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再会

初のラブコメです!


「もしかして伊織?私だよ」

「え、ゴリ?」

俺たちはエロゲショップというアンノーマルな場所で再会した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

俺は西川伊織。都内の文系大学に通う1人暮らしの大学2年生だ。

見た目はもう平々凡々・・・すいません盛りました。全く流行も終えてないダサい人間です。

趣味は勉強と株とゲームとアニメ。勉強に関してはできる方なので、大学でも成績優秀者に選ばれていた。


学校ではボッチを貫いている・・・というより周りに人間に合わせることができなかった。

高校が男子校だったせいで、女子と話す時にしどろもどろになるし、男子の友達を作ろうと思ったら、出会いを求めるやつらが多すぎて早々に離れた。もちろんサークルも入ってない。


そんな1年を過ごしたせいで、俺のコミュニケーション能力は高校生止まりだ。しかも、元々そんなに高くはないのに・・・

そんな大学生の末路はオタクになるかバイト先にコミュニティーを作るしかない。

俺は幸いなことにそのどちらにも適正があったので、大学では死んでいるが別の場所では生きる道が見つかっている(マジでよかった・・・)


目下の悩みは大学2年になると再来月から後期になり、ゼミが始まるので、それだけが悩みだ・・・


                    閑話休題


そんな俺は今秋葉原に向かって山手線に乗っていた。秋葉原はオタクの聖地。俺は学校の帰りに週2で通っていた。そんなに来ていて楽しいの?って思うやつがいるかもしれないが、死ぬほど楽しい。掘り出し物や新作のゲームなど毎日のように更新されているのだ。宝さがしに近いかもしれない。


今日俺が秋葉原に来たのは、ゲームを買うためだ。しかもただのゲームではない。エロゲ(・・・)だ。推しの絵師のwhite chocolate先生の絵の大ファンになってしまい、原画を担当していたゲームはすべて揃えている。


「着いた~」

電車に揺られること30分。らし●ばんやセ●のゲームセンターが見えて、アキバに来たなあという感慨を感じる。


「まずはソフ●ップで良いかな~」

white chocolate先生のグッズはすべて揃えると決めているから、限定品が同封される店はすべて回る気だ。俺は最高にドキドキとワクワクとムラムラが同時に混在する状態で目的地に向かった。


これはみんなあるあるだと思うのだが、エロゲショップ、もとい、18禁コーナーに入るときって滅茶苦茶ドキドキしないか?初めて来たときなんて緊張で不審者と間違えられるんじゃないかと思えるくらい震えていたと思う。


安心してほしい。数十回来てもそれには慣れん・・・入るときに周りに人がいないか(特に女性)、そして、挙動不審にならないように深呼吸を忘れず、そして、異世界に転生するかのような気分で垂れ幕を上げる。そうやって初めて、エロゲを買うことができるのだ。中ではいろいろな紳士たちがいるが、彼らに対して詮索はノー。みんなあの垂れ幕を通ってきた勇者なのだ。たとえ、どんなにヤバい性癖であったとしても何も感じない。ただ仏の心で見守るのみだ。


そして、俺もそんなピンク色の世界の住人になった後、目当てのモノを探す。

「あったぁ、『義姉のススメ』!」

心の中でガッツポーズをした。


ただただ巨乳の義姉とイチャイチャするだけのAVG。最高だ!この人の絵のキャラと結婚したい!

そして、すぐに会計に持っていこうと『義姉のススメ』を手に取るが、俺の手を突然誰かが掴んだ。

「え?」


俺は驚いた。掴んできた腕の持ち主を見ると、警察官の恰好をしている婦警だった。俺は頭が真っ白になった。

「すいません、奥に来てください」

俺は手錠をかけられて連れてかれた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

店の奥の角部屋に連れていかれた。2人組の婦警にエロゲショップで捕まるって何かご褒美だと感じる強者もいそうだなぁと現実逃避を試みるが、そんなことはできなかった。

俺は自分の過去を思い返した。警察官に捕まるようなことをしたことがあるか?いや全くない。俺はそういうこととは無縁無害の人間だ。だから、こんなことで捕まるなんておかしい。もしかして、知らない間に犯罪でも犯していたのだろうか?

