第114話 漁港にて
ガラガラと車輪が回る音が聞こえる
ドドド
パカパカパカ
馬が駆ける音も聞こえている
「……これは、眠れそうにないな」
俺はそう呟いた
ここは馬車の中だ
北の漁港に向かって走っている
この馬車には視察のメンバーで兵長以上の立場+αが乗っている
俺
ティンク
レリス
アルス
ミルム
オルベリン
レイミル
レルガ
シャルス
ルミル
レムレ
ゲルド
ファル
合計13人だ
馬車も普通よりも大きいのを使っている
特注品だ
3頭の馬が引いている、いや~本当に広い
後8人は乗れるんじゃないのか?
勿論、車輪も普通ではない、普通は前輪と後輪で計4つの車輪なのだが
これは、8つの車輪を使っている
車輪の配置は大型トラックをイメージしてくれたらいい
前輪に2つずつの計4つ、後輪も前輪と同じ様に
重量が増えるからな、車輪も増やさないと動かせないのだ
中の座席も少し解説しよう
前の方にはレルガとルミル
そこからミルムとファル
ミルムが外を見て目を輝かせてる……ファルがそんな風にはしゃぐミルムが落ちないように支えている
その後ろでオルベリンとシャルスがくつろいでいる
側にいるレイミルから安静を命令されたからな、少し話したりしながら過ごしている
その後ろでレリスがゲルドと打ち合わせをしている
そしてその後ろに俺とティンクだ……たまにこっちに話を投げてくるから俺は答えたりしている
そして1番後ろにアルスとレムレだ
2人は後ろの警戒をしているようだ……この馬車の周りには100人の兵が馬で囲むように走っているから、大丈夫だと思うんだがな……
そして、そんな馬車で、俺とティンクは休んでいる
仕方ないだろ? ハッスルしちゃったんだから……
まあ、さっきから寝ようとしているが、妙に外の音が耳に入ってきて、眠れないんだがな……
ティンクは……凄いな、熟睡してる……俺の肩にもたれ掛かってる……倒れないようにティンクの肩を抱き寄せておこう
「カイト様、聞いてます?」
「あ、すまんレリス、聞いてなかった……どうした?」
俺は前のレリスを見る
「漁港に到着したら、先ずは仕切ってる人物に会いに行きましょう」
「そうだな……俺とレリスの2人で会った方が良いよな?」
「ええ、多すぎても迷惑でしょうし、皆さんには自由行動をしてもらうって事で」
「では、小生は宿の確認をしておきましょう、手違いがあっては困りますし」
「ああ、頼む」
一応数日前に兵に宿の予約を取りに行ってもらったから、大丈夫だろうが
「兄さん」
「んっ?」
後ろからアルスが話し掛けてきた
「漁港にはどれくらいで着くの?」
「オーシャンからだと……2日くらいだな」
「結構近いんだね?」
「真っ直ぐ北に進むだけだからな、障害物は無い、だから早く着くんだ」
マールとかは曲がり道や丘を越えたりするからな、近くても時間はかかるんだよな
「海! 海見えない!?」
「まだだから! ミルム様落ちるから!!」
前の方で騒ぐ声
頑張れファル、君が居るから俺達は楽できてる
・・・・・・・・
さて、道中は大した問題は起きずに済んだ
うん、ミルムが落ちそうになって、ファルが必死に捕まえてる間にオルベリンが引き上げたり
シャルスが慣れないからか酔ったりしたが
無事に着いたから良いよな!!
そんな訳で漁港に到着した
「海!! 海だぁ!!」
「ミルム様! 待ってって!!」
海に向かって走るミルム
追うファル
……ミルムにはそろそろ落ち着くことを真剣に教えるべきかもしれない
「わぁ……」
隣でティンクが目を丸くしてる
そして俺の右手を強く握る
「大きいだろ?」
「はい……とても、大きいです……」
ティンクは海を見続けている
「この海の向こうに、別の大陸が有るんですよね?」
「あぁ、ここから北ならナハール大陸が有った筈だ」
将が育成しやすい大陸だな、魔法もあるのはナハール大陸だ
いつか行ってみたいな……んで、魔法使いを仲間にしたい……
そうしたらオーシャンの戦力はかなり強化されるぞ!!
