13.明日から、どんな顔をすればいいんですか
1
───卑怯だ。約束なんかしたら、これからも一緒にいたいなんて言われたら。
───未来に必ず訪れる、永遠の別れが辛くなってしまう。
と思ってから、クラウスはふと気付く。
セレナだって、怖いのだ。
別れに恐怖を覚えるのは、何も見送る側だけではない。
セレナは、自分が先にいなくなることを知っていて、その恐怖を受け入れて、『いつか』の約束をした。
「・・・強いね」
「・・・?何か言った?」
かたわらに座るセレナが顔を覗き込んでくる。
「セレナは、強いね。僕とは比べものにならないくらい」
「───私ね」
「この世界にきたとき、寂しかった。ひとり別の世界に放り出されて、これまでの私を知る人はいないんだって」
でも、とセレナは続けた。
「クラウスが信じるって言ってくれて、凄く嬉しかった。───あの言葉があるから、今の私があるんだよ?」
「───」
「だから、クラウスは全然弱くなんかないの」
買いかぶり過ぎだ。クラウスはそんな大層な人間ではない。
意識のどこかではそう思っているのに、セレナの言葉に救われた自分がいるのをクラウスは感じていた。
2
時間がたつと、よくまああんなことが言えたものだと猛烈な恥ずかしさがこみあげてきた。
クラウスと話をしたあと、いつもどおりに夕飯を食