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異世界転移は信じません!  作者: 璃依
~本編~
12/18

12.約束してくれませんか



日が沈み、店から小屋に帰ってきてセレナはベッドに腰掛け、ノワールを撫でていた。


「なんか、あった?」


クラウスが隣に座り、声をかけてくる。


『クラウスはな、人と関わりたくないんだよ。人と関係を持つことに、恐怖すら覚えてる』


セレナと話しているときのクラウスは、そんなようすには見えなかった。

何が、あったのだろう。

それを聞いて、クラウスを傷付けてしまうのが恐ろしい。

そうして聞き出せずにいるセレナに、


「何かあるなら、遠慮しないで言って」


なおも迷った末、セレナはクラウスの言葉を信じることにした。


「クラウス」


「うん」


「───あなたは、どうしてここで暮らしているの・・・?」


クラウスが息を吸い込む音が聞こえた。橙色の瞳は動揺を隠しきれておらず、頼りなく揺れている。


「・・・ハイレンが、言ったのか」


「・・・うん」


クラウスはため息をついた。目を伏せ、ぽつりと問いかける。


「セレナ。僕は何歳(いくつ)に見える?」


突然の質問に驚きながらも、セレナは思ったことを口にした。


「十六か、十七?」


クラウスは無言で首を横に振る。



「───僕は、今年でもう三百年生きている」


「───」


「僕が生まれたのは、ここよりもっと北の街だった・・・」




どこにでもいるような両親のもとに生まれたクラウスは、他の子と比べて成長がかなり遅かった。かなり、という言葉でもまだ足りない。

例えば、同じ年に生まれた子が成人するころに、クラウスは歩けるようになった。

両親は驚きはしたものの、変わらずクラウスを愛してくれた。まわりの人も、受け入れてくれることがほとんどだった。

クラウスは、不自由なことなく幸せに過ごしていた。

だが、そんな日々も、終わりを迎える。

愛情も、何一つ欠けることのなかったクラウス。

───だからこそ、クラウスに深い傷を刻んだ。


ごく普通の両親と、成長速度が著しく遅い息子。

どれほど足掻いても、どうにもできないものがひとつ。


寿命だ。


クラウスが三歳になるころに両親は他界した。

それは、クラウスにとって大きな衝撃だった。

自分と同じ年に生まれた子達が、年老いていく。

周りにいて可愛がってくれた人々も、いなくなっていく。

常に、クラウスは見送る側。

───いつしか、他人と関わることが恐ろしくなっていた。


人と関わらなければ、置いて逝かれる哀しみを味わうこともない。


自分は、ひとりなのだと、共に歩ける人なんていないのだと、そう言い聞かせて、クラウスは森に小屋を建て、暮らし始めた。




クラウスが口を閉じ、沈黙が落ちた。

どこかで魔獣の声が響き、夜の静寂(しじま)を乱す。

何か言わなければ、と思うが、乾いた唇からは呼吸音が漏れるのみ。

───それぐらい、クラウスの語った過去は重かった。

クラウスが寂しげに俯くのが分かる。

何も言えない己が恨めしい。

セレナが辛いとき、クラウスが言ってくれたような、救いになる言葉は、何も。

故に───


そっと手をのばし、クラウスの背に触れた。そのまま、安心させるように撫でる。クラウスはびくりと体を震わせ、すぐに力を抜いた。


「───クラウスは何で私をここに連れてきたの?」


聞けば、彼を傷つける。それでも、聞かずにはいられなかった。


「・・・分からない」


掠れた声が返ってきた。無意識のうちに、言葉がこぼれる。


「いつか・・・」



「───いつか、私に教えてね」


クラウスが顔を上げ、セレナを見る。


「セレナは・・・恐ろしくないの?」


「恐ろしい?」


「だって僕は、人と違うんだ。セレナは・・・」


恐ろしい。恐ろしくないわけない。

でもそれは───


「───私が恐ろしいのは、クラウスと死ぬまで一緒にいることができないから」


クラウスが意表を突かれたように黙り込む。


「私のほうが先にいなくなって、きっとあなたを傷つけるから」


「───っ」

伝えたいことが、あふれてくる。

胸が熱くて、瞬きする刹那さえももったいなくて。

───ずっとずっと、彼を見ていたくて。

たまらなく悔しくて、恐ろしい。


だから。


「クラウス。───約束して」


小指を差し出す。


「私のいたところだと、こうやって小指をからめて約束するの」


おずおずと小指を同じように差しだし、二人の指がからまった。


寿命という大きな隔たりがある二人が、未来の約束をする。


───セレナが微笑むと、クラウスもつられたように笑った。

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