第115話 『親子』の絆 1
ーーーユリウス視点ーーー
カイト様達が視察を終えて帰って来た
そして僕はカイト様に暫くガガルガに帰っていいか聞いてみた
「うん? ……まあ、仕事も落ち着いてるし……構わないぞ?」
そんな訳で許可を貰って、僕はガガルガに向かっていた
「それで? なんで僕達も誘われたんだ?」
アルスが馬で並走させながら聞く
「心細いから!!」
僕はハッキリと答える
今、ここに居るのは僕とアルス
そしてレムレとシャルスだ
ティールとルミルちゃんはオーシャンに残ってる
都合が合わなかったのだから仕方ない
「シャルス、大丈夫?」
「平気平気!」
シャルスはレムレの馬に相乗りしてる
怪我はだいぶ癒えたけど、走るのは厳しいみたいだからな
さて、何で僕がガガルガに向かっているか
それは叔父である『バルセ・クッツ・ガガルガ』と話し合うためだ
叔父上の事を想っての事とはいえ、恩人に怒鳴るなんて事をしてしまった
その事を……謝りたいから向かっている
出来ればパストーレとの戦の前に済ませたかった
いつ死ぬかわからないからなぁ
「ユリウス、あまり思い詰めないでよ?」
レムレから言われる
「ああ!! わかってる!」
僕は返事をして馬を走らせる事に集中する
・・・・・・・
夜になって周りが暗くなる
僕達は野宿の為に焚き火を点けたりする
「それじゃあ、見張りは2時間で交代な、ユリウス、レムレ、僕の順番で交代しよう」
アルスが30分の砂時計を取り出す
因みにシャルスは見張り免除だ
まだ完治してないしな
「それで、ユリウスはバルセと何を話すつもりなんだ?」
アルスが聞いてくる
「ま、まぁ……先ずは怒鳴った件の謝罪かな」
それが最初だ
「うーん、謝る必要は無いと思うんだけどなぁ」
レムレが言う
「いや、謝るべきだって……叔父上って結構凹みやすいし……落ち込んでる可能性が……うぅ、気が重い」
「気にしすぎじゃね?」
シャルスが言う
「オイラも良くおじさんとは喧嘩したりしたけどさぁ、そんな何日も引きずらねえぞ?」
「お前が単純なんだろ?」
「お前が複雑なんだよ」
「猫!」
「軟派野郎!」
………………
『やんのかこらぁぁぁぁ!!』
「座れ馬鹿2人」
アルスに止められる
「ユリウス、シャルスに八つ当たりするな! シャルスも挑発するな」
「こいつがいつまでもウジウジしてるからだろ? オーシャンを出発してからずっとだ!」
「ぐっ!」
僕は言い返せない
確かにずっと悩んでた
「まぁまぁ、取り敢えず休まない? 明日も早くから出発するんだから」
レムレが布を被りながら言う
「そうだな……ほらシャルスも休め、お前傷がくっついたばかりなんだから」
「……そうする」
シャルスも横になる
「じゃあユリウス、見張りは任せたぞ」
「あぁ」
アルスから砂時計を受け取る
皆が横になった時にひっくり返して砂を落としていく
えーと、砂が全部落ちたらひっくり返す……これを3回やったら2時間だな
「…………」
パチパチと焚き火が音をたてる
「…………」
周囲を警戒する
賊は居ないみたいだが……狼とか居るかもしれないからな
たまに農家を襲撃してきて、牛や豚が食われたって話を聴いたな
「…………思えば、物心がついてから叔父上と喧嘩したのってあの時以来だな……」
たしか、僕が7歳の時か……
・・・・・・・・・・
ーーーガガルガ城内ーーー
「バルセ様! また狼の被害報告が来ました!」
「むぅ……またか……」
ガガルガの領地のあちこちで狼の群れが現れた
家畜や民が襲われ殺される
そんな報告が次々とやって来ていた
叔父上は狼討伐の為に兵を派遣したり、軍隊を送ったりしていた
「では、バルセ様、行って参ります」
「うむ、任せたぞ『クラウス』」
クラウス……ガガルガの将で僕の父だ
父上も忙しく動き回っていたな
「父上……」
僕は出発する父上に駆け寄る
「ユリウス? どうした?」
「また何処か行くの?」
「ああ、狼を討伐しないといけないからな」
「……最近全然構ってくれない」
「すまないな……終わったらまた一緒に鍛練しよう」