俺は自信を省みたが、全く見当もつかない。


目前の婦警は重い口を開いた。

「最近、未成年がこの18禁エリアに出没するという情報を店から聞いていました。その、あなたの挙動がどうにも不審だったので・・・」

「あ、そういうことですか・・・」


どうも俺は未成年と間違えられたらしい。そのため、こんな奥の角部屋に連れてこられた。全くいい迷惑だ。というか俺ってそんなに挙動不審に見えてたのか・・・そっちの方がダメージがでかいわ。

などと安堵していた。


「何か年齢を確認できるものはありますか?無ければそれを証明できる人に連絡をー」

「学生証があります!!!」

俺は前のめりで声を被せた。親に連絡されたらなんていえばいいんだよ!お宅の息子さんがエロゲを選んでましてぇなんて言われたら一生実家に帰れねぇわ!


「どうもです、え~と学芸院大学の、西川、、い、おり?」

俺の名前を読みながら俺の方を見てくる。しかも結構まじまじと。何か俺の顔に付いてるか?

「もしかして伊織?私だよ。後藤莉奈だけど覚えてる?」


え?俺のことを知っている婦警?なんで、いや今後藤莉奈と言ったか(・・・・・・・・・)

まさか・・・

「えゴリ(・・)?」

後藤莉奈。略して、ゴリ。


「やっぱり伊織かぁ!久しぶりじゃん!元気してた?」

「お、おう・・」

俺は幼馴染のゴリと数年ぶりに誤逮捕とともにエロゲショップで再会した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「それより伊織はこんなところで何・・・して・・んの///?」

ここがどんな場所かを把握して、ゴリは質問に詰まる。

それに対して俺はなんて回答すればいいんだよ・・・

エロゲを買いに来てたって堂々と宣言すればいいのか?かといって誤魔化したらなんかそれはそれでおかしくなるし・・・


「せんぱ~い、この人と知り合いなんですか?」

「そうそう、こいつは私の幼馴染で昔はよく一緒に遊んだ仲なんだぁ」

「へぇ~そうなんですね」

ゴリは後輩の女の子にそう説明する。そして笑顔で俺の方を見据えてきたが、目の奥は完全に真っ黒でゴミを見ているようだった。


俺はなんて日だ!と叫びたくなった。よりにもよって幼馴染に秘密の趣味がバレる(全く知らない後輩婦警にも!)し、しかも、誤とはいえ、逮捕されてしまったのだから、間違いなくここの店員にブラックリストに入れられているだろう。黒歴史ランキングで断トツトップに躍り出たわ!


「とりあえず釈放するわ。ごめんね、伊織。でも、次から利用するときはもうちょっと堂々としておきな」

「・・・・」

俺はなんて返せばいいか分からなかった。

うんそうだねって返せば、また利用するということを暗示してしまうし、かといって、もう行かねぇよ!と言っても、それはそれで・・・


そんなことを考えていると、ゴリの後輩が俺の手錠を外してくれる。

「さよなら、変態さん♡」

「~~////」

俺はゴリの後輩にそう言われて、元居たエロゲコーナーに戻った。が、当然周囲の目が俺に対して厳しいので、楽しみにしていたwhite chocolate先生のエロゲは買わずに帰った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

家に帰り、鞄を掛ける。そして、布団に倒れ心の底から叫ぶ。

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

羞恥心が心の中で暴れまくる。よりにもよってゴリ!俺の家の隣に住む超が付くほどの幼馴染。親の仲も良いから下手したら俺の秘密がバレる。そんなことになったら死ぬぞ?恥ずか死するわ!

今までの歴代トップの黒歴史、野球拳で負けて、吹奏楽部の女子たちに無言で俺の裸を見られたときよりもダントツに辛かったわ!!!