因みに、ここ、ノースブリードを中心に考えると
北にナハール大陸
東にジュラハル大陸……醤油のある国だな
そしてベスルユ大陸……シャンバルやシャルスの故郷だ
西にはカルドガル大陸がある
そして南にはワードベール大陸……
このノースブリード大陸を統一したら……次に戦う相手なんだよな……
他の大陸との戦、規模は今までと比較できないほど激しい戦いになるだろうな
……まあ、先ずは東方を統一しろよって話だが
「ティンク、俺はこれからレリスと2人で漁港の偉い人と会ってくる……その間は自由行動だから、自由にしていてくれ」
「え、わたしも一緒に……」
「ダメダメ、どうなるかわからないんだから、君は待っていてくれ」
「わ、わかりました」
すまないね
「終わったら、一緒に漁港を見て回ろう、約束だ」
「……はい!!」
・・・・・・・
そんな訳で俺とレリスは偉い人の所にやって来た
「家ではなく船に居るとは……何を考えているのか……」
不満そうなレリス
「無茶を言うなよ、本人も漁師として働いてるんだし、俺達が来るなんて知らないんだから」
毎回歓迎される訳じゃないんだ
例えるなら俺達はいきなりやって来た営業マンだぞ?
あ……少し昔を思い出すな……
前の担当がやらかして契約が切れた会社に行かされて……
バシャ!!
そうそう、こんな風に水をぶっかけられたな!!
「カイト様!?」
「んっ? あれ? なんで水をかけられてるんだ俺?」
「んっ? うぉ!? すまねえ! 人が居たのに気付かなかった!!」
船からムキムキの男性が降りてきた
50代くらいかな? 男性が俺にタオルを投げ渡す
「貴様! カイト様になんて事を!!」
怒るレリス
「いいよレリス、謝ってるし、わざとじゃないんだから」
俺はタオルで頭や顔を拭く
服は……まあ少し拭いたら乾くだろ
「本当に悪かったな、出港の前の打ち水をしててな」
「打ち水を? 験担ぎか何かで?」
俺はタオルを返す
「ああ、船から水を外に出すって意味でな、転覆とかを防ぐと言われてんだ」
「成る程ね……ってことは今から漁に行くところだったと?」
「ああ、そうだ……何だったら見物するか?」
「良いのか?」
「詫びだ、獲れた魚も少しやるよ」
「それはありがたい、レリス行くぞ!」
「あ、カイト様! お待ち下さい!」
俺とレリスは船に乗る
「カイト……んー? 何か聞いたことあるような?」
男性はそう呟いた
・・・・・・・
他の船員に邪魔にならない場所に座らせてもらい、船が出港する
少ししてから
「よう、酔ってないか?」
男性がやってきた
「ええ、俺は平気ですが……レリスが」
「…………」
レリスは少し酔っている様だ
「そうか、ほら酔い止めだ」
「助かります……」
レリスは酔い止めを受けとる
「そう言えば自己紹介をしてませんでしたね、俺はカイト、カイト・オーシャンと申します」
「おぅ、カイトか! 俺は『バリッシュ』ってんだ!」
ガッ! と握手する……力強い握りだ……
「よろしくバリッシュさん、それでこっちの酔ってるのが」
「レリ……ス……です」
「おうレリス……船室で寝とくか?」
「……そうします」
「おい! 誰かこのにいちゃんを船室に案内してやれ!!」
レリスは船室に案内された……大丈夫か?
「さて、バリッシュさん……今回の漁は何を獲るので?」
「ああ、今回は『メイク』っていう魚だ」
メイク……一般的に食卓に出る魚だ
現代なら……そうだな……鯖と似ているかな?
煮ても焼いても美味いぞ! ミントの作るメイクのスープも絶品だ
「メイクですか、良いですねぇ、焼いたのをツマミに飲む酒の美味いこと」
「おお、カイトもメイクの良さがわかるか! 世間の奴等はメイクを雑魚だとかダサいとか言うが、メイクこそ最高の魚だ! 誰もが食う魚だ!」
「メイクに思い入れがあるみたいですね?」
「おぉ、俺はメイクで育ち、メイクで学び、メイクで暮らしてんだ! メイクは俺にとって人生の全てだ!! 母ちゃんよりも長い付き合いだ!!」
この場合の母ちゃんは嫁って意味だろうな
「凄い情熱だ……」
1つの事にここまで向き合う……なかなか出来ることではない
「なんだ? カイトにはそんな情熱を持てる事は無えのか?」
「ありますよ? まあ、俺だけの力じゃ出来ないんですけどね……色んな人の手助けが無いと……出来ないことです」
「ほぉ……それはどんな事か気になるな」
「それは……っと!」
船が止まった
「船長!! 着きましたぜ!」
「そうか! よし、話は後だな……お前ら! 網を引くぞ!!」
『おう!!』
どうやら、何日か前から設置していた網を引き揚げる様だ
置き網漁って奴かな?
