第104話 たまには飲むさ
ーーーカイト視点ーーー
ティンク達を見送った後、俺は城に戻る
「さてと……貴族と会うのは昼からだったな……正直苦手なんだよなぁ」
マトモな奴も居るが、基本貴族って自己顕示欲の塊みたいな性格だからな……
やれ○○は凄いだの
○○である我輩は○○だの
ウザったいんだよな……正直会いたくない
でも蔑ろにしたら後が面倒なんだよな……
貴族は私兵を雇ってる……蔑ろにして反乱とかされたら困るんだよな
はぁ……気が重い
「乗り切るしかないよな……」
話して媚を売られて適当にヨイショしてやって乗り切ろう
俺は頭を抱えながら城に戻った
・・・・・・・
さて、時刻は夕方だ
昼から数人の貴族が順番に謁見しに来て、俺は彼等の相手をした
そして最後の1人が玉座の間を退室した
「……あ~ つ、疲れた……」
「お疲れ様ですカイト様」
だらけた俺にレリスが言う
「レリスもな……それにしても……どいつもこいつもやれ土地の権利が欲しいだの、子供を見てくれだの、我が子は優秀だのしつこかったな……そんなに優秀だっていうなら働かせろっての!」
じゃないと俺は顔を覚えないぞ!?
「彼等もカイト様に気に入られようと必死なのですよ……カイナスを手に入れた事で、オーシャンは大勢力になりましたからね」
「でも、ヤークレンに比べると全然だ……西方も警戒しないといけないし……今のところの1番の問題はパストーレだけどな……」
やる事も考えることもいっぱいだ
本当は貴族に会うのも時間の無駄だと思ってるんだが……
さっきも言った通り、反乱が面倒だからね
だが! そんな面倒な仕事も今終わった!!
あー! 解放感!!
「さてと、俺は休ませてもらうかな……」
俺は玉座から立つ
「お疲れ様でした、カイト様」
レリスと挨拶をしてから俺は部屋に戻った
自室に入り、椅子に腰掛ける
「…………」
あ~そうだよな、今日から暫くティンクが居ないんだよな……
「ここで1人で寝るのは初めてだな……」
このオーシャンの都が完成してからは、部屋ではティンクといつも一緒に寝ていたからな……
「…………って感傷に浸るな俺!」
そうだ! 久し振りに1人なんだ!
今しか出来ないことをやるんだ!!
「…………なにも浮かばねぇ」
読書? そんなの空き時間によくやってる!!
お茶会? 1人で? 寂しすぎる!!
自家発電? 虚しすぎる!!
「ゲームも無いし音楽プレーヤーも無い……」
あれ? 俺、1人の時ってどう過ごしてたっけ?
元の世界でもどうしてた?
「……思い出せない」
いや、頑張れば思い出せるかもしれない……
でも思い出そうとするとティンクの事をいつの間にか考えてしまう
やっぱり俺って……
「ティンクの事が愛しくて仕方ないのか……」
あー、もう会いたくなってる!! 俺の方が寂しくなってる!!
結局、色々と考えて悶々としながら、いつの間にか眠ってしまっていた
・・・・・・・
翌日
「…………」
目を覚ます
隣には誰もいない
布団は温かいが、心は寒い
「戦の時は平気なのにな……状況が違うとここまで変わるか……」
いつもならティンクの寝顔を見たり
軽く抱き締めたり
頬とかに軽くキスしたり
そんな事してるんだけど……
「起きるか……」
後4、5日の辛抱だ!
今日の予定は……報告を聞くだけだったな
その後に兜を造ってくれた鍛冶屋に行って挨拶だ
……その後どうするかな……また寝るのか?
・・・・・・・
さて、兵の報告を聞いていたら緊急の報告……と言っても鉱山が見つかったって報告だけどな
そんなのを聞いて色々と打ち合わせをしていたら夕方になっていた
俺は今レリスと2人で鍛冶屋に向かっている
護衛に兵をつける話もあったが……そんな事したら鍛冶屋の人が畏縮するだろ?
街中を兵が巡回してるんだから大丈夫だろって事で俺とレリスの2人だけだ
……いや、少し離れた所に数人ついてきてるけどな!!
「別にいいんだけどな……」
「カイト様は自分の立場をお忘れですか?」
「いいや、覚えてるって」
「でしたら、文句を言わないで下さいね」
「はいはーい」
「はいは1回!」
「はぁい!!」
そんな下らないやり取りをしながら鍛冶屋に到着した
「ここだよな?」
「ええ、ここですね」
「まだ開いてるか?」
俺は扉を見る
何処かに営業中とか閉店とか書いた看板は無いか探す
……無さそうだな
「鎚の音が聞こえますよ?」
「えっ?」
レリスが言ったのを聞いて、俺は耳を済ませる
カァン!
カァン!
確かに……小さいが聞こえる
「やってるみたいだな」
「そうですね、では……失礼する!」
レリスが扉を開いて中に入る
そして扉が閉まらないように持ちながら、俺を招く
「たのもー!」
「カイト様、それは違うのでは?」
「あ、やっぱり?」
俺とレリスは中に入った
「いらっしゃい!!」
女の子が迎えてくれた
看板娘ってやつかな? 明るい笑顔で迎えてくれた
うん、接客の基本は笑顔だよな!!
