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契約解除

事態が一気に動きます。

 月一で生家から訪問して、養子がちゃんと扱われているかチェックすることになった。

 その第一回目は、次兄が来た。



 次兄は義母にかなりの好印象を持ったらしい。

 穏やかで、知らないことを素直に知らないと言い、外国の話を聞きたがる。

 貴族の知識には疎いが、聞いた話しを理解して返してくる質問に知性が感じさられる。つまり、今まで学ぶ機会が少なかっただけだろうと。



 次兄は義母の好みを訊き、土産を持って何度も訪問するので、だんだんと義父の機嫌が悪くなる。

 自業自得だと思う。


 好みも訊かず、自分の趣味を押しつけて突き返される義父。

 はっきり言って、反面教師だ。



「恥ずかしいから社交の場に出るな」という契約をしてしまったため、義母は夜会にも行かない。実際、デビュタントしか行っていないので、行けなくて寂しいとは思わないそうだ。


 夜会用のドレスや装飾品を贈っては、「着ていく場所がない」と突き返されて、義父の衣裳部屋に溜まっていく。

 流行が変わる前に売った方がいいと思うけど。



 贈り物を拒否する時の言い合いで、義母を虐げていた使用人がたくさんいて、僕が養子に来る前に解雇していたことを知る。

 その使用人たちは、義母に嫌味を言い、数少ない持ち物を壊し、狭い部屋をあてがって掃除もしなかったらしい。

 それを「解雇したんだからいいだろう」と恩着せがましく言い、未だに許さない義母を責めていた。この人、頭おかしいな?



 ある日、夜会に行った義父が帰ってこなかった。

 別に大人なので、誰も心配しない。


 ところが翌朝、義父が夜会の会場の家のご令嬢の部屋で発見されたそうだ。


 その家――ライト家のご当主が、「責任を取れ。妻と離婚して、再婚しろ」と応接間で騒いでいる。


 すぐに僕の生家から父が来て、養子縁組の解消と義母の離婚が成立した。

 それぞれ、解消したときの取り決めがしてあるので、その気になればスムーズに手続きが進む。



 義父はいろいろと言い訳をしていたが、誰も聞こうとしない。

 ただ、書類にサインをしろと迫られ、従う姿は一人前の大人には見えなかった。


 義母は無表情に「期待していませんでしたけど、本当に口ばかりですね」とぽつりとこぼした。



 義母は行く当てがないだろうと、僕の生家に来てもらうことになった。

 荷物は後日引き取るからと、最低限の荷物を持って馬車に乗せられた。


 新しく雇われた使用人たちは、義母が虐げられている姿を見ていないので「なんで旦那様の献身を受け入れないのか」と義母に批判的だった。

 だから、特に挨拶したい使用人もいないようだ。




 生家から派遣している使用人たちは、僕の荷物をまとめたら、そのまま戻ってくることに話がまとまった。



 そして、最後の悪あがき。

 出て行こうとする僕たちを、義父が通すまいと両手を広げた。


 義父が「初夜に傷つけるようなことを言ったことは反省している。君が好きなんだ」と言う。


「独身のご令嬢と関係を持っておいて、責任を取らないおつもりですか。私のことも彼女のことも、何だと思っているの?」

 義母が軽蔑の眼差しを投げた。



 それをライト家の当主が、厳しい目で眺めていた。

 もう、どうにもならない状況で、自分の立場を悪くするだけのパフォーマンスをするなんて、本当に馬鹿だなぁと呆れた。


 縁が切れてよかったよ




 馬車の中で、義母……キャリー様が緊張している。

 僕の生家に行くのは初めてだし、またしても自分の意思ではなく状況に流されているのだ。



「未練がありますか?」

 そんな訳がないとわかっていて、あえて訊いてみた。


「いいえ、ちっとも。あなたは継ぐ家がなくなって、心配かしら?」

 すぐに僕のことを考えてくれる。

「継ぐ頃には、家がなくなっていそうだから……早めに進路変更できて、よかったかも」

 二人でふふふと笑いあう。



 それを見ていた父が満足げに目を細めた。



 昨夜、醜聞になる事態が発生したとして……手際が良すぎる。

 舞台になったライト家の反応も、騒ぎ立てて娘を嫁に出すつもりだったとしか思えない。

 ご令嬢は未婚で二十代半ば。貴族としては「何か問題があるのでは」と邪推される年齢だ。


 だいたい、父がすぐに駆けつけてきたのが怪しい。

 予定を空けて待っていたとしか思えない。


 義父よ。これが「貴族」だ。


私が考える「貴族」ですけど。どうでしょう?

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