第99話 帰る場所
ーーーカイト視点ーーー
オルベリンが隠居を決意してくれた
嬉しくもあり、悲しくもある……てか良心が痛む
俺の我が儘でオルベリンを隠居させたんだ……うん、退職金とかいっぱい渡そう
それに暇を見つけたら会いに行こう!
取り敢えず俺とオルベリンは朝食を取ることにした
オルベリンは昨日は殆んど食事を取ってないからな……ずっと寝てたし
だから軽くサンドイッチを紅茶と一緒に食べる事にした
俺とオルベリンの前に4つずつサンドイッチが乗った皿が置かれて
其々の右手側に温かい紅茶が淹れられた
「ふむ……やはり美味いな」
オルベリンがレタスを挟んだサンドイッチを囓る
「そういえば……オルベリンとこうして一緒に食事をするのは久し振りだな……」
俺としては初めてだが……カイトの記憶では幼少の時は良く一緒に食べてたが……領主になってからは全くだな
「そうですな……坊っちゃんも忙しくなられましたからな」
紅茶を飲む俺
「そう言えば坊っちゃん、最近遂にティンク様と交わられたそうですな?」
「ごふっ!?」
噎せる俺
「えっ? ちょっ? だ、誰から? レリスか?」
「ヤンユが嬉しそうに話しておりましたぞ? シーツの交換をした時に気付いたと……」
「ヤンユ!! またアイツか!!」
てかなんでバレたし!? シーツの交換?
…………あっ! あれかぁ! 確かに痕跡あるわ!!
くそっ! 警戒しておけば良かった……
「んっ? てか話していた?」
なんか嫌な予感が……
「まあ、メイド達には広まってるでしょうな」
「うわぁぁぁぁぁ!! 知られたくない夫婦の事情を!! プライベートは無いのかぁ!!」
俺は頭を抱えた
「まあ、それを聞いてワシは安心しましたがね」
「なんで!?」
「ティンク様と結婚されたと言うのに、全く何もありませんでしたからな……跡継ぎ様は産まれるのかとレリスと2人で頭を抱えたりしてましたよ」
「あー、うん……なんか色んな気苦労をかけてたみたいだな……」
やっぱり跡継ぎは重要だよな
養子って方法もあるが……それはそれで後々問題が起きるんだよな……後継者争いとかね
有名なのだと上杉景勝と景虎とかね
2人とも謙信の養子で、確か景勝は実の姉の子だったかな?
まあそんな2人は謙信が死んだ後にどちらが後継者に相応しいかで争ったんだよな……
御館の乱って呼ばれてるんだっけ?
そんな感じで、跡継ぎはやっぱり実子が望まれるんだよな
「安心してくれよ、これからは励むから……色んな意味で」
「ワシが死ぬまでに何人産まれるか……楽しみにさせてもらいますかな」
ははは、と笑いながら言うオルベリン
おいおい、そんなポンポンと産まれるものじゃないからな?
「オルベリンこそどうなんだよ? 今まで結婚とかしてないだろ?」
オルベリンは未婚だ、子供がいるって話は聞いたこと無いし
そもそも女性の気配が無い
……まあ年だからな
「ワシは主に全てを捧げましたからな……アルガン様の時も、ベルドルト様の時も、主の為に戦うことに夢中でした」
「そっか……」
仕事一本に集中してたって事か
「……いや、これは言い訳ですな」
オルベリンは一口、紅茶を飲む
「言い訳?」
俺はサンドイッチを囓る
「本当は……怖かったのですよ……主と家族、両方が危険な状態の時に……ワシはどちらを優先するのかを考えると」
「…………」
主と家族……武人なら……将としてなら主を選ぶだろう
しかし、それ以外の者は家族を選ぶだろう
「オルベリンなら両方助けられそうだな」
「同じ場所に居るのなら、守って見せますがね」
そうだよな、かなり離れてたらオルベリンでも無理だよな……
「だからワシは婚姻をしなかったのです……」
一瞬、オルベリンが遠くを見た様な気がした
……過去に想い人がいて、何かあったのかもしれない
聞きたいが……そこまで踏み込むわけにはいかないよな
オルベリンも話したくないだろうし
・・・・・・・・
ーーーレムレ視点ーーー
「ふぁ……」
明朝、目が覚めた僕はトイレに行って用を足す
そして今は廊下を歩きながら欠伸をしていた
「んん……まだ早いかな……」
廊下に立ててある柱時計を見て時間を確認する
まだ5時かぁ……まだ起き出すには早いよね
「かといって二度寝する気は無いし……走り込みでもしようかなぁ」
身体を動かしたら寝惚けてる頭も冴えてくるよね?