「……うん」
父上は僕の頭を撫でてから出発した
「……ユリウス、寂しいのか?」
「叔父上……何で父上ばっかり出てるの? ヤンカとかは残ってるのに」
7歳の僕は何も理解してなかったな
ヤンカは戦えないんだから、狼の討伐任務に行けるわけがない
それなら荒れた領地を整えさせる任務につかせた方が良いに決まってる
でも、この時の僕はそんなの考えたりしなかった
「クラウスだけではないさ、皆、出来ることをしている」
「うぅ~」
「ほら、向こうでメイド達と遊んで来なさい」
「嫌だ! 叔父上の馬鹿!!」
「あっ! ユリウス!!」
僕は癇癪を起こして城を飛び出した
・・・・・・・・・
「んっ?」
いつの間にか砂が全部落ちていた
僕は砂時計をひっくり返す
・・・・・・・・・・
街中を走って、走って、走って
気が付いたら、当時気に入っていた森の中にある湖に来ていた
「はぁ……はぁ……喉、渇いた」
僕は湖の水を飲む
「ふぅ……」
喉を潤して、落ち着く
「何やってるんだろ……」
一気に冷静になる
叔父上に何で馬鹿と言ったのか……完全に八つ当たりだ
「……叔父上に謝ろう……お、怒られないかな?」
僕は振り返って歩き始める
「グルルルル」
「ふぇ?」
呻き声が聞こえた
声の方を見る
「グルルルル!」
「グウウウ!」
「ひゃ!?」
狼が居た
1,2,3……7匹
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!?」
僕は一目散に逃げ出す
「ガウガウガウ!!」
後ろから狼達が追いかけてくるのがわかる
ドンドン近付いてくる
そして……
ガブ!
「うわぁぁぁ!!」
足を噛まれる
ドサッ
僕は転ける
「グルルルル!」
「く、来るな! 来るなぁぁぁ!!」
群がってくる狼
僕は泣きわめく事しか出来なかった
食べられる!!
そう感じた時だ!
「ユリウス!」
ザシュ!
「ギャン!」
1匹の狼が飛んでいった
そして僕の身体を誰かに引き寄せられ、抱き締められた
「無事か!? む、足を噛まれたか!」
「お、叔父上!?」
僕を左腕で抱き締める叔父上
右手には血に濡れた剣を持っている
これで狼を斬ったのだと理解した
「な、なんでここに?」
「追ってきたからに決まってるだろ! 全く、足が早くて驚いた!」
考えたら、子供の足で大人を振り切れる訳がない
叔父上は走り出した僕を直ぐに追いかけてきたってわかる
「お、叔父上……ご、ごめんなさい……」
「私こそ、父親を引き離された君の気持ちを考えていなかった……すまなかった」
僕を抱き締める力が強くなる
「だが、先ずはここを生き延びるぞ!」
そう言って叔父上は走り出す
「ガウガウ!!」
後ろから追いかけてくる狼
1匹の狼が飛び付いてくる
「叔父上!」
「ふん!」
ザシュ!
「ギャン!?」
跳んできた狼を叔父上が斬り捨てる
そして再び走る
そうやって森を抜ける
道中でもう1匹倒した
残りの4匹が追ってくる
「バルセ様!」
前の方から兵士が数人やってきた
「狼は任せた!」
「はっ! お任せを!!」
兵士の1人が槍を振るう
一気に2匹の狼を横に殴り付けて飛ばした
動きが鈍った2匹を他の兵士に任せて残りの狼を突き殺す兵士
「うわ、すごい……」
ドンドン離れていくその景色は、今でも忘れる事はない
・・・・・・・
「あれ、ひょっとして……あの時の兵士ってティールか? ……帰ったら聞いてみるかな」
砂が落ちきる
砂時計をひっくり返す
いやー、あの後は大変だったな……
母上には怒られて泣かれるし……
帰って来た父上にも怒られた……
思えばあの時からだな……叔父上を尊敬しだしたの……
あの時は叔父上はすぐに許してくれた……
今回も許してくれるだろうか……
「んっ?」
近付いてくる気配
僕は立ち上がり、剣を持つ
「……狼か」
狙ったかの様なタイミングだな
数は……3匹か
「グルルルル!!」
「ゴァァァァ!!」
2匹の狼が突っ込んでくる
「よっ!」
僕は身体を少し動かして狼を避ける
そしてすれ違い様に斬る
ボト!