『おーらぁぁぁ!!』
バリッシュを含めた数人で引き揚げる
大量の魚が甲板に打ち付けられた
「おおー」
ビチビチと跳ねるメイク
壮観だな……
「よし! 次だ!!」
バリッシュは指示を出してからメイクを甲板にある穴に落とす
……あれは生け簀か?
そして次の網の場所でも同じ様に網を引く
凄い量だな……1回の漁でどれだけの稼ぎになるんだこれ?
そして4ヶ所目で少し問題が起きた様だ
「むっ!?」
網を引くときにバリッシュが顔をしかめた
「船長!! なんか重くないっすか!?」
「これ、何か他のいるんじゃないっすか?」
船員達がバリッシュに叫ぶ
「むぅ……こいつは……仕方ねえ、引き揚げられないなら諦めるか」
そう言うバリッシュ……
「そんなに重いので?」
俺は近付いてバリッシュに言う
「ああ、後1人くらい手が有ればいけそうだが」
後1人ね……
俺は袖を捲る
「なら、ここに居ますね」
そして俺は空いている場所に立ち、網を掴む
「……へっ! 野郎共!! 素人が手を貸すってんだ!! 気合いを入れろ!!」
『うぉぉぉぉぉ!!』
数人の船員が叫び……まるで何百と居る兵の叫びの様だ……俺も気合いが入るな!!
「引けぇぇぇ!!」
『おーらぁぁぁ!!』
「おーらぁぁぁ!!」
俺も全力で引く
「もう一回!!」
『おーらぁぁぁ!!』
「おーらぁぁぁ!!」
網が上がってくる
「行くぞぉぉぉぉ!!」
『おーらぁぁぁ!!』
「おーらぁぁぁ!!」
そして……
ザパン!!
網が引き揚がる
大量のメイクと……
「なんだこれ!? でか!?」
バカデカイ貝が出た
「はっはー!! こいつは『ガンルガン』って貝だ! 別名、『勝利を呼ぶもの』って言ってな! とてつもなく重いが……こいつを獲った奴はどんなことにも勝てるって話だ!!」
「勝利を呼ぶもの……良いですね、今回の漁は大勝利って事ですね!」
「そうだな!!」
バンバンと俺の背中を叩くバリッシュ
「よし、野郎共! 帰るぞ!!」
『おぅ!!』
船は港に向かう
俺は座ってガンルガンを見る……
こいつは生け簀に入らないようで、甲板に放置だ
まあ、動いてるし、すぐに悪くなったりはしないだろ
「カイト! 帰ったらこのガンルガンで宴をするが、お前も参加しろ!」
バリッシュが俺の隣に座って言う
「良いんですか?」
「当たり前だろ? こいつはお前も食う権利がある!!」
「それは嬉しい……あの、家族や友人も一緒に来てるんですが……呼んでも?」
「いいぞ!! 100人でも200人でも呼べ!! はっはっは!!」
ご機嫌のバリッシュ
「うぅ……」
レリスが船室から出てきた
「レリス? 大丈夫か?」
「少しは……マシになりました……んっ? うわ!? なんだこれ!?」
レリスがガンルガンを見て驚く
「ガンルガンって貝だ、勝利を呼ぶものって言うらしいぞ」
「それは……縁起が良いですね……ふぅ」
レリスがバリッシュの隣に座る
俺とレリスでバリッシュを挟むような感じだ
「さて、バリッシュ殿……少し話が……」
レリスが話を切り出す
「んっ? カイトの事か? 良くわからんが、手を貸せって話だったら良いぞ?」
……えっ?
「……おや? カイト様、もう話をしてたので?」
「いや、何も……あれ? 俺の事知ってました?」
さっきは知らない感じだったけど
「さっき思い出した、カイト・オーシャンって言ったらオーシャンの領主だろ? どんな軟弱野郎かと思ったら……結構骨があるじゃねえか!!」
バンバンとまた背中を叩く
痛いんだけど?
