なら振れない!!
私は槍を短く持ち
「はぁ!」
「くぅ!」
ペンクルの喉元を狙って突く
ガッ!
しかし偃月刀の棒で防がれる
だが……ペンクルはこの己の不利を理解してるようだ
「ちぃ!」
表情にさっきまでの余裕が無くなった
さて、どうする?
今、私の槍はペンクルの偃月刀で防がれている
しかし、弾かれてはいない……このまま押すか?
それとも一旦離れて一気に踏み込むか?
ペンクルが何かする前に次の手を……
ドスッ!
「うっ!?」
左肩に痛みが走る
「はぁ!」
「きゃあ!」
そしてペンクルに振り飛ばされた
後ろに倒れるが、すぐに立ち上がる
「…………」
ペンクルは私を見ているが動かない……今ので偃月刀の射程になったというのに……
ズキズキ痛む左肩
「……くっ!」
見てみると矢が刺さっていた
……射たれたのだ……外壁のパストーレ兵に
誰かは確認する余裕はない……ペンクルを警戒しなくては
「……止めだ、興が醒めた」
「なに!?」
ペンクルはそう言って構えをといた
「おい! 一騎討ちの邪魔をするんじゃねぇ!!」
そう言って外壁の兵の1人に叫ぶ
あいつが射ったみたいだ
「し、しかし……」
兵が怯む
「一騎討ちの助太刀をされるのはな! 俺にとっては侮辱だ!!」
激昂するペンクル
「おい! そいつを落とせ!!」
『はっ!!』
「ひぃ!?」
3人の兵が射った兵を捕まえ
「お、お助けをペンクル様!! う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
グシャ!
外壁から落とした
あれは……即死だ
「ちっ! ティール! 次は最初から全力だ戦ってやるよ!!」
そう言って彼はリュウリの門をくぐった
閉じられる門
「…………」
私はまだ理解できてない頭で、ユリウス様の所に戻った
「ティール! 肩は大丈夫か!?」
「ユリウス様」
駆け寄るユリウス様
「えっと、こんな時はどうするんだっけ? 矢を抜くんだっけ?」
「落ち着いてください」
全く……負傷した私より慌ててるじゃないですか
さっきの冷静さはどうしたのですか?
取り敢えず矢を抜いて……
「お、落ち着け……るかよ!! ああもう! 早く陣に戻るぞ!」
「わかりましひゃあ!?」
ユリウス様に抱き抱えられる
「ちょ!? ユリウス様!?」
「怪我人なんだから動くな!」
そう言ってユリウス様は私を抱き抱えながら馬に乗る……器用ですね!?
「ティール! 傷口を押さえとくんだぞ!」
「は、はい!!」
そして馬を走らせる
あ、足の力だけで馬に乗ってませんか!?
た、逞しくなられましたね……
こうして私達は陣に戻りました
軍医に傷を縫わせて、私の治療は終わりました
……大した傷では無かったんですけどね
全く……ユリウス様は……
・・・・・・・・・・
ーーーユリウス視点ーーー
「ペンクルが守っていたか」
「はい」
僕はリュウリの事を報告する
「しかし、1人で出てくるとは……ふむ」
考える叔父上
「もしかしたら……兵が少ないのかもしれないな」
「兵が?」
「うむ……試してみるか」
叔父上は兵を呼ぶ
「ブルムン殿に、リュウリの北側に布陣してくれと伝達を頼む」
「はっ!!」
「?」
僕はよくわからなかった
翌日には第4軍団がリュウリの北に布陣した
そしてそれから更に2日後
「バルセ様! 外壁の兵が居ません!!」
「ふむ、予想通りか? ブルムン殿に共に進軍すると伝えてくれ」
「はっ!」
兵がブルムンの陣に向かう
「ユリウス、行くぞ」
「あ、はい!」
僕と叔父上、そしてボゾゾの3人と20,000の兵でリュウリに向かう
ブルムンの陣からも出陣するのを確認して、足並みを揃えて進む
リュウリの目の前に到着した
リュウリからの反応はない
「ボゾゾ」
「がぁ!!」
ドゴン!!
ボゾゾがハンマーを振って門を殴る
数十回門を殴り、他の兵と交代して門を殴り続ける
敵の反応はない
2時間くらい経った頃かな
遂に門が壊れた
僕達は突入する
「やはりか……」
叔父上は呟く
「誰も居ない?」
僕は周りを見渡す
誰も居ないのだ
敵兵も、住んでいたであろう民も
本当に誰も居ないのだ
「どうやら、パストーレはリュウリを捨てたようだな……」
叔父上はそう言って、兵に指示を出す
北門の開門、物資の捜索、人の捜索、陣に居るティールや兵にリュウリに来るようにと
ブルムン達が合流してリュウリを調べる
そしてわかったのは
「僅かな食料くらいか」
「はい! 畑などは燃やされていました!」
「建物も昨夜の内に壊せるだけ壊した後がありました!」
「これで間違いないな」
兵の報告を聞いて頷く叔父上
「ヒヒヒ! リュウリを捨てるとは! 随分と余裕だな!」
ブルムンが言う
「取り敢えずカイト殿に報告をするか、手が空いてるものは出来る限り建物の修理だ! ここを拠点とするぞ!」
叔父上の指示で兵達が動く
こうして、僕達はリュウリを攻略した……
うーん……なんかモヤモヤするなぁ……