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第100話 次代に繋ぐ意思

 俺達は2日かけて、途中の村で宿を取りながらオーシャンに帰還した


「あぁ、久し振りのオーシャンだな……」


 カイナスに向けて出撃してから、かなり経っていたからなぁ……もう8月の中旬だぞ

 ほぼ、1ヶ月は離れていたか……


「一応、レリス達にも伝達していたが……城に入ったら玉座の間で正式に皆に伝える」


 俺はオルベリンと話す


「ふっ、そう考えたら……少し寂しくなりますな」

「……酷な事をしたな……すまないオルベリン」

「坊っちゃんが謝ることはありますまい、ワシの為の事でしょう? 堂々としてくだされ」


 そう言われてもな……やっぱり胸が痛むんだよ……


「坊っちゃん、貴方はどのような領主になりたいのですか?」


 ? 急に何を聞いてくるんだ?


「ワシは、坊っちゃんはワシらの後ろで道を示す……そんな領主だと思っておりました」


 思って()()


「今は違うのか?」

「ふむ、坊っちゃんの最近の行動を思うと……坊っちゃんの目指す領主は違うのだと思いましてな……ですので聞きたいのです」


 オルベリンが「すぅ……」と一呼吸

 そして


「貴方はどのような領主を目指しておるのですか?」


「俺は……共に歩む領主になりたい」


 それは口から自然と出てきた


「父上の様に、道を切り開く事は出来ない……道を示すなんて事も出来ない……俺が出来るのは、共に戦い、共に学び、共に悩む……支え合う……そんな領主になりたい」


「そうですか……なら、これからは彼等を支えて下さい、ワシは休ませてもらいますがね」


 オルベリンが外を見る

 俺も窓を覗く


 外ではアルスとレムレが馬で並走しながら話していた

 ルミルとユリウスとシャルスが何かを話している


「これからは次代の時代ですな!!」


 ……それはダジャレか?


 ああ、でも……うん、気が楽になった


「オルベリン、今まで……お疲れ様、たまに会いに行くからな?」

「なら、最高の紅茶と菓子を用意しておきましょう」


 俺とオルベリンは話す

 将としてのオルベリンと、こうして話すのはこれで最後だ……

 オルベリンが死ぬ前に……パストーレを制圧しないとな……

 安心させてやりたいからな



 ・・・・・・・・・



 オーシャンの城の城門を馬車がくぐる

 そして馬車が止まったのを確認して、俺とオルベリンは馬車から降りた


「カイトさん!!」

「っと!」


 その瞬間にティンクが飛び込んできた


「ティンク、ただいま!」

「大丈夫ですか!? 怪我とかしたないですか!?」

「ティンク様、落ち着いて下され」


 オルベリンが笑いながら言う


「あ、オルベリンさん! でも……パストーレ軍に苦戦したと聞いて……」

「あー、俺がマルスヒ平原に着いた頃には終わってたからな? だから俺は大丈夫だ」

「あ、そ、そうだったんですね……」


 ティンクが真っ赤になりながら離れる

 後ろでユリウスが「ヒュー♪ヒュー♪」とか言ってる

 そして殴られる音が聞こえる……2発だな


「よーしよし、心配をかけたな……」


 俺はティンクを抱き締める

 人前とか今は気にしない


「あ……」

「大丈夫だからな?」


 俺はティンクの頭を優しく撫でる


「はい……はい!」


 泣き出すティンク……落ち着くまで抱き締めておこう

 俺はアルスに目線を送る


「あ……皆解散! 将は玉座の間に集合!」


 アルスは兵を解散させる


「悪いな」

「良いよ、先に行ってるからね?」


 アルスは皆を連れて城に入った

 オルベリンもルミルとレムレに支えられながら城に入った


「ティンク、俺はこれから玉座で報告をしたり話し合いをしないといけない」

「あ、はい……ごめんなさい」


 ティンクが離れる


「いや、謝る必要は無い……その、俺も出来ればずっと君を抱き締めたいけど……流石にそれは出来ないからね……だから」


 俺はティンクに囁く


「続きは寝室でな?」


 そして頬にキスをする


「は、はい!!」


 ボン!

 そんな音が聞こえて耳や首まで真っ赤になるティンク

 だ、大丈夫か? やりすぎた?