「はは、それはどうも……でも話は詳しく聞いた方が良いのでは? バリッシュさんに不利な内容かも知れませんよ?」
「お前は信用できる、それで充分だ!」
嬉しいことを言ってくれる
まあ、こっちの頼みも……バリッシュに不利になるような内容じゃ無いしな
単純に魚や塩をこっちにも売って欲しいって話だし……
オーシャン領の漁港に形式ではなっているが……実際にオーシャンに売るかは彼等が決める
今では主に旧ガガルガとヤークレンに売っていたが……そこにオーシャンや旧カイナスも加えてくれって話だ
バリッシュが良いと言った……それはつまり契約成立って事だ
ふぅ……良かった
今回の視察で済んで本当に良かった
これで旧カイナスの食料問題も少しはマシになるな
・・・・・・・・・・
船が漁港に到着した
「俺はメイクを仕上げてくる! カイトは仲間呼んでこい!!」
「はい!」
俺とレリスは手分けして皆を呼ぶ
「あ、カイトさん!」
「お兄様! 見てみて! 大きな貝殻!!」
「お疲れ様です」
ティンクとミルムとファルと合流する
「お兄様、何か生臭いよ?」
「あぁ、ちょっと漁を手伝ってな……」
「何があったんですか?」
ティンクは生臭いのとか気にせずに俺の手を握る
「んっ? 色々……他の皆も集めるから、道中で話すよ」
俺はそう言って歩く
バリッシュの事、ガンルガンの事、宴の事
それを話ながらアルスとルミルとレムレを見つけて合流した
そして、他に見つからないから港に戻ったら、レリスが残りの全員を集合させていた
「でけぇぇぇぇぇ!?」
「おぉ……」
「ほぉ、ガンルガンか」
シャルスが叫び
レイミルが顎に手を当てて感心し
オルベリンはガンルガンを珍しそうに見ていた
ガンルガンは……なんだこれ? 巨大な鉄板だな……なに? これで焼くの?
「カイト様、レリスから聞きましたが……大丈夫ですか?」
レルガが聞いてくる
「何も問題ないさ、そっちは何かあった?」
「特に問題はありません、兵達も呼びましたが……宴に我等が参加しても良いのですか?」
「バリッシュが良いって言ったから良いんだろう……あれ? レリスとゲルドは?」
さっき居た筈のレリスが居ない
「バリッシュ……ですかね? 筋肉質の男に呼ばれて行きましたが……」
うん、ムキムキならバリッシュだろうな
レリスとゲルドが呼ばれた?
なんだろ?
その疑問はすぐに解決した
「おいおい! その程度か?」
「力、仕事は……慣れてないんですよ!!」
「小生がその分運びますから」
バリッシュ達が樽を持ってきた
船員とゲルドが樽を2つずつ
レリスは樽を1つ
バリッシュはなんと4つだ
あれ、もしかして酒樽か?
「よっしゃ! 皆集まってるな!! おっ! カイト! こっち来い!!」
俺を呼び捨てで呼んだからかアルス達が不快そうにする
いちいち気にするなよ……
取り敢えず行くか
「ちょっと行ってくる」
「はい……」
寂しそうなティンク……後でいっぱい愛でよう
俺はバリッシュの隣に立つ
全員の視線が集まる……漁港の漁師や関係者も集まってみたいだな……
「今回の漁でガンルガンが獲れた!! 伝統として、今から宴を始めるが……」
へぇ、ガンルガンが獲れたら、全員参加の宴をするのが伝統なのか
「今回ガンルガンが獲れたのはこのカイトのお蔭だ!!」
バンバンとまた背中を叩かれる
こらこら! お前ら! 殺気を出すな!!
「そんな訳で、開始の挨拶をカイトにしてもらう!」
「ちょ!? いきなりだな!?」
なんも考えてないぞ!?
全員の視線が……緊張は……してないな、慣れてきたし
「あーゴホン!」
さて、何を話すか……
堅苦しいのは……好まないよな?
んじゃ……簡単に
「紹介されたカイト・オーシャンです」
先ずは簡単な自己紹介……これでわかる奴は俺が何者かわかるだろ
「今回は貴重な体験が出来て嬉しい限りです、そしてガンルガン……勝利を呼ぶものを引き揚げられて……最高の気分です」
今の心情を話して……そろそろいいかな?
