第112話 視察の前に
ドドドドド!!
「よっ!」
俺は今、馬に乗ってヘイナスに向かっている
勿論1人ではない
「カイト様、急ぎすぎでは?」
「そうか? これくらいだと思うが?」
護衛としてゲルドとモルスの義兄弟を連れている
何故ヘイナスに向かっているのか
それは単純に見舞いだ
パストーレとの戦闘で酷い火傷を負ったヘルドの見舞いに行くのだ
本当はすぐにでも行きたかったのだが……忙しくて時間が取れなくてな
仕事も一段落ついたし、シャルスも戻ってきたから
来週の視察の前に僅かに出来た時間で向かっているのだ
急いで行くから3人での移動になった
「ヘルドは火傷を負ったそうですね?」
「ああ、アルスから聞いたが、2ヶ月は安静にするのと、完治には1年はかかるそうだ……本人は軽いとか言ってたが……どう考えても重傷だよな……」
無理してないといいんだがな……釘をさしておかないとな
・・・・・・・・
3日間、全力で馬を走らせてヘイナスに到着した
道の開拓もしていた甲斐があったな! 大分早く着いたぞ!
「カ、カイト様!? どうされたのですか!?」
外壁の兵が驚く
「ヘルドの見舞いだ、開けてくれるか?」
「はい! 開門!!」
門が開かれる
「ゲルド、ヘイナスの城に先に行っててくれるか?」
「カイト様は?」
「モルスと一緒にヘルドの屋敷に向かう、どっちに居るかわからないからな……ヘルドの顔は知ってるよな?」
「はい、小生はヘルドと戦った事もありますからね」
「そうか、ならいいが……念のため兵を1人同行させて行っておいてくれ、お前が配下になったって知らない奴も居るかもしれないからな」
「はっ!」
ゲルドは外壁に居た兵の1人を連れて、城に向かった
「モルス、俺達は屋敷に向かうぞ」
「あいよ!!」
俺とモルスはヘルドの屋敷に向かう
道中で久し振りに会うヘイナスの民達に捕まる
「お久し振りですカイト様!」
「ああ、元気だったか?」
「カイト様、ありがたやありがたや」
「そんな拝むのは止めてくれよお爺さん」
「カイト様! 久し振りに家の串焼きを食いたくないかい?」
「後で買わせてもらおう!!」
そうしてやっと屋敷に到着した
「人気者ですね」
モルスがニヤニヤしながら言ってくる
「まあな、変だったか?」
「いや、カイナスじゃ、先ず見れない光景でしたから、楽しめましたよ」
そりゃあ自分勝手に生きたケーミストとは違うさ
俺はしっかりと部下や民の事も考えて政治してんだから
……いや、ぶっちゃけ色々してくれてるのはレリスだけどさ……
俺は報告を聞いて考えてるだけだし……
あれ? 俺って実はそんなに役に立ってない?
…………いやいやいや! 大丈夫! ちゃんと役に立ってる!!
……よな?
「カイト様? どうしたんで? もしもーし?」
「はっ! すまん、考え事をしてた」
気を取り直して……屋敷の扉をノックしてもしもーし!!
コンコン!
「…………」
反応無し?
「んっ、足音が近付いてますね」
モルスが言う
俺は扉から少し離れる
ガチャ!
「お、お待たぜじまじだ!!」
メイドが出てきた
「あー、大丈夫だから呼吸を整えてくれ」
「す、すいまぜん……」
深呼吸するメイド
「し、失礼しました、あの……どういったご用件で? ってカイト様!?」
さっきから表情がコロコロ変わるな……ちょっと面白い
「はいそのカイトです、ヘルドはここに居る? それとも城?」
「だ、旦那様でしたら奥様と一緒に城に滞在してます! 治療の為にずっと城にいらっしゃいまして……奥様はたまに帰られるのですが……」
「そうか、わかった」
それじゃあ城に向かうか……
「あ、あの!!」
「んっ?」
呼び止められた?
「だ、旦那様は大丈夫でしょうか?」
「まだ見てないから何とも言えないが?」
「あ、いえ、その……怪我の方ではなくて……その……旦那様の立場は大丈夫でしょうか?」
あー、ヘルドがクビになるとか気にしてるのか?
「敗走したからって解雇したりしないさ、ヘルドにはこれからも色々と頑張ってもらいたいからね」
まあ、怪我で復帰が難しいなら、オルベリンみたいに隠居させるがな……あ、生活の保証はしっかりするぞ? 孫の代くらいまでならしっかりと援助するし……
「よ、良かった……」
「安心したなら仕事に戻りなさい、じゃあね」
俺はモルスと一緒に城に向かった
・・・・・・・・・
ーーーヘイナス城ーーー
城門を抜けて、城に入る
メイドや兵に挨拶されて、少し話してからヘルドの居場所を聞く
そして医務室に向かった
「うん? ゲルド?」
「お疲れ様です」
ゲルドが医務室の前で待機していた
「どうしたんだ? 中に入らないのか?」
「いえ、既に入って話を終えた後です」
「そうなのか?」
「はい、まあ話なんて火傷の具合を聞くぐらいでしたけどね、サルリラも一緒に中に居るのでゆっくりと話されては?」
ゲルドはモルスを手招きして呼び寄せる
2人は廊下で待つ様だ
「そうさせてもらおう」
俺は扉をノックする
すると……
「はいはいっす!」
ガチャ! っとサルリラが扉を開いた
「よっ、久し振りだなサルリラ」
「あ、カイト様! お久し振りっす! 旦那の見舞いっすよね? どうぞっす!!」
「失礼するっす!」
おっと、サルリラの口調がうつってしまった
「カイト様!?」
ベッドの上で横になっていたヘルドが土下座する勢いで起き上がる
「おいおい、重傷なんだから無理するなよ!」
俺はそんなヘルドを押さえる
「し、しかし……カイト様に合わせる顔がありません!!」
「いいから、先ずは横になって楽にしろ!!」
サルリラと2人がかりで横にさせる
包帯を見る……やっぱり重傷だな
「全く、ルーツといいお前といい……気にしすぎだ、勝つときもあれば負けるときもある……それが戦だろ?」
「そ、そうですが……」
「戦には負けたが、お前は生き残れたんだ……俺はそれだけで嬉しいからな? だからもう気にするな! ここまで言っても気にするんだったら……身体を治して、それから戦場で活躍してくれ! わかったな?」
「……はっ!!」
よし、調子を取り戻したな!