「さ、先に部屋に居ますね!!」


 そう言って走って行った

 …………あー、うん、やりすぎたな……

 まあ、いつか慣れるよな?

 先に仕事を片付けよう……お楽しみは後だ!!


 …………ティンクの温もり……心地よかったな



 ・・・・・・・・


 玉座の間


 そこには将達が揃っていた

 レリスも居た……その手にある紙の束はなんだ?

 なんか仕事が大量な予感ががが!


 俺は玉座に座る


「お疲れ様ですカイト様」

「ああ、レリスもお疲れ様……その束は?」

「後でお伝えします……先ずは報告をお願いします」

「そうだな……オルベリン」


 俺はオルベリンを呼ぶ


「はっ!!」


 オルベリンが前に出る

 レムレとルミルが支えようとしたが


「いや、大丈夫だ」


 そう言って歩く……そして俺の前に立つ

 俺は玉座から立ち上がり、オルベリンの左隣に立つ


「もう伝わってると思うが……オルベリンは今日を最後に隠居する!」


『っ!?』


 数人が動揺する……あれ? 聞いてなかった?


「オルベリン……」

「はい……コホン」


 オルベリンが咳払いをする


「皆すまないな、ワシももう歳でな……今までは気合いで乗り切っていたが……それも限界を迎えてな、先に休ませてもらうことにした!」


 全員がオルベリンを見る


「なーに、今のお前達なら! ワシが居らんでも戦えるだろ! レルガ! 新兵だったお前に言ったことは忘れてないな?」


「ああ、『誇りは捨てても命は捨てるな』だろ? 覚えてるよ」


「うむ、お前はまだ伸びる、決して自棄になるなよ! アルス様、貴方達に言ったことは覚えてますか?」


「逃げるのは恥ずべき事ではない……」


 アルスが答える


「ただし、主の身が危ないときは例外……だろ?」


 ユリウスが続けた


「それを忘れないようにな!!」


『はい!!』


 アルスを始めとしたオルベリンに鍛えられた5人が返事をした


「ゲルド!」

「んっ? 小生もか?」


 ゲルドが予想外って反応だ


「出来れば、本調子のお前と戦ってみたかったぞ! とても残念だ!」

「オルベリン殿……貴殿にそう言われるだけで、小生は誇らしいですよ」

「ふ、後は任せたぞ?」

「ええ、お任せを」


 オルベリン、ゲルドをかなり評価してるな

 何か通じるものがあるのかな?


「では、言いたいこと言いましたし……ワシは屋敷に帰りますかな……」

「オルベリン」


 俺が声を掛ける


「坊っちゃん、話したいことは充分話しました……後は、後日屋敷で語り合いましょう、歓迎しますからな?」


 ニッ! と笑うオルベリン


「……そうだな、今度…邪魔させてもらうよ……お疲れ様」


 俺はオルベリンと握手する


 そして、オルベリンは玉座の間を出ていった

 最後まで、堂々と歩いて……

 本当に……凄いな……



 ・・・・・・・・


 さて、オルベリンの件は一先ずここまでだ


 次はこれからの事だが……


「カイト様、こちらを……」

「んっ?」


 レリスが紙を1枚俺に渡す


「何々? ……!? レリス! これって!?」

「はい、ベススからの返事です」


 紙はベスス……ナリストからの手紙だった

 内容は輸送した食料に関してだ


『モックル』を覚えているだろうか?

 南方にある木で、それで作った箱は中身が一定の温度に保たれるって代物だ


 ベススではラクダ車の荷台に使っていたが、俺はモックルを木箱にしたのをゼルナに提案して作ってもらった


 それが届いたのは今から2年前だ

 その年の冬に積もった雪をモックルの箱に詰め込んだ

 そして去年の春から冬までの間に箱の中はどうなるのかを実験した


 結果的に言うと秋の始めまで雪は箱に残っていた

 その結果を見て、俺はある提案をした


 去年の雪を積めて、春に葉物をベススに輸送してみようと……

 要するにクーラーボックスにしたんだ……冷蔵庫って言っても良いかもしれない


 そして、今年の春にベススに輸送したのだが……その結果がこの手紙だ!

 なになに?


『 カイトへ

 あんたが送ってきた突然の葉物に正直驚いているよ!

 まさかモックルを輸送に使うなんてね!!

 あんたは大した男だよ!!