「ああ~憂鬱だ~」


しかもゴリだけではない!あの後輩婦警の視線が一番つらかった・・・なぜ見ず知らずの女性に俺の性癖をばらさなければならないのか・・・

「ハア~」

幾度目か分からないため息をついた。

「風呂にでも入ろ・・・」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

風呂から上がると、さっきまでの鬱屈として羞恥心に支配された感覚は薄れた。やはり風呂は偉大だ。風呂上がりのいっぱいに水を飲んで、●witterを開く。基本的に自分からは全く投稿しない、見る専だ。これをやるだけで一日が潰せるんだから今の俺には必須なアプリだ。


俺はしばらく●witterをいじっているとLIN●が届く。基本的にはバイトのシフトを変わってくれということだったり、生徒の情報だったりをグループに載せてくれているだけなので、俺から返信したりということは全くない。だが、今日だけは違った。

===============================================

『伊織~さっきぶり~明日飲みに行こう!』

===============================================

俺は嫌な思い出がフラッシュバックした。絶対に今日のことをいじられる。だから俺は無視することにした。

===============================================

『今日中に返信がなかったらおばさんに伊織が何をしていたかバラす』

『さっきぶり!どこの飲み屋に行く?』

===============================================

俺は光の速さで手のひらをねじ曲げた。ちくしょう~ズルいよぉ。人質なら性質(せいじち)を取られた気分だ。このカード一枚で俺はもうゴリの言うことを聞くしかない

===============================================

『じゃあ池袋で集合でどうよ』

『了解』

===============================================

「ハア~」

疲れた。もう寝よう。飯はまだ食っていないけど、喉を通る気がしなかった。願わくば今日のことが夢でありますように・・・

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌日の夕方。神はいなかったようだ。朝起きたらすべてが夢だったことを確認するために、LIN●を確認したが無情なことにすべての記録が残っていた。

午前中に株で稼いだ金をもって、俺は自分の家から重い足に何とか鞭を打って最寄りの駅に向かった。


俺は東京の大学に通っているが、東京寄りの埼玉から通っている。下手に東京に入るよりも家賃が安いからだ。学校までのドアtoドアでも30分程度なので滅茶苦茶便利だ。俺の実家は陸の孤島と言われるぐらいに何もないところだったからな・・・

===============================================

『今家を出たけど、どこに集合にする?』

『いけふくろ●前でどう?』

『おけ』

===============================================

俺は簡潔な文で返信する。池袋と言ったらいけふくろ●くらいしか思いつかん・・・他に良い集合場所ってあるのか・・・?広すぎて、集合するのが一番大変なので、いい場所があったらぜひ教えてほしい。もっとも俺が遊ぶ友達は地元のやつらくらいだけどな。


乗り換えなしで行けるので、10分前に着いた。一応LIN●でもう着いたという旨を伝えて、俺はボーっと待っていた。いけふくろ●前はすでに多くの人間がいた。ここにきてもウォー●ーを探せ並みにゴリを探すのってめんどくさいのでは?と思って気が滅入る。


しかし、中々来ないなぁ。俺は●witterをいじりながら、暇をつぶしていた。すると、池袋のホームの奥からモデルのようなスタイルの女性が真っすぐに歩いてきた。へえ綺麗な人だなぁ。俺は珍しく三次元の人間を褒めた。これから彼氏とイチャコラするんでしょうね。隣にいる人なんて超イケメンだしな。


俺はそう思って興味をなくし、●witterを見返す。音楽でも聴くかな。それにしても遅いな。

「おーい、遅くなってごめん!」

やっぱり、●oasobiはいいなぁ。『夜に●ける』なんて最高だと思う。

「おーい?聞こえてないのかぁ?」

でも、俺は『●ぶん』って曲が好きだなぁ。あのメロディーがなんか耳に残るんだよなぁ」

「聞こえてないのかコラ?」

「ふぁい!?」

俺は無理やり顔を上げさせられた。そして、目の前には怒り心頭な美人がいた。はて?さっきまでモデルみたいな人が歩いてくるなぁと目で追ったような気がするが・・・

「こんにちは、伊織(・・)

「昨日ぶり・・・ゴリ」

俺たちは再会の挨拶をした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

とりあえず、『一休み』に行くことになった。

安くいっぱい飲みたいというゴリからの要望を聞いたらここしかなかった。

「にしても久しぶりだなぁ。元気だった?」

「まあボチボチかな。ゴリは?」

「その名前で呼ばれるのも久しぶりだぁ・・・まあこっちもボチボチってところ」

「そうか」

俺たちは『一休み』までの道中、近況を話し合った。高校を卒業した後の話、どこに住んでいるか、今何をしているか等々、当たり障りのないことで場をつなげた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「らっしゃいませぇ~何名様ですか」

