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第二話

回 想

 退屈な部下との交流。これも仕事だと割り切らなければならない。しかし、暑くて退屈でこんな場所からすぐにでも立ち去りたい。媚びを売ってくる部下の相手をなぜしなければならないのか。私も若い頃に少なからずもやったことがない訳ではないが、いざ立場が逆転するとこんなに目障りなことをしていたのかと思うと、自分が恥ずかしくなってくる。


 翌朝、午前十一時に専属のドライバーが運転する社有車に乗り、市役所の駐車場を出発した。同乗者は工事課の課長と課員二人だった。

「所長、今日の視察は午後一時に現場集合です。現場事務所には連絡を入れていますので、途中で昼食を摂りましょう。何かご希望はありますか」

 工事課長はまるで私の秘書のようだ。

「特にないよ。君たちの好きなものでいい」

 私は世の中の上司が部下に返すお決まりの返事をした。

出発してしばらくは、部下たちと他愛もない雑談に花が咲いた。専ら市役所内のうわさ話だったが・・・。総務課の課長は頭が固いだの、受付の女性が最近代わった理由だの、老後の年金の話しだの、私にはどうでもいいことばかりだった。

 社有車が高速道路を走り出すと、心地より揺れに誘われて私はすっかり眠りに就いてしまった。現場までの所要時間は一時間程だった。途中で昼食を取り、現場に到着したのは午後一時を過ぎていた。


 現場に着くと施工会社の面々が駐車場に整列して、私たちを出迎えてくれた。おそらく工事課長が、近くまで来ていることを現場事務所に社有車の中から連絡をしてくれていたのだろう。相変わらずよく気が回る。

 現場職員の方々から手厚い歓迎を受けた私たちは、現場事務所の応接室に案内された。現場事務所といってもプレハブの品祖な建物だった。応接室で私たちは冷たい麦茶をごちそうになっていると、現場の職員の方々が勢ぞろいして私たちに挨拶をしてくれた。いつも思うことだが、私はそれほど大それた人間ではない。もう少し普通に扱って欲しいのだが・・・。


 それから現場の所長から工事の概要について説明を受けた。所長は一見したところ四十歳過ぎだろうか。作業服の着こなしに清潔さが漂っていたが、どう見ても現場のたたき上げといった顔をしている。所長は熱心に施工中の橋梁について説明をしてくれたが、細かい工事のことは私の頭に中には残らなかった。工事課の三人はメモを取りながら熱心に説明を聞いていたが、私の立場で記憶しておく必要のない話しばかりだ。これも退屈な時間だ。私がここに来る必要があったのか、そんなことすら思えるが、決して表情には出さない。


 この橋梁は幹線道路の交差点を跨ぐバイパスとして、私の肝いりで建設された。橋長三百メートル、鋼桁の上にコンクリートの床版が載っている構造だ。所長の説明によると床版までの工事がすでに完成しており、今から見学するアスファルト舗装の敷設工事が終われば、ほぼ工事は完成したことになるらしい。


 所長の退屈な話しがやっと終わり、現場で用意してもらった安全靴に履き替え、ヘルメットと軍手を借りて、私たちは現場に向かうべく事務所の外に出た。一歩外に出た瞬間に熱気が一気に襲ってきた。外気温はすでに30℃を超えていた。少し歩いただけで私の着る作業服が汗でびっしょりになった。事務所で手渡された工事用のヘルメットをかぶっていると、暑さがさらに増幅される。だから、私は顎紐を止める振りをしていた。安全確保の意味では問題のある行為だが、私は現場作業員ではない。暑さをしのぐ意味でも、これくらいのことは許されて当然だ。


 私たちは所長に先導されて工事現場へと足を踏み入れた。施工している橋梁の取り合い部は、盛り土になっていて舗装はされてなく、土がむき出しになっていた。その土の部分が現場に必要な資器材置き場になっていたが、思いの外、整理整頓が行き届いていた。以前に見学した現場は、散らかり放題でよく事故が起きなかったなと思うほどだった。さらに歩みを進めていくと、白いコンクリートがむき出しになった長い長い橋梁が見えてきた。その橋梁の両端は土工部と接続されていて、土がむき出しになった場所で現場監督員たちと作業員たちが私の前に整列し、再び私たちに挨拶をしてくれた。

 ―そんなに何度も挨拶してくれなくていいのに・・・。

 私は心の中で呟いた


 現場監督員たちは皆清潔な服装をしていた。所長の教育が行き届いているのだろう。それに反して後ろに並んだ作業員たちは、薄汚い身形をしていた。歳の頃は20代から30代と言ったところだろうか。作業服は薄汚く、鼻をつまみたくなるほどに汗臭い。この現場では所長に次ぐ主任クラスの現場監督が、橋梁の方を指さし、何やら熱心に説明を始めたが、やはり私に興味がないのか何も頭の中に入って来ない。しかし、ここでも部下たちは熱心にメモを取っていた。


 アスファルトの管理方法やそれを敷き均す際の注意点など、どうやら主任監督は舗装工事の手順を説明していたようだ。ほとんど記憶していないが、「熱い」とか「火傷に注意」と言った安全管理に対するキーワードだけが記憶に残っていた。

 ―これから飛んでもなく熱いものが、大量に搬入されて来るのか。

 私はそう思うと、ヘルメットを脱ぎ捨てたくなるくらいに憂鬱になった。


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