んで、いらっしゃいって言われたけど……こんな時になんて答えたらいいんだ? いらっしゃいました?
「失礼する、私はレリスと申します……こちらの方はカイト・オーシャン様」
「あぁ! 領主様ですか!!」
レリスの紹介を聞いて女の子が目を輝かす
「ああ、領主を任せられているよ」
「その領主様がどうしたんですか?」
当然の疑問
「実は……」
「いいよレリス、俺が自分で言うさ」
「わかりました」
レリスが下がる
俺は女の子の前に立つ
「数日前に兜を納品してくれたろ?」
「はい! 私が届けました!! ……あれ? 何か不備がありましたか!? 丁重に扱ったんですけど……」
「いやいや、文句を言いに来たんじゃないんだ、とても素晴らしい兜だったからね……直接礼を言いたかったんだ……あの兜は誰が造ってくれたんだい? 君かい?」
一応聞いてみる
「いいや! 親方だよ! 今は工房で剣を打ってるよ!」
さっきから聞こえるカァン! って音は剣を打つ音か
「出来れば親方を呼んでもらえるかな? それか工房に入らせてもらえるかい」
直接親方に礼を言いたい
「ちょっと待ってて!!」
女の子は奥に行った
鎚の音が止む
『領主! ……………いを…………ええ!?』
女の子の声だけが少し聞こえる
鎚の音が再び聞こえ始める
女の子が戻ってきた
「そのぅ……今は忙しいから会えないって……」
「何ぃ!?」
「ひゃ!?」
「レリス! 落ち着け!」
怒るレリス、怯える女の子
「そっか……忙しいなら仕方ないな……礼を言いに来て仕事の邪魔をするわけにはいかないな……残念だけど諦めるよ」
俺は周りを見渡す
飾っている装備品はどれも質が良さそうだ
「親方は良い腕をしているね」
「はい! 私もそんな親方みたいになりたくて弟子入りしたんです!!」
誇らしげな女の子
「そっかぁ……ふむ……レリス、今度の装備の注文はここに頼まないか?」
「それは構いませんが……」
レリスは少し不服そうだ……鍛冶屋の親方が不敬で不快って顔だな
仕方ないだろ? 忙しいんだから
「わぁ! ありがとうございます!!」
女の子が喜ぶ
「また今度来るよ……親方によろしく言っておいてくれるかい?」
「はい!!」
「行こうレリス」
「はっ!」
「また来て下さいね!!」
俺とレリスは鍛冶屋を出た
……鍛冶屋っていうか装備屋だよな……奥に工房があるから鍛冶屋でいいのか?
・・・・・・・・・
店を出て、城に帰る道中
「カイト様が直接訪ねたのに会わないとは……」
「仕方ないだろ、職人は剣1本打つのも全力なんだから」
不満たらたらなレリスを落ち着かせる
全く……俺の事になると沸点が低くなるなお前
そんな時だ
「あれ? 兄さん? 珍しいねこんな所で会うなんて」
「アルス? なんだ? レムレとユリウスも一緒に……買い物か?」
「いや、武器の手入れをした帰りだよ、兄さん達は?」
「そこの鍛冶屋にちょっとな……もう帰るところだ」
「そうなんだ……あ、だったら兄さん達も来る?」
「んっ?」
・・・・・・・・・・・
「いらっしゃいませぇ!!」
「3人で予約してたアルスだけど……悪いけど5人に増えるのって大丈夫?」
「大丈夫です!!」
俺とレリスはアルスに誘われて、あるお店にやって来た
「こちらの部屋になります」
案内される……
そこは部屋だ……
中に入ると
「いらっしゃいませ!」
女性が部屋に待機していた
そして……
「どうぞ……お楽しみ下さい!」
そう言われた……
だから俺は……
「えっと……取り敢えずワインとオススメのつまみを」
「僕もワイン!」
「僕はエールで……レリスさんとユリウスは?」
「私はワインを」
「僕はエールかな!」
女性に注文する
「畏まりました!! 注文入りまーす!!」
女性が部屋を出た
そう、ここは酒場だ
大きな宿を利用した酒場で、要予約のお店だ
宿の部屋を利用して完全個室の空間で酒を飲めるとの事だ
アルスが言ってた先約とはこれの事らしい
「噂は小耳に挟んでいたが……へぇ、立派な部屋だな」
俺は椅子に座って周りを見渡す
「食事を楽しんだ後はそのまま休めるからね、評判で予約するのが大変だったんだよ?」
だろうな……料理も楽しめそうだし、酒も楽しめそうだ
「1ヶ月前から楽しみにしてたんですよ♪」
レムレが目を輝かす
「そんなに前からですか……繁盛してますね」
レリスが感心している
「前にティールと来たけど、料理がかなり美味いっすよ!」
ユリウスは楽しそうだ
そう話してたら
「お待たせしました! ワインとエールとオススメのつまみです!!」
酒と料理がやって来た
つまみは……おお、一口ステーキや生ハムメロンがあるぞ!
焼いたソーセージにチーズをかけたのも美味そうだ
全員が酒を手に取る
「じゃあカイト様」
ユリウスが俺を見る
「えっ?」
「乾杯お願いします!」
えっ? 俺がやるの?
「じゃ、じゃあ……乾杯!!」
『乾杯!!』
カチン!
グラスとジョッキがぶつかる
そしてクイッ! とワインを俺は一気に飲んだ