「さて、具合はどうだ?」
「俺は大丈夫です、なんなら今すぐに動いても」
「ダメっすよ?」
「…………」
サルリラに胸元を押さえられるヘルド
圧が……圧が凄い!!
「2ヶ月は安静にするって言われたじゃないっすか!! 無理をしたら許さないっす!」
「し、しかしなぁ……」
「ダメっす!!」
「くぅ……」
サルリラつえぇ……
「そう言えば、サルリラは妊娠してるんだって? おめでとう」
俺は2人に言う
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとうございますっす!!」
サルリラの腹部を見てみる……ふむ、確かに……膨らんで……るような……気がする!! 服越しだとまだわからん!!
「名前とか決めたのか?」
早い人は妊娠がわかった時点で名付けるらしいな
「いえ、まだ決めてません……」
「旦那ったら、カイト様に申し訳ないってずっと凹んでたっす」
「……お前なぁ」
俺はヘルドを見る
気まずそうなヘルド
「…………あ、そうだ、カイト様!」
「んっ?」
「我が子の名付け親になってはくれませんか? 是非とも、カイト様に付けてもらいたいのです!!」
な、何言ってんだ!? お前、初めての子供だろ?
自慢じゃないが、俺はゲームでも『名前を付けてください』とかが苦手でデフォルトネームでプレイするような人間だぞ!?
これは断……止めろ! そんな真剣な眼で見てくるのはやめろぉぉぉぉぉ!!
「俺は構わないが……サルリラは良いのか?」
頼むサルリラ、反対してくれ!!
「あっしは反対しないっすよ?」
希望は去った……
「でも、あまり嬉しくは無いっすね……やっぱり旦那に付けてもらいたいっす」
サルリラ!! あんたは良い母親になるよ!!
「そ、そうか……」
「そうか、残念だな、やはりここはヘルドが……」
「だから」
サルリラ? 何を言うつもりだ?
「男の子だったら旦那が、女の子だったらカイト様が、それぞれ考えてくれた名前を付けるって事でどうっすか?」
……マジかよ
「そうだな! それがいい!!」
ヘルドもノリノリか!!
あぁ、これって……
「カイト様、宜しいでしょうか?」
…………断れる雰囲気ではない
「ああ、任せろ、頑張って考えてみるよ」
『ありがとうございます!!』
慕われるのも問題だよな……
帰ったらレリスに相談してみよう……何か参考にしないとな……
それからも、暫くは2人と談笑した
ルミルやレムレも活躍してる事
アルス達も頑張ってること
俺もティンクとゴニョゴニョとか……聞き出された
あとはオルベリンの隠居も話した
2人は驚いていたが、話したら納得した
そしてこれは軍内だけで、出来れば将の間だけで止めて欲しいと伝えた
出来るだけオルベリンの隠居は隠したい……オーシャンでも知ってるのは軍の関係者だけだ
理由はパストーレや、他の領にバレないようにだ
オルベリンという戦力が居る……そう思わせて時間を稼ぐのだ
もし、隠居したってバレたら……絶対に攻めてくるだろうからな
西方とか……パストーレはそこを利用してくるだろうし
だから隠す
そんな事も説明していたら夜になっていた
話を終わらせて、俺は医務室を出る
廊下で待ちくたびれていたゲルドとモルスに休むように言い、メイドを呼んで部屋に案内させた
俺は昔使っていた部屋に行く
俺がオーシャンに行った後もちゃんと手入れをしていたようで、直ぐに休める状態だった
メイドが運んできた夕食を終えて、俺は休んだ
そして、翌日、朝のうちにヘルドとサルリラと少し話してから
ゲルドとモルスを連れてオーシャンに帰るために馬を走らせた
「カイト様と義兄者は帰ったら直ぐに出発するので?」
モルスが聞いてくる
「そうだな……もしかしたら1日は休めるかも知れないが……」
俺は太陽を見て、時間を確認する……少し厳しいか?
「モルス、お土産は何がいい?」
ゲルドが聞く
「何でも良いぞ義兄者!! 食い物なら大歓迎だ!」
「わかった、美味い酒と一緒に買っておこう」
そんな2人の会話を聞きながら
俺は『あ、ヘイナスで何か土産買えば良かった』とか思うのだった