「二人です」

「じゃあこちらの席にどうぞぉ~」

俺たちは向かい合って座った。ゴリはさっそくメニューに目を通した。


にしてもこいつ変わりすぎじゃね?俺が再会した時の感想はそれだけだった。小、中と同じだったが、小学校のときは男勝り(それは今も変わらなさそう)でけんかっ早いので毎日誰かと喧嘩をしていた気がする。中学に入ると、その感じは薄れたが、それでも男が好むもので遊んでいたと思う。現に中学の時はゴリの家に行ってモンハ●をやったり、スマブ●をやったりとお互いに異性という感じも全くしていなかったので、よく遊んでいた。

高校に入ると、ゴリは女子高、俺は男子校と離れてしまったので、だいぶ疎遠になってしまった。しかも高校卒業を気に俺は大学へ、ゴリは警察学校の寮に入ってしまったので、ここ数年は全く顔を合わせていなかった。


「私は一杯目はビールって決めてんの!伊織は?」

「じゃあ俺も同じので」

「あいよ!すいませーん」

ゴリが酒と後は軟骨と焼き鳥の合わせを頼んだ。

そして、1分と経たないうちにビールが俺たちの前に置かれた。


「じゃあ、再会を祝してかんぱーい!」

「かんぱーい」

俺たちは乾杯の音頭に合わせて飲む。夏の暑い日にはビールが効くなぁ

「くぅ~やっぱりこの一杯のために生きてる!!!」

「大げさな・・・」

なんて言いながらも俺もぐびぐび飲む。

「おお~いい飲みっぷりだねぇ」

「ゴリには負けるよ」

ビールをグイっとあおった後に、レモンを付けた軟骨を食う。すると、レモンの風味と口に残ったビールの感触が混ざり合ってこれまた軟骨の味を引き立てる。美味いなぁ


「じゃあ私は焼き鳥をいただこうか」

ゴリが食べているのは焼き鳥のもも肉。専用の塩がもも肉美味しさをさらに磨き上げ、噛めば噛むほど塩ともも肉が一体となって味わえる。

にしても、焼き鳥とゴリって似合うな。


「結構、飲みに来てんの?」

「いんや、普段は宅飲み。同僚の女たちと飲むことがほとんどかな」

「なるほどな」


「そ・れ・よ・り」

「な、なんだよ」

妙に色っぽい。ゴリのくせに!


「エロゲが趣味だなんてねぇ~」

ニヤニヤとからかってくる。来たか・・・絶対にこの話題になるから、覚悟はしていたけどいざ言われるとばつがわるい。

俺はビールとたれをつけたつくねを一気にほおばって、

「プハー、悪いか?」

俺は勢いで乗り切ることにした。開き直ってすべての質問に対して、そうですが何か?っていうスタンスを取ることを決意した。

「いんや、別にぃ。にしても、『義姉のススメ』って(笑)」

ちくしょう!俺はもう一つの弱みの話をされる(・・・・・・・・)と構えた(・・・・)

「うちの姉貴にまだ未練があんの?」

「あああああああーーーー!!!!」

俺は頭を抱えてゴリの声をかき消そうとする。


俺はかつてゴリの姉である、後藤和葉に恋をしていた。二歳年上でよくゴリと姉妹喧嘩をしているなぁくらいの印象しかなかったのだが、俺が中2の時、ゴリと遊ぼうと後藤家に行くと、たまたま和葉さんがいた。中学生の男子なんて、女子高生が大人に見えてしまうのだろう。だから、ゴリに頼んでLIN●をもらい告白したが、撃沈。それを後藤家だけではなく、うちの家族にも知られてしまって地獄のような期間を過ごした思い出がある。


「私はやめとけって言ったのになぁ(笑)まあいいネタがもらえて私としては十分楽しませてもらったよ」

「・・・いっそ殺してくれ」

俺は机に突っ伏して灰になっていた。黒歴史を、しかも最大級のやつをゴリに握られているので俺にはゴリが大魔王のように見えていた。

「いやぁ、やっぱり伊織といると楽しいなぁ!あっすいません!おかわりお願いします!」

上機嫌で酒を頼むゴリを見て、俺は恨めし気な視線をゴリに送っていた。


数杯飲むと、俺たちは随分出来上がっていた。

「にしても、伊織と再会できるとはねぇ。場所があれだけど」

「もうその話はやめろぉ」

俺は呂律が回らなくなってきた。ゴリが酒に強すぎる。後、その話はもうぶり返さないで!

