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第五幕第二場





 二〇三一年七月 永田町


「受験生がエレベーターホールに到着したとのことです。控室まで案内してあげてください」

「はーい」


 人事から採用の手伝いに駆り出されたピノコが集合場所のエレベーターホールに向かう。総理のおかげで経験者採用が活性化し、NIIAも毎月、官庁訪問を行っていた。狙い目は、そろそろ民間企業で働くことに疲れた優秀な人材である。ピッ、と静紋認証装置でロックを解除し、ピノコはドアを抜けた。内線電話の置かれた台の前に、すらっとした男性が、こちらに背を向けて一人立っていた。


「こんにちは。官庁訪問を予約された方でしょう、か……。ゑ、」


 ピノコは呼吸を含めた躰じゅうの一切の動きを、止めた。否、止めざるを得なかった。

 何の悪い冗談だろう。もう二度と顔を合わせることもなかろうと思っていた男と、職場で遭遇するなんて。


「――はい。そうです。こんにちは」

「こ、んにち、は……」


 ギギギギという効果音が付けられそうなほどの硬い動きでピノコが会釈をする。


()()()()()、わたくし、押淵忍と申します」


 テレビCMに出てくる俳優のように爽やかな笑顔を向けられ、ピノコは思わずその眩しさに目を眇めた。やっぱりあの芸名みたいなきれいな名前は偽名だったのかこんチクショウ。

 ヒク、ヒク、と彼女が頬を引きつらせる。


(いや……オシフチ?)


 どこかで聞いたことのある名前だとピノコは思った。確かOSSの創業者の名は――。


「あ、」

「――日埜(ひの)(こころ)さん」


 一歩、距離を詰められ、ピノコが首から提げたIDを、手に取ってじっと見られる。受験生の前でしまい忘れていたことに気づいたのは、彼がIDをパッと手放したときだった。

 自身の胸に片手を置いて、ニコッと彼が微笑む。


「以後、お見知りおきを」



 とんでもないことになった。









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