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第98話 化物と呼ばれた男 3

 光は徐々に弱くなる


 そして遂に消えてしまった


 しかし新たな光が現れた


 意思を継ぎ、強く輝く光


 そしてその光は……



 ・・・・・・・・・・


 ーーーカイト視点ーーー


 俺は、オルベリンに隠居するように告げた


 これは、オルベリンの身体の事を考えた結果だ


 医者に診せて……俺は聞かされた

 既にオルベリンの身体は限界を迎えている事を……

 本当なら戦える身体ではない……しかしオルベリンは気力で限界を誤魔化していた

 だがそれも、もう限界だ……誤魔化せなくなった


 医者は言った……

『これ以上無理をすれば……もって3ヶ月です』


 そして同時にこうも言った

『しっかりと療養して過ごせば……数年は生きれます』


 それを聞かされて俺は悩んだ

 オルベリンには長生きしてほしい……それは戦略的にも言えるが……1番の理由は『死なないでほしい』だ

 カイトの記憶……いや、それだけじゃないな……

 俺がカイトとして過ごしてる間も、オルベリンは俺を支えてくれた

 時には父の様に厳しく、時には友として……


 いつの間にか、オルベリンは俺の中で大事な存在になっていた……

 何て言うか……サーリストでの俺の父親みたいな感じだ


 俺の両親も既に他界してたからな……

 オルベリンと接していた時は本当に安らいでいたんだ


 そんなオルベリンを……俺は死なせたくない……

 隠居しろ……これは武人であるオルベリンを侮辱する発言だ


 だけど……それでも……俺はオルベリンに生きていてほしい

 ただ……それだけなんだ……


 ・・・・・・・・


 ーーーオルベリン視点ーーー


「隠居……ですかな?」


「あぁ……」


 坊っちゃんから隠居を勧められた……

 辛そうな表情をしている


 武人であるワシに隠居を勧める……それがどれ程残酷な事か理解している顔だ


 それでも坊っちゃんはワシに伝えたのだ……


 ワシも答えねばなるまい


「坊っちゃん……それは断りますぞ」

「っ! 何故だ?」


 坊っちゃんが聞いてくる

 何故……そんなのは


「ワシが武人だからです、死ぬときは戦場で……そう誓ってワシは将になったのです」

「それはわかってる……だがこのままだと」

「戦場で死ねるなら本望です!」

「……っ」


 坊っちゃんが俯く

 そして必死に言葉を探す


 時々ワシを見るが……説得する言葉が見つからないようだ


 なんと弱々しい表情をされるのか……


 ……そういえば、あの時のアルガンも……こんな表情をしていたな……


 ・・・・・・・・・


「アルガン? どうしたんだ?」


 アルガンの部屋に呼び出された


 アルガンは机に座って俺を見ている

 なんか震えてないか?


「アルガン? どうして震えてる?」


 領主になって3年……ここまで怯えてるアルガンは初めて見た


「……………」


 んっ? メアリー? 居たのか?


 メイド長になったメアリーが俺の後ろに立っていた……俺と同じように呼び出されたのか?


「あー、コホン……オ、オルベリン……」


 気まずそうに話始めるアルガン


「どうした?」


「その……すまない!!」


 いきなり謝られた


「んっ? 何をいきなり謝っているんだ?」


 俺が首をかしげていると……メアリーがアルガンの隣に立った


「オル兄……私、妊娠しちゃった♪」


「そうか、妊娠したのか………………はぁ!?」


 いきなり何を!?

 てっ!? えっ? 妊娠!?

 あ、相手は!? てか、え、ええええ!?


「オルベリン、色々と驚いてると思うが……簡単に言うと相手は私だ!!」

「なっ!? はぁ!?」


 俺は混乱する

 と、取り敢えず座らせて貰おう


 すぅ……はぁ……


「………説明してくれ」


 俺は2人を見る


「その、だね……実は2年前から私とメアリーは恋仲になってたんだ……それで……領の事が落ち着いたら皆に発表しようと思ってたんだけど……その前にデキてしまってね……」


「…………」


 俺はメアリーを見る


「あはは……」


 苦笑いするメアリー


「…………はぁ」


 俺はため息を吐く


「メアリー……覚悟は出来ているのか?」

「オ、オル兄に怒られる覚悟なら出来てるよ?」


 ……違うだろ


「そうじゃない、領主の妻になる覚悟だ……普通の夫婦じゃないんだぞ? 謀略とかの危険と隣り合わせだ……お前は堪える覚悟は出来ているのか?」


 俺はメアリーを睨む


「そんなの……ずっと前から出来てるよ……じゃないと子供がデキる事なんてしないよ」


「そうか……アルガンは? メアリーを妻にするつもりなんだよな?」


 遊びって言うなら許さんぞ?


