1話 音が消えた夜
初投稿です
マイペースに投稿していこうと思いまするm(_ _)m
薄暗いライブハウスに、乾いたギターの音が響いていた。
観客は、ほとんどいない。
それでも私…鳴瀬詩音は、最後まで弦をかき鳴らした。
音が途切れる、その瞬間まで。
「……ありがとうございました」
小さく頭を下げる。
拍手は、まばらだった。
アンプの電源を落とす。
――無音。
さっきまで確かにあった熱が、一瞬で消える。
(……こんなもんか)
ドラムの優斗が苦笑していた。
「今日も渋かったなぁ」
「……」
「でも前よりは増えてるって。三人いたし」
「……誤差」
短く、それだけ返す。
それ以上、言うことはない。
売れないバンド。
分かっている。言われなくても。
(……でも)
指先に残る弦の感触を、確かめるように握る。
(これしかない。これがなくなったら、私は空っぽだ)
言葉にする気はない。
けど、それが私の全部。
音を鳴らすことだけが、自分の証明なのだから。
ライブハウスを出ると、夜の空気が肌に刺さる。
優斗達と別れネオンが滲む街を、私は一人歩いた。
イヤホンを耳に差し込む。
流れるのは、自分たちのデモ音源。
粗くて、未完成で、それでも好きだった。
(もっと、上手くなりたい)
(もっと、誰かに届く音を――)
その時だった。
キィィィ――ッ!!
耳をつんざくブレーキ音。
視界の端で、光が弾けた。
「え――」
避ける間もなかった。
衝撃が襲い、世界が歪んで――
そして、音が、消えた。
――――――――――――――――――――
どれくらい経ったのか分からない。
気づいた時、私はベッドの上で寝ていた。
「……ここは?」
起き上がるとそこは…。
木造の、古びた部屋。
見慣れない天井。
窓の外の知らない景色。
(……?)
体を起こすと、違和感に気づいた。
私の視界に入った手は、小さかった。
「え……?」
声も、幼い。
慌てて立ち上がろうとして、よろける。
足も、短い。
部屋の隅にあった桶の水に顔を映す。
そこにいたのは――
「……誰?これ?」
見知らぬ子供だった。
茶髪に、あどけない顔立ち。
どう見ても、小学生くらいの女の子。
理解が追いつかない。
夢?
それとも――
その時。
ガチャ、と扉が開いた。
「シオン、起きたのかい?」
入ってきたのは、見知らぬ女性。
……いや……知っている。
「……お母、さん?」
口が勝手に動き言葉が自然に出てくる。
「もう、急に倒れるから心配したんだよ」
そう言って母さんは私の頭を優しく撫でた。
その瞬間、頭の中に記憶が流れ込んできた。
シオンとして生きていた頃の記憶。
家族のこと
ここでの生活のこと。
(嘘でしょ……)
私は……。
(転生……したの?)
現実味なんて、ない。
でもひとつだけ、確かなことがあった。
――ここは、元の世界じゃない。
窓の外から、聴いたことのない、どこか歪な鳥の鳴き声。
景色も前世では見たこともないものだった。
それらがここが異世界だと証明している。
自分の状況を確認した後……。
私は、確認したいことが出来た。
「……ねぇ」
私は、ぽつりと呟いた。
「うちって、楽器とか……ある?」
その問いに、母はきょとんとした顔をする。
「楽器? どんな楽器だい?」
「……ギターとか」
「ギター?なんだいそれは?」
私は、その言葉に頭が真っ白になった。
この世界には……。
私の生きがい……。
私の全てだった……。
……ギターがないらしい。