ボト!
真っ二つになる2匹の狼
もう1匹は……
「ガァァァ!!」
寝ているアルスに向かって跳んでいた
「ふっ!」
僕は剣を投げる
ザクッ!
「ギャン!?」
狼に突き刺さり、狼は剣の勢いで飛んでいき
ダン!
木に磔にされた
他には居ないよな?
さっきの2匹も間違いなく死んでるな……
僕は磔状態でもがく狼に近寄り
「せーの!!」
ボキッ!
狼の首をへし折った
「…………」
動かなくなる狼
僕は狼の亡骸を1ヶ所に集める
「さて……狼って食えたっけ?」
取り敢えず解体はしておくかな……えーと、先ずは皮を……
狼の解体をする
終わる頃には砂が落ちきっていたから、ひっくり返す
「ふぅ」
飲み水を手に掛けて血を流す
剣も拭いて……
「確か近くに川があったな……」
レムレと交代したら、水浴びでもするかな
このままじゃ休めないし
・・・・・・・・・・
9歳の時に……父と母が病に侵され……死んだ
「うっ、うぐ……父上ぇ、母上ぇ……」
棺桶にしがみついて泣く僕
そんな僕の耳にある言葉が入る
『ユリウスはどうする?』
『バルセ殿には邪魔なのでは?』
『何処か他の領に送るのでは?』
そんな事を言っているのは……父の事を嫌っていた貴族だった
「……」
でも、そう言われても僕は言い返せない
僕がここにいれたのは、父上と母上が居たからだ……両親を失った僕には……立場なんて無かった
「……うぅ」
悔しくて震える拳
溢れる涙
そんな時だ
「今言ったのは貴様達か?」
叔父上の声が響く
「バ、バルセ殿? どうされたので?」
「質問に答えろ」
「わ、我々は何も……」
「質問に答えろ!」
「な、何故そんな事を!?」
「ええい! 埒があかない! ジュルン! ヤンカ! ティール! この無礼者を追い出せ!」
『はっ!!』
「な、何を!?」
「バルセ殿!?」
叔父上が僕を抱き上げる
「皆、よく聞けぇ!! 今日より、ユリウスは私の息子とする!! ユリウスへの侮辱は、私への侮辱としれぇ!!」
「お、叔父上!?」
「ユリウス、もう泣くでない! これからはクラウスの代わりに、私がお前を守る! これからは『ウィル』の名を名乗れ! 『ユリウス・ウィル・ガガルガ』だ!」
ウィル……ガガルガでは次代の領主に与えられる名前
叔父上は皆の前で……僕を後継者にしたんだ
「は、はい!!」
ユリウス・ウィル・ガガルガ
この名前は……どんな時でも僕を支えてくれる名前だ
今でもそれは変わらない
・・・・・・・・・・
「……」
なんだろ、今日は随分と昔の事を思い出すな……
「おっ、砂が落ちたな」
計4回……砂が落ちたから……2時間だな
「おーい、レムレ、交代しよう」
「んっ……ああ2時間経った?」
「経った経った」
「うん、じゃあ、交代しよう……うん……んー!!」
身体を伸ばすレムレ
うーん……この光景を見てたら本当に男なのが残念だ
「あれ? ユリウス、血が付いてる?」
「狼が襲ってきてね、返り血が付いた、ちょっと洗ってくる」
「んっ、わかったよ……狼は解体したんだ?」
「ああ、狼って食えたっけ?」
「あんまり美味しくはないけど、食べれるよ」
「なら、朝飯に食うかね」
「そうだね、血抜きがあまいね、やっとくよ」
「助かる、あまりしたこと無かったからさ」
僕はそう言って川に向かう
「あ、ユリウス」
「んっ?」
レムレに呼ばれて振り返る
ヒュン!
僕の真横を矢が飛んでいった
ドス!
「帰ってくるときにそのウサギも持ってきてくれる?」
「わかった」
よく見えたな、こんか暗いところでウサギなんて……
おお、一撃で仕留めてら
・・・・・・・
身体を洗って
ウサギを運んだ僕は次の交代まで休む
アルスに起こされて、また2時間の見張り……なんだけど
「……なんか鹿と猪が増えてる」
こんなに食べきれるのか?
そう思いながら見張りを終わらせて、朝を迎えた
レムレが肉を焼いて
朝食を済ませて……僕達はガガルガを目指して馬を走らせた