もう一つの契約解消
もう一つの元凶。
娘が泣いて帰ってきた
あら、お人形を買いに行ったんじゃないの?
侍女が「売らないと言われて帰ってきました」と言う。
なんですって?
「壊されるとわかっていて、職人が精魂込めたものを売る気はない」と言われたの?
ひどいわね。
夫が休みの日に、改めて一緒に行きましょうか。
きっと、平謝りで買ってくれと言ってくるわよ。
その夜、夫が雑誌を開いて私に見せる。
違う国の言葉でよくわからないわ。
夫が私の言葉を遮り、一方的にまくし立てた。
「王女殿下のお気に入り」という記事だ。
君の義姉が作ったドールハウスが、外国の王女殿下のお気に召したそうだ。
通訳なしで楽しく過ごしたと書いてある。
読めもしない君とは、えらい違いだな。
しかも、作家になったきっかけが、義妹に母親の形見のドールハウスを壊されたからだと……これ、君のことだよね。
そんな子どもの頃の話を今更だと?
反省していないのか。
この国だけじゃない。他の国の王室にも愛好家がいる作家だ。
実家が小遣いをくれないから十代でデビューしたなんて、どんな家なんだと話題になっているぞ。
君のご両親が夜会で「娘さんがたいそうご活躍ですね」と話しかけられて「なんのことだ」と言ってしまい、「本当のことらしい」とすでに知れ渡っている。
「遊び歩いて男あさりに忙しいご令嬢」が、いつ根気が要るドールハウスを作成するんだ?
「困ったお義姉様」というのは、どこの誰のことだ?
君の言うことは信用できない。
このままでは、こっちまで笑いものだ。
離婚させてもらう。
明日には弁護士が来るから、協議しよう。
数日もらうが、荷物をまとめて出て行く。
入り婿だから、持ち出せるものなんか、あまりないよ。
もちろん、君からの贈り物は置いていく。
実家に相談したら、領地で補佐でもすればいいと受け入れてくれた。
僕が恥ずかしくて社交界には出られないだけじゃないんだよ。
結婚したままだと、僕の実家にも悪い影響が出てしまう。
「あんな女とよく縁を結べるもんだ」と信用を落としかねない。
いくらなんでも、ひどすぎる。
罪のない義姉の悪口を言いまくって、令嬢としての立場を奪って。
なんて性格が悪いんだ。
今まで「家付き娘の可愛い我が儘」だと思っていた自分が信じられないよ。
愛していないのかだと?
「義姉に虐められても健気に耐える少女」なんていうのが、そもそも幻だったんだ。
僕の愛も存在しない、幻だ。
これは外国の文化誌だが、国内のゴシップ誌がいつ「最初にキャリーを裏切った男」と僕に突撃してくるかわからないだろう。
義姉から妹へ乗り換えた男?
君の言葉を真に受けて、人前で彼女に苦言を呈したこともあるんだぞ。
ああ、僕は嫉妬深い女の戯れ言に振り回された道化師として、有名になってしまうね。
子どもたちが僕と一緒に田舎に来たいと言うなら、連れて行く。
今日、泣いて帰ってきた? 義姉の作品を扱っているドールハウスなら当然だろう。
これから子どもたちに説明をして、僕か君かを選ばせよう。
子どもたちには辛い選択だと思うが……。
事実をねじ曲げるな。
子どもたちに罪悪感を植え付けて、付け込もうとするな。
君は本気で「自分に非が無い」と思っているのか?
……すごいな。
そんな人間とやっていけるわけがないだろう。
政略結婚なんだから、利がなくなって害ばかりになれば解消だ。
ああ、元婚約者として、キャリーは謝罪を受けてくれるだろうか。
優しい彼女なら、きっと……。
ああん? 離婚しないという選択肢は、ない。
きっちり「ざまぁ」しました。
この夫も反省してないですね。