「当たり前じゃないか! 私は本気でメアリーを愛している! 誰にも止められないぞ!!」


 さっきまでの弱々しい表情がいつもの表情に変わる


「そっか……なら俺は何も言わない」

「……許してくれるのか?」

「何で俺の許しがいるんだ?」


 そこがわからん


「だ、だってオルベリンはメアリーの保護者だろ? 特別に想ってるみたいだったし……」

「それは妹分としてな? メアリーも成人しているんだ、俺がとやかく言う筋合いは無い」


 いや、寧ろ喜ばしいことだと思っている


 可愛い妹分が、親友と夫婦になるんだ

 こんな嬉しいことは無い


「先ずは婚姻の発表だな」


「う、うん……」


 こうして……アルガンとメアリーは夫婦となった


 元貧民街の住人を妻にする

 メイドを妻にする

 そんな理由で騒ぐ奴等も居たが……俺とアルガンで黙らせた



 それから数ヶ月後

 元気な男の子が産まれた



 それが……

『ベルドルト・オーシャン』の誕生だった


 ・・・・・・・・・


「……オルベリン」


 おや、ワシが昔を懐かしんでる間に言葉が浮かんだのか

 坊っちゃんはいつもの表情でワシを見ていた


「なんですかな? 何を言われてもワシの気持ちは変わりませんぞ?」


 ワシがそう言うと……


 ガバッ!

 バッ!


「!?」


 坊っちゃんが土下座した


「頼む……隠居してくれ……俺はまだ……お前を失いたくはない!!」


「ぼ、坊っちゃん!? 何をしておるのですか!? 頭を上げてくだされ!」


 領主が土下座をする

 しかも相手は配下だ……これは大問題だ


「頼むオルベリン!!」


 それでも土下座を続ける坊っちゃん


「お止めくだされ!! ワシの為にそこまでしなくても!!」

「これでも誠意が足りないくらいだ! でも、今の俺に出来るのはこれくらいだから……」

「坊っちゃん……」


 坊っちゃんの顔の下、床に水が落ちる……泣いているのか?

 そこまで……ワシに生きろと?

 戦うことしか出来ない化物に生きろと?


『オルベリン、頼む……皆を……見守って……』


「っ!?」


 ワシの脳裏に走る……あの時の事が……

 アルガンの最後の出来事が……



 ・・・・・・・・・


「オル……ベリン……いる?」

「ああ、ここに居るぞ」


 アルガンは自室のベッドで横になっていた

 眼は虚ろで……最早光を映してはいない


 領主になって30年……ベルドルト様が27歳になられた時に……アルガンは病にかかってしまった

 どうしても助からない……最早、死を待つだけだった


 メアリーはベッドの脇でずっとアルガンの手を握っている


「ベルドルトは?」

「ベルドルト様は領主の仕事を果たしている……もう立派な領主だ」

「そう……か……良かった……あぁ、ベルドルト……あの子なら……うん、安心……だ……」


 段々呼吸が弱くなる


「……ナユル、ベルル……2人が迎えに……来たみたいだ……」


 戦死した彼等が見えているのか?


「アルガン……」


「……メアリー……先に……いくけど……君は……まだ……」

「嫌です、旦那様! 私を置いていかないで!!」

「駄目……だよ……君は……生きてて……くれ……最期の……最期……まで……」

「旦那様っ!」


 メアリーが泣く……


「オル……ベリン……」

「あぁ……なんだ? アルガン……」


 俺はアルガンの頬に触れる


「これからの……オーシャンを……ベルドルトを……皆を……見守って……ほしい……頼める……かな?」

「あぁ、任せろ……俺が守ってやるよ……お前が愛した全てを」


 涙が出てくる……触れて実感する……アルガンの命が消える瞬間を


「良かった……それなら……安、心……だ……………………」


「アルガン? ………………」

「旦那様!!」


 バン!!

 部屋の扉が開いた


「はぁ……はぁ……父上は?」


 ベルドルト様が入ってきた


「……たった今……亡くなりました」


 俺は答える


「そうか……くっ……」


 ベルドルト様はアルガンの顔を見る

 そして……


「父上……後は、俺に任せてください……」


 そう言って振り返り、歩き出した


「マイルス、葬儀の手配を」

「了解、兄上……」


 こうして……アルガンは世を去った……



 ・・・・・・・・


 見守ってくれ……か……


 アルガン……ワシは時間が許す限り、生き続けるべきなのか?

 武器を捨て、将を辞め、ただの老人となってでも生き続けるべきなのか?



「………………」


 武人の誇り……

 これはワシの存在を証明するものだった


 だが……それは……主を泣かせてまでも必要な物なのか?



 …………答えは否だ


「わかりました坊っちゃん……わかりましたから頭を上げてください」

「えっ?」


 顔を上げる坊っちゃん……あーあ、こんなに涙を流して……鼻水も出て酷い顔だ


 ワシはタオルを取り、坊っちゃんの顔を拭う


「むぐっ! あ、す、すまない……」


 タオルを手に取り、自分で顔を拭う坊っちゃん


「その、オルベリン……いま……」

「えぇ、隠居する事にしましょう……坊っちゃんに泣かれてまでお願いされたのですからな……ははは!」


 ワシは笑う

 隠居すると決めたからか、心が軽くなった気がする


「すまない……オルベリン」

「謝ることはありますまい、それよりも……これからの事を考えないといけませんな」

「これから?」

「ワシの隠居を皆に伝えることと……そうですな、ワシは何か趣味を見付けるとしますかな!」


 アルガン……これで良いのだろう?

 ワシは生き続けるとする、この身体の限界まで……見守るとするよ


 だから、もう少し待っていてくれ……

 そうだな……せめて……

 お前の孫が、東方を制圧するまではな……























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