「……んん?」
窓から外を見たら、中庭にある椅子にユリウスが座っていた
頭を抱えてテーブルに突っ伏している
「……どうしたんだろ?」
ナンパに失敗したとか?
いや、それはいつもの事だから落ち込む事じゃないよね
本当にどうしたんだろ?
僕は中庭に行く
そしてユリウスの向かいの椅子に座る
「……あれ、レムレ?」
ユリウスが頭を上げて僕を見る
「うんレムレ、どうしたのユリウス? 元気なさそうだけど?」
もうルミルと間違えないね!
「ちょっとあってね…………あ~、その、聞いてもらってもいいかな?」
「勿論」
僕はユリウスの話を聞く
簡単に言うと、今回のパストーレ戦で1度撤退したバルセさん
そのバルセさんがまた出撃しようとしたのを……怒鳴って止めたんだって
「叔父上を怒鳴るなんて……ああ、これからどんな顔して叔父上に会えばいいんだぁぁ!」
テーブルに突っ伏すユリウス
そんなに凹むことなの?
「あーユリウス、そこまで悩まなくて良いと思うよ?」
「なんでだ? 怒鳴ったんだぞ?」
ユリウスは怒鳴ったのが酷いことだと認識してるのかな?
「だって、それってバルセさんの事を想って言ったんでしょ? バルセさんはその事をわかってくれてると思うよ?」
「そ、そうかな?」
不安そうなユリウス
「カイト様も前言ってたよ? バルセさんは大事なのは何かを理解してるって……それって物事を理解してるって事だよね? 相手の言葉の真意も理解してるって事だよね?」
「…………」
「だから……うん、大丈夫だよ! 勇気を出して今度会いに行きなよ、それで話したらスッキリするよ?」
「……うん……あ、あのさ、その時は一緒に来てもらっても良い?」
「うん! 良いよ!」
「はは、よし! ならその時はアルスやルミルちゃんにシャルスも連れていこう!! リユとガガルガの案内をしてあげるよ!」
「わぁ、それは楽しみだ!」
元気を取り戻したユリウス
僕とユリウスは暫く談笑した
・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
朝食を終えた俺は玉座の間に行き、玉座に座る
「そこの君、少し頼まれてくれるか?」
そして近くにいた兵士数人に伝言を頼む
将達を集めてもらうためだ
少ししてから将達が集まってきた
下は兵士長、上は軍団長までだ
「諸君! よく集まってくれた!」
俺は玉座から立ち上がる
「兄さん、どうしたの?」
アルスが聞いてくる
「皆に伝えるべき事があってな」
「オルベリン様の体調が良くなったのですか?」
ルミルが聞いてくる
「まあ、昨日よりはな? そのオルベリンだが……隠居してもらうことにした!」
ざわっ!
将達がざわつく
「えっ? どういうことですか?」
レムレが首をかしげる
俺は玉座に座る
「ハッキリ言おう、オルベリンの身体は既に限界を迎えている……これ以上無理をすればオルベリンが持たないんだ……だから隠居して、療養してもらうことにした」
「オルベリンは納得したの?」
アルスが言う
「ああ、ちゃんと話をしたぞ」
「カイト様、オルベリンが隠居して……戦力は大丈夫なのですか?」
レルガが聞いてきた
「正直、オルベリンが抜けるのは痛い……だが、俺はオルベリンが抜けた穴は皆がしっかりと埋めてくれると信じている! 歴戦の将も、若手の者も、活躍してくると俺は信じている!」
だからオルベリンに隠居を勧める事が出来たんだ
見回すと、皆がやる気を出してくれてるのがよく分かる
「この東方も、残す敵はパストーレだけだ!! 皆の力に期待しているぞ!!」
これだけの戦力なら勝てる
俺はそう確信している
だが、相手も必死だろう……どんな手を使うかわからない
もしかしたら犠牲が出るかもしれない
それを防ぐためにも……万全な状態で挑まないとな!!
・・・・・・・・・
オルベリンの隠居を知らせてから4日後
オルベリンも動けるくらいに回復した
だから、今日オーシャンに帰還する……マールからなら2日だな
「オルベリン、辛くなったら言えよ?」
俺は馬車で向かいに座るオルベリンに言う
「大丈夫ですよ、まさか坊っちゃんに心配される日がくるとは……」
愉快そうに言うオルベリン
無茶はしないでくれよ?
こうして、俺達はオーシャンに……帰るべき場所に向けて出発した