お薦め物件と奴隷
ジルバーノさんはちょっとおどおどした感じの若い男性だった。
「ギルドが持っている売り家の情報が欲しいんですけど」
「パーティの拠点用でしょうか?」
「いいえ、家族が療養のできるファミリー向け物件でお願いします。」
「でしたら、こちらとこちらに纏めた資料があります。商店などのある生活しやすい場所のものはこちら、郊外で静かな物件がよいのならこちら」
「2の壁内の物件をお願いします。」
「それだとご予算の方がけっこうしますが?…ちょっと失礼」
ローゼンリロイの領都は発展の途中で外壁を3度作っている。
外側より3の壁、真ん中が2の壁、貴族などが住むうち側があるのが1の壁。
さらに王城を守る壁があるけれど、それは数に入れないらしい。
2の壁の内側はそこそこ裕福な一般人が多く住む場所といったところだろうか。
3の壁の内側は冒険者を含めた肉体労働者の住居、もしくは何かの工房関係の建物があったりする。
少ないが農地もある。市も立ったりするが市場といった趣で商店ではない。
冒険者ギルドもこの3の壁の内側にある。とはいえ、各壁の間はフリーなので通行に不便はない。
有事の際にはその例ではないとは思うが。
「えっ?」
ジルバーノさんは、回されていたメモをくしゃっと丸めると、おどおどと例の感じの悪い受付嬢の方を見ている。
彼女はちらっとこちらを見たが、なんか嫌な感じの笑みを浮かべると受付業務の続きに戻ってしまった。
あ、そうか、彼女からの「指令」みたいなのが回ってきたのね。
「感じ悪いなぁ。アイツ」
テオもその一瞬の笑いを目撃してたようで、ちょっと不機嫌だ。
「こ、こ、こちらの物件なんかおすすめです」
わかりやすくジルバーノさんが挙動不審になって、別の棚から出してきた2件ほどの物件を勧めてきた。
目が泳いでるし、わかりやすっ。
さて、どんな嫌がらせが待ってるんでしょうかね。
断ったのにテオとウリセスもついてきた。
一人でチェックインした宿屋に置いておけないお姉さまも一緒だ。
もちろん馬車を借りた。
少し考えて最初に奴隷商に寄ってもらった。
これから私は単独で動く事も多くなる。お姉さまを見てくれる人間が欲しい。
マイモンの召喚も都市では目立ちすぎるだろうからすぐには無理だ。
かといって、一般の使用人を雇うのも私の能力的に知られると困る。
その点奴隷ならば契約魔法で縛られるから主人の秘密は守られるだろう。
エストラーダの孤児院出身の顔見知り達も何人かは市井で生活が出来ずに、借金などで奴隷に堕ちていた。私もじじいのところへ愛人行きが決まっていなかったら奴隷になっていたかもしれない。
そう考えると複雑だが、使えるものは使う。
私は私の事を一番に考える。
「…よろしくおねがいします」
あまり男臭くない少年と少女を奴隷として買った。
判断基準はお姉さまの拒否反応が出るか出ないかだ。
二人とも農村部の口減らしで売られたらしい。病気やケガの既往歴はなし。
素直で純朴そうだ。
私に買われるまでは、少女の方は貸し出されてメイドの真似事や小間使いなどをしていたらしい。少年は農家での下働きや商店などで丁稚のように使われていたようだ。
住み込みも経験していたらしく、手慣れた様子で荷物をまとめると私たちについてきた。
先に当たりをつけといた物件を2件ほど見る。
可もなく不可もなく。うーんピンとこない。
それからシルバーノさんが例の受付嬢に指示されてから出してきた2件の物件。
「ふーん。なるほどね」
1件は下級貴族なども住む高級住宅地にあるすごく値の張る物件、もう1件は手入れが行き届いていないのか草木の茂ったお化け屋敷のような物件だった。
しかも2の壁の内側とはいえ、リロイ湖に突き出した崖側にあり、すぐ裏側の庭は、まるでサスペンスドラマで犯人が追いつめられるような崖に続いている。
まぁ景色は最高だけど。落ちたら危ないね。
「この物件にするわ」
嫌がらせでよい物件教えてくれてありがとう。
「本当にここにするの?」
「ええ。もちろん本気よ」
近くに住むこの物件の管理人から鍵を受け取り、屋敷に入る。
本当はきちんとお金を払って名義変更をしないと住めないのだけれど、買ってくれるなら今日から居住してもよいとのこと。
何件も見てまわったせいで、あたりはすでに夕闇に染まっている。
今から宿をとってまた明日に出直すのもおっくうだ。
意外と綺麗な玄関から吹き抜けのホールが見えて、その奥には応接室があった。二階にあがる階段はしっかりしているようだが、台所や浴室など水まわりの痛みが激しい。
ここはやはりどこぞの商家の別荘だったようだ。在りし日にはオシャレな建物だったに違いない。
「リビングの床板が抜けているじゃないか」
「雨漏り跡が…。これは何か動物の毛?」
破格の値段なのは、取り壊し料金も込みだからのようだ。
窓を開け放つとかび臭い廃墟臭がマシになった。
「…これはつぶして建て替えるしかないだろうね。残念だけど手直しで住めるとは思えないよ」
家の中のあちこちを調べながらウリセスが言う。
「でもお庭も広いし、果樹とか植えてもいいかもね」
「庭の手入れの募集をギルドに出そうか?」
「大丈夫。庭仕事なら慣れてるもの」
「さすがに今夜は家の中は無理じゃないか?庭で眠るつもりなのかい?職人を手配するにしても、すぐには住めそうもないよ?やっぱり暫くは僕たちの拠点に…」
「ほら、あちらの離れ。あっちは少しはマシそうよ。きっと増築した部分ね。今夜はそこで眠るわ。
散財しちゃったから節約しないと」
ウリセスは最後まで心配そうだったが、たぶんお姉さまの事が心配なのだろうが、荷物を受け取ると私は笑って彼らを追い返した。
「今日はつきあってくれてありがとう。おかげで素敵な家を手に入れることができたわ。住民登録のことはよろしくお願いします。」
「本当に大丈夫?」
ウリセスは最後まで名残惜しそうにしていたけれど、私は笑顔で彼らを見送った。
早く、早く!帰って!!
奴隷の子達に離れを掃除してもらって、お姉さまにはくつろいでもらった。
あとは庭で野営の道具を使っての夕食の準備だ。
私は支度を彼らにまかせてお屋敷に入った。
今からここをダンジョン化する。