 送られた葉物はとても新鮮で、とても美味しかったよ! 思わず皆に振る舞ってしまったよ!

 これからは葉物が来ると期待してもいいんだよね?


 それと、今回の礼として新しい香辛料を送るよ!

 あんたなら使いこなせるだろう?


 私もモックルの木箱を輸送に使ってみるよ!

 来年はラクダのチーズを送るから、楽しみにしてなよ!!


 ナリスト 』



「どうやら、輸送は成功したようだな」

「はい、まあ春の収穫しか送れませんが……それでもかなりの進歩と言っても良いでしょう」


 良かった……少しは義理は果たせたな


「香辛料は既に調理場の方に送っています、そのうち新しい料理が出るかと」

「期待しておこう」


 料理長の腕はピカイチだからな!



「続いてはこちらです」


 レリスは3枚の紙を俺に渡す


「えっと……おお!! 出来たのか!」


 3枚の紙……これは俺の兜関係の書類だ


 2枚は設計図で、1枚は納品書

 つまり完成したから兜を納品したって事だ


「こちらが実物になります」


 兵の1人が兜をクッションに乗せて持ってくる

 ……あのふかふかしたのって何て言うんだ? 取り敢えず俺はクッションって呼んでるが……


 あ、そんな事より兜だ兜!


 俺は兜を手に取る


「おお……フルフェイスだ……」


 今までの使ってた兜は頭部は守っていたが、額から下は丸出しだったからな……

 パレミル平原の出来事が有ったから、俺は兜を新しくしたのだ!

 これなら不意打ちで額を抉られる事も無い!


 早速被る


「ほぅ……ほぅ!」


 視界が悪いが……目元のは上に開けるのか!

 本陣で軍議の時は上げて、戦いの時とかは下げればいいな

 サイズもピッタリだ!!

 テンションが上がってきた!!

 デザインも好みだ!!


「素晴らしいな!!」


 この兜を造ったのは誰だ!!

 褒美をたんまりと渡したい!!

 これを造った職人は贔屓させてもらおう!!


「カイト様、そろそろ外して落ち着きましょう」

「あ、あぁ……」


 俺は兜を外してクッションに乗せる

 兵士が兜を運んだ……次は戦の時にね?


「まあ、至急の用件はこれで終わりですね」

「他のは?」

「急ぎではありませんから」


 良かった……その束を全部相手しないといけないのだと思った……


「それではカイト様、そろそろ」

「ああ、諸君! 今回は色々と慌ただしかったが、何とか乗り切ることは出来た!! 残る敵はパストーレだ!! 既に伝えているがもう1回言っておこう! パストーレを攻めるのは3ヶ月後、収穫を終えた後だ!! それまで各自、思い思いに過ごして英気を養ってくれ!! 以上! 解散!!」


 しゃあ! 勤務終了じゃぁぁぁ!!



 ・・・・・・・・・


 風呂に入ってから

 自室に戻った


「あ、カイトさん!」


 椅子に座っていたティンクが嬉しそうに立ち上がる


「やぁティンク」

「あ、入浴を済まされたのですか?」


 少し残念そうなティンク


「そうだけど……どうした?」

「いえ、わたしがカイトさんを洗いたかったので……疲れてるでしょうし」

「それは、惜しいことをしたな、また今度頼んでいいかな?」

「はい!」


 俺はベッドに腰掛ける

 ティンクが隣に腰掛けて腕に抱き付く


 フニッとした柔らかい感触が腕に伝わる

 あぁ、久し振りの感触!


「俺がいない間はどうだった?」

「そうですね、凄く寂しかった……それ以外はいつも通りでしたよ?」

「そっか……ふむ……それ!」

「わっ!」


 ボフッ!


 俺はティンクを押し倒す


「俺も寂しかったよ……ティンクが恋しかった」

「そ、そうなんですね!」

「そんな訳で……今夜は目一杯! ティンクを愛でようと思いまーす!」

「わ、わたしどうなるんですか?」

「さあどうなるでしょう? 取り敢えずこう言っておこう……『今夜は寝かせない』」


 とか言ったけど、結果的に体力が尽きて2人共寝ちゃうのがオチだよな、こういうセリフって



 まあ……うん、そんな事を考えるのは止めよう

 今は、愛しい奥さんの事に夢中になることにする



































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