「そんな訳で、この最高の気分で! 宴を楽しもう!!」
俺が叫ぶと
「点火!!」
バリッシュの掛け声
鉄板の下が燃える、大量の薪をどんどん入れていく
ゴォォォォ!! っと燃える音
その間に酒が配られた
あ、未成年には水を配ってるな、よしよし
「乾杯!!」
『乾杯!!』
俺の掛け声で宴が始まった
・・・・・・・・
どうやらガンルガンだけではなくて、メイクも調理させるみたいだ
ガンルガンの側で捌かれて焼かれてる
おお、他の漁師が用意したのか他の魚や貝もあるな
パチパチと魚の脂が弾ける音
うーん、香ばしい
「す、凄いですね」
ティンクが目の前で焼けていく魚を見て呟く
こうやってじっくりと見るのは初めてなんだろう
「ああ、ドンドン焼けていくな」
何人かの調理を担当してる人が塩を振ったりする
お、貝が焼けたな、パカッと開いたぞ
塩を振られる……成る程ね、ここでは味付けは塩のみなんだな
「はいよ!」
俺とティンクに貝や魚が並べられた皿とフォークを渡される
「よし、食うか!」
「はい!」
近くのテーブル代わりの木箱に酒を置いて、右手にフォークを持ち
『いただきます』
いただきますは大切だ
そして……
「わぁ……魚が外はパリパリなのに、身がふっくらしてます!」
「本当だな! お、貝も塩のしょっぱさが味を引き立ててるな!」
これは獲れたての美味さだな!
「美味い……美味い!!」
「シャルス、そんなに慌てて食うなって、誰も奪わないから」
シャルスは凄く嬉しそうに食べている
調理の人はそれが嬉しいのかドンドン盛る
アルスが少し心配そうにしてる
「坊っちゃん」
「オルベリン……ん、酒を飲んでるのか?」
オルベリンの手には酒がある
「えぇ、3杯までなら良いとレイミルから言われましてね……いやぁ、久しぶりの酒は美味いですな!!」
上機嫌のオルベリン
こうして出先で飲むのも珍しい彼だ……うん、隠居したから出来る事だな
兵達も飲んでるが……レルガやゲルドは水にしている
ルミルやレムレは……あぁ、1杯だけ飲んで後は水みたいだな
ミルムは……未成年だからファルと一緒に水だな
レイミルも水だ
「それにしても、ガンルガンを引き揚げるとは……縁起が良いですな!」
「そうだな……勝利を呼ぶもの……パストーレとの戦を目前にして、素晴らしいものを手にいれた」
「そうですな!」
「よぉカイト! 楽しんでるか!!」
バリッシュがやって来た
「あぁ、バリッシュさん……ええ楽しんでますよ」
「そうか! んっ? なんだ? お前嫁さんが居たのか?」
「は、初めまして! ティンク・オーシャンと申します!!」
頭を下げるティンク
「おお、初めまして! ははは! なんだ、まだガキかと思ってたが! しっかりと大人だな!!」
それ、下ネタ的な意味だろ?
「嬢ちゃん、うちの母ちゃんがスープを作ったから貰ってきたらどうだ? 絶品だぞ?」
「あ、はい!」
ティンクがスープを貰いに行く
「さて、オルベリンじゃないか、久し振りだな」
「ふむ、大きくなったなバリッシュ」
「なんだ? 知り合いだったのか?」
「バリッシュがまだ見習いだった時に少し……まさか漁港の長になってるとは」
「メイク様々よ! どうだ? 1杯!」
「うむ、貰おう」
オルベリンがバリッシュから酒を受け取る
「おら、カイトも!」
「ああ」
俺は木箱に置いていた酒を取る
『乾杯!!』
3人で乾杯をして一気に飲み干す
ああ! 美味い!!
「よいしょ! 貰ってきました! カイトさんどうぞ!」
「ありがとうティンク」
ティンクは2つスープを持ってきて俺に渡……
「これは俺が貰った!」
「おま!?」
バリッシュに奪われた
そしてオルベリンにスープを渡しながら
「知ってるか? メイクのスープを夫婦で一緒に食うと、その夫婦は長く一緒に居られるんだぞ?」
「そうなんですか?」
「ああ! メイクは夫婦で行動するからな!」
「……あぁ、だから大量に獲れたのか」
凄い量だったからな……んっ?