「再会できたことは嬉しかったよ・・・やっぱり幼馴染だからかな・・・ずっと仲良くやってきた伊織とお別れもしないで離れ離れになっちまうのはやっぱり寂しかったわ・・・」

「ゴリ・・・」

ゴリが少ししおれたような弱々しい態度になる。普段の勝気な感じと違って、女らしさが際立っていて俺は見とれてしまう。


ゴリは昔はショートばっかりだったが、今は黒のロングヘア―をポニーテールにしている。服装は紺色のチノパンに体型を見せないトップスを着ていて、カッコいいと美人が合わさってモデルのようだった。そして、何より、顔は俺の初恋の人と同じ血を引いているだけあって、よく似ていた。酒も入っているせいで、ゴリを異性として意識してしまった。


「俺も、その、寂しかったわ。やっぱり一番仲がよかったしな・・・その・・・って何してんの?」

俺はゴリの独白に答えようと、真剣に今の心情を語っていたのだが、ゴリはスマホを俺に向けていた。

「何って、今の伊織の表情を写真に残しておこうと思って(笑)滅茶苦茶赤くなってるじゃん(笑)」

前言撤回

「ざけんなコラ!消せ!」

俺は身を乗り出して、携帯を奪おうとするが、届かなかった。

「ついでに録音もしたから」

『俺も、その、寂しかったわ』


「消せ、消してくれ!!消してください!!お願いします!!」

俺は地面に頭が着く勢いで頭を下げたが、

「ええ~どうしようかなぁ」

この悪魔め。

「じゃあねぇ、この写真でなんで赤くなっていたのかを教えてくれたら返してあげるよ」

「この悪魔め!!」

俺は心の声を漏らしてしまった。

「そんなこと言っていいのかな?昨日の出来事を姉貴にバラー」

「お前のことを一瞬和葉さんと重なって美人だと思ってしまいました!!!!はいこれで終わり!!!」

俺は残りのビールを一気飲みする。もうヤケだ。こんちくしょうめ!!

「ハハハハハ」

ゴリも何が面白いのかずっと笑っていた。

俺たちはゴリが俺をいじり、それを聞いて俺が撃沈し、それを見てゴリが笑うということを繰り返したのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はああーーー楽しかった!!!」

「さいですか・・・」

俺は疲れた・・・、もう最後までずっといじられっぱなしだった・・・

結局あの後、3軒ほどはしごをしてしまった・・・

もうしばらく酒は飲まなくてもいいかもしれない・・・

「伊織はどうだった?そのつまらなかったりした・・・?」

不安そうにゴリは俺を見上げてくる。根が良いやつから、今日のことをやりすぎたと思って反省しているのだろう。だから、

「楽しかったよ。何より、ゴリが元気で本当によかった。久しぶりに会えて安心したよ」

本音で答えた。

「!!うん!!私も!!こんなに楽しかったの久しぶり!」

ゴリもさっきの不安そうな顔とは打って変わって笑顔で俺に返事をした。

「じゃあ私はこっちだから!」

「おう!じゃあな」

俺とゴリは互いに背を向けて、帰りの電車の方向に向かう。

「あっそうだ、伊織!!」

「ん?」

ゴリがそんなに大きな声で呼ばなくてもいいのにっていうくらいの声量で俺を呼ぶ。

またね(・・・)

手をぶんぶん振ってくる。太陽のような笑顔でこっちを見ていた。

「おう!またな(・・・)!!!」

俺もそれに対して、全力で手を振ってこたえる。

それを最後に俺たちは分かれた。


電車に乗って、車窓に映る自分の顔を見ると、久しぶりにいきいきとしていた。

灰色だった日常に色が塗られていくようなそんな新鮮な気分だった。

「今日みたいな日がたまにはあるといいな・・・」

俺は今日あった出来事を胸に刻みつけて電車に揺られながら家路についた。

『重要なお願い』

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