2 悲報、あたし神様の生け贄の『殉死者』でした
3ヶ月がたった。
ヒロコは翌日の勉強のために図書室に入り込んだ。
偶然棚から『魔法陣』に関する本を見つけた。ヒロコの目が輝いた。
(いいの見つけた。とにかく魔法陣のことを知らないと帰れないからね)
ヒロコは王太子の相手のあとは図書室に通い詰める日々が続いた。
図書室の棚の奥からマントーニ宰相が、机で本を読むヒロコをじっと見つめていた。
夜中まで図書室に入り浸りのヒロコは本を枕にうつ伏せ寝してしまった。
ふと目が覚めると肩に男物の上着が掛けられていた。
見覚えのある上着だった。
「へー、優しいところあるのねマントーニ宰相」
「ダリオってよく見たら、王太子なのにお父様、お母様に似てないわね」
「そりゃそうさ。あかの他人なんだもの」
「えっ」
王宮の客間。
監視の侍女がいない場所にヒロコはダリオを連れて行った。
「知らないの? 王太子は『神様の生け贄』の子供なんだ。アナ様……神様への供物として殺されるんだよ」
「まさか」
「ほんとだよ。それと僕と王様とは血の繋がりないしね」
ヒロコは国民から神の『生け贄』が選ばれることを知った。
「そんなー、ひどいじゃない。そんな理不尽なことあるなんて……」
ヒロコは涙目になった。
「あっ、泣かなくていいよ。国民の義務ってやつだから。この国は干ばつが続いたら雨乞いのためのアナ様に生け贄を出す慣わしなんだ。で、その日が来るまで王様の息子になって1年間、贅沢三昧させてくれるんだよ。僕は貧しい農家に育ったから感謝してるよ」
「かわいそう……あなたがいなくなると寂しくなるわ」
ヒロコはダリオを抱きしめた。
「ううん、寂しくないよ。ヒロコと一緒に死ぬんだもの」
「なんですって!」
ヒロコは愕然とした。
「あれ、言ってなかったか? そもそもあなたを異世界召喚したのは、生け贄の王太子の殉死者を迎えるためです。これは伝統であって、名誉です。誇りなさい」
マントーニ宰相が言った。
「げっ、私は死にたくない。死ぬなんて嫌よ!」
「だったら囚人で無期懲役だけどいいか? 足に重い鎖を付けられて屋外作業の労務を死ぬまでさせられるんだぞ」
「い、嫌よ、そんなの嫌に決まってる」
「よし、じゃ問題ないな。私はこれから雑務があるので」
マントーニ宰相は、ヒロコを執務室から追い出した。
「こうなったら、王様に直談判だ」
ヒロコと王太子は王族と一緒のテーブルで食事していた。
夕食後、王と居間で話をした。
「ダリオ君を神の生け贄(アナ様だっけ?)にするなんてひどいと思います。……私もですけど」
「私には二人の息子がいた。全員アナ様の生け贄に差し出した。それが王国を率いる王の責務だからだ。もし王太子とヒロコを生け贄にして、それでも干ばつが収まらなかったら、わしと王妃も生け贄になる覚悟だ」
「それじゃ王国は……」
「王の代わりはいくらでもいる。野心家のマントーニ宰相などその筆頭だろう」
「うぐぐ……」
「そういうわけだ。理解してくれてありがとう」
(理解なんかしてないわよ。でも何を言ってもムダ。早く魔法陣の秘密を解明して現世に戻らなくては……)
ヒロコの足は自然と図書室に向かった。机に革表紙の本を広げた。
(夕食後に図書室に通い詰めて分かったこと。魔法陣はこの世界の人間よりはるか昔の人々が作り出したものだった。古代の移動手段らしい。それを研究していたかつての魔女が蘇らせた。
うーん、めいわくな奴め。
アナ様に人間の生け贄を差し出す契約で、魔族を滅ぼしたとある。この世界に魔族がいないのは、アナ様のおかげらしい。
それからは干ばつのときに生け贄を差し出す慣わしになった。処女を生け贄にしたら大層喜ばれたとあった。
ヒィィー、あたしのことだ! それからは殉死者は処女であることを神の使いに約束したと。あれっ、これってもしや……)
ヒロコは眉間に皺をよせて本に顔を近づけた。
「ほう、『魔法陣』の研究か」
ヒロコが図書室の机に本を山積みにして読んでいると、背後からマントーニ宰相が顔を覗かせた。
「うわっ、脅かさないでよ」
「すまんすまん。ちょっと気になってな。で、ヒロコの世界に戻れる方法見つかったか?」
「……見つからない。助けてください」
「助けたいのは山々だけど、それだと干ばつの食料不足で国民が飢餓で死んでしまう。ヒロコを助けたいのは本当だ。これだけ会ってれば情も湧く……」
マントーニ宰相は目を細めて、懇願するヒロコの顔を見つめた。
「でもそこは心を鬼にしなければ」
「鬼になんてならないで、お願いマントーニ宰相〜」
ヒロコが手を合わせてウインクした。
(本当はけっこう優しい人だと知ったからね)
「……明日出かけるから、ついて来なさい」
「えっ、ダリオの相手をする時間しかないけど」
「ダリオ王太子の地元の農家に行きます。ヒロコにも見てもらいたい」