「でもそれだと最終的に死んでないか?」
「だから、死ぬときも夫婦一緒って事だ!」
「……ああ成る程ね」
つまり戦場で死なないって験担ぎにもなりそうだな
「カ、カイトさん! あ、あーん!」
スプーンで掬ったスープを差し出すティンク
「あーん……うん、出汁が効いてて美味いな!」
俺は木箱に酒を置き、スープとスプーンをティンクから貰う
「ほら、ティンク……あーん」
「あーん……んん、美味しいです!!」
ティンクの目が輝く
「さて、そろそろか……」
バリッシュが俺達の前に、鉄板から壁になるように立つ
「そろそろ?」
俺が呟くと
「来るぞ!」
「お前ら! 準備しろ!!」
「おお!!」
漁港関係者が全員前に出る
そして…………
パチン!!
パカン!!
ガンルガンの貝が開いた
飛び散る汁!
『おっしゃぁぁぁぁぁ! あっち!!』
それを浴びる漁港関係者
「はっは!! 気持ちいい!!」
バリッシュも浴びていた……おい、大丈夫か? 火傷してないか?
すぐに水をかけられる
「今のは?」
「ガンルガンの汁を浴びるとな、その年はずっと大量なんだ!!」
これも験担ぎか
「まあ、危ないから俺達がこうして盾になって一般の奴にかからないようにする理由もあるんだがな!」
「そうか……」
「よし! ガンルガンを食うぞ!! 切り分けろ!!」
ガンルガンを数人がかりで鉄板から降ろし、切り分けられる
「おおー!! バリッシュ! バリッシュ見ろ!!」
切り分けてる人がバリッシュを呼ぶ?
「どうし……うぉぉぉぉ!?」
バリッシュが叫び、ガンルガンの中から何かを取る
あれは……まさか
「真珠か?」
不恰好だが……あの光沢、そしてあの反応……間違いない
デカいな……バリッシュの手よりもデカイぞ?
「カイト!!」
「んっ? うぉ!?」
バリッシュが駆け寄って真珠を俺に渡した、重た!?
「お前にやる!! これは縁起が良いぞ!!」
「い、良いのか!? 貴重なんだろ!?」
「真珠なんていっぱいある!! それはお前が持ってろ!!」
ハッキリと言うバリッシュ……
「あ、ああ……ありがとう……」
俺の両手よりも大きい真珠……これどうしよう
レリスと相談するかな
「お、ガンルガンがきたな!」
切り分けられたガンルガン
俺は真珠を地面に置いてガンルガンを受け取る
「身がプルプルしてるな……」
プリンみたいだ
「食ってみろ! スプーンの方が食いやすいぞ!」
俺とティンクはスプーンで掬う……うお、柔らかい
そして食べる
『!!!!?』
な、なんだこれは!? 身がとろけて……う、うわわわわ!?
こ、これが貝!? 本当に!? こ、こんなの食ったことないぞ!?
「ガンルガンが獲れたら宴をする理由だ! 美味いだろ? 獲れたてじゃないと食えないぞ?」
「ああ、美味い……こんな美味いのは……くっ!」
涙が出てくる
「しっかり味わえよ!! 真珠よりも貴重だからな!!」
マジかよ、真珠よりも貴重かよ!
でも納得するよ! それだけ美味い!!
こうして宴は盛り上がりまくった
……醤油持ってくれば良かったなぁ
・・・・・・・・・
宴も終わり、宿に行く
それぞれの部屋に案内される
俺とティンクは部屋のシャワーを一緒に浴びる
そして寝間着に着替える
「凄かったですね……」
「ああ、ガンルガンの衝撃は忘れられないな……」
「それもそうですけど、この港も凄いです……活気があって」
「そうだな……」
因みに真珠は兵達に渡して守らせている
正直今は持ってても邪魔だしな……でも貴重品だから大事に保管だ
「……お、ティンク、外見てみろよ!」
俺はティンクの手を引き、バルコニーに出る
「うわぁ! 綺麗!」
外は満天の星
そして夜の海に、星が映り、空と海……両方に星と月が映る
「月が……星が綺麗ですね」
「そうだな……とても綺麗だ……」
ティンクは景色を見て言っていたが
俺は別のを見ていった
勿論、星も月も綺麗だ……でも……
俺は星を背景に振り返るティンクに……見とれていた
彼女の白い肌が……よく映える
気が付いたら
「あ、あのカイトさん?」
「ちょっとこうさせて……」
ティンクを抱き締めていた
「……♪」
ティンクは俺の背中に腕を回す
今、俺はとても幸せを感じている
願わくばこの幸せがずっと続いてくれるように
なんて思いながら……