とんがる気持ち
領都、リーロイヤ。
私たちの生まれ育った国とはリロイ湖を水源としたリーロイ河を挟んで、お隣の国にある辺境伯領の中心地である。北の方角には山が迫っているが豊富な地下水の恵みで、地熱もあり冬もさほど豪雪にならないところだ。
リロイ湖周辺は大小7つの湖からなる景勝地があり、観光地となっている場所でもある。
また陸路の交通の要所でもある。ここを通じて亜人の国々との交易もさかんらしい。
「銀貨4枚、たしかに預かったよ。ではこれは滞在許可証だ。なくさないように。最大で7日間はこれで街にいられるが、延長する場合はさらに手続きが必要になる。気をつけるように」
冒険者であるウリセスとテオは冒険者用のタグを見せるだけで街に入れるが、私たちはそうはいかない。
銀貨2枚ずつを払う必要がある。
問題を起こさなければ、帰る時にそれは一部を除いて返されるので良心的といえば良心的なのだろう。
門番は受付するごとに同じセリフを相手に伝えている。喉がからっからになりそうだ。
商人や農家などはやはりタグを見せている。なのでスムーズに街に入れる。
厳しいのは出稼ぎにきたとおぼしき集団だ。ひとりひとりに誰何しているようだ。
「元のエストラーダ国から流民が随分流れてきているようだからね」
私がそちらを見ていると、ウリセスが答えてくれた。
「それなりの時間がたっているのに…」
「新しい国を興したものの、統治する貴族の中で上手くいっていないようだね。元の王家の血筋を担ぎ出そうという動きもあるみたいできな臭いよ」
元の王領のものについては貴族達で分け合い、国としての決定については貴族院で行っているらしいと聞いた。
取り分について、不満のある貴族がいたのだろうか。
「そう、なんだ」
ちゃんと考えてみるとわかる。自分のしでかした事の影響の大きさに気が重くなる。
それと同時に思い出すのは、刑場でヤジを飛ばす一般の人々の姿だ。
漏れてきた本音。無責任な好奇心。一人の女性にすぎない身への過ぎた嗜虐心。
彼らは直接私に何かしたわけではない。でも、私に敵愾心をむけ私の死を望んでいた。
あの時、あの刑場に集まったすべての人が私の死を望んでいた。
惨たらしく、首を落とされるのを、今か今かと待ちわびていたのだ。
私は首をもたげてきた罪悪感に無理矢理に蓋をした。
私たちがスムーズに都市に入れたのは、やはりウリセスとテオに対する信頼からのようだ。
まぁ、自国内の貴族の動向について、子息について位までは、ここローゼンリロイの領主は把握しているという事なのだろう。
まずは、住民登録にも必要な、ギルドの登録だ。
職業を持っていないとそれだけハードルがあがる。
審査時に「何で生計をたてるか」は大事な項目だからだ。
できるなら、お姉さまをどこかで休ませてあげてからにしたいけれど、住む場所を確保するためにも必要なので先に行う。
幸いにもギルドの中には食事処が併設されているので、そこの席に座ってもらい、ウリセスに姉に付き添ってもらう。
お姉さまはぼんやりと静かに腰かけているだけだが、周囲が突然高級ホテルのロビーにでもなったような錯覚さえ感じる。
どう見ても深窓の令嬢とその騎士といった居住まいだ。
ここはどこ?冒険者ギルドだよね?
ならばやることはさっさと終えないと。
「冒険者登録したいです」
受付カウンターにはテオも付き添ってくれたので、彼の権力で冒険者登録「狩人」としてスムーズに登録できた。
一人の受付嬢が、私の風体を見て、「本当に狩人なのか」と疑ってきたが、途中で狩ったツノウサギとゴブリンの討伐部位と魔石を見せると、トーンダウンした。
どうやらウリセスに好意を持っているんじゃないかなぁ?さっきから食事処のお姉さまをチラチラ見ているし。
面倒くさい事になりそうなので、あまり関わりあいになりたくない。
しかも、この人、受付嬢の中では古参らしく、他の受付嬢が、彼女の顔色を伺っているようだ。
この先、このギルドを利用するにあたって気をつけないといけないかもしれない。
今はテオやウリセス達と一緒なのでこの程度だが、私単独で来た場合のアタリが心配だ。
「では、ご家族の方の登録はどうしますか?」
いかにも親切そうに言うが、どうみたってお姉さまは冒険者登録しにきた人には見えないはずだ。
むしろ冒険者になると言ったら誰でも全力で無理だと判断するだろう。
第一にどう見ても具合が悪そうだ。
「登録するのは私だけです」
「一人で冒険者のお仕事をするつもりなの?言いたくないんですけど、高位ランクの方に寄生する事を考えているなら止めて欲しいわ。貴女が足を引っ張る事によって、優秀な人達が迷惑をこうむるのよ?」
はい、牽制来ました。
「僕たちは彼女に助けられた。彼女は強いし、そういう心配だったらいらない。それとも僕たちが助けられた恩をそのままにするような人間だと思われていたのかな?ギルドマスターには報告が行ってるはずだけど?」
「…いえ、そういうつもりじゃ」
テオに反論されて、受付嬢は悔しそうだ。
「前から思っていたけど、君ってこの仕事好きすぎだよね?ちょっと越権してる時があるよ?それだけ冒険者の事を思ってくれるのは素晴らしい事だと思うけど。ほどほどにね?」
「あ、いえ。そんな」
褒められてませんよ?受付嬢さん。そこ、顔赤らめる場面じゃないと思うけど。
「それと、ギルドの持っている不動産情報が欲しいんですけど」
「…。新人は裏にあるギルドの借り上げアパートメントが使用できます。いま空き状況を…」
「いえ、売り家情報が欲しいんです。家、買うんで」
「は?」
受付嬢は思い切り馬鹿にしたような顔で私を見た。
「ギルドに登録して最低は1年の活躍がないとギルド保証が効きませんから家を売り買いできないのですが。第一予算は…お持ちですか?」
そこでハッと気が付いた彼女は目を釣りあげて言った。
「…、まさか助けた恩をちらつかせて無心しているんじゃないでしょうね?」
「そこまでずうずうしくないつもりなんですけど。親の残してくれた遺産がまだ少しだけ残ってるんで買えると思います」
「ちょっと今、言ったよね?ほどほどにって。それにBランク以上の冒険者の二人以上の保証人がいれば、
ギルド保証が効くはずだよ?ほらギルド規約のここ…。」
テオの援護がありがたい。一人でこの人と対峙してたら話が進まないと思う。
「ご心配ならギルド保証の月賦は使わない予定です。なので紹介して頂けるだけで十分です」
一括で買えると思うんだけどそれを誰が聞き耳たてているのかわからないここで言うのはちょっと。
「あ、あのっ。不動産紹介はジルバーノさんのカウンターの方がいいと思うので。資料もそこに置いてありますし」
彼女の後輩と思しき別の受付嬢がさっと間に入る。
よし、彼女の顔は覚えた。次に用事がある時は彼女のいるカウンターに並ぼう。
「あ、どうぞ、次の方ですね。私はここの手続きはすんだので」
後ろに並んでた人に順番をゆずってジルバーノさんという人のカウンターを目指す。
背中にじりじりとした感じの悪い受付嬢の視線を感じるけど、逃げるが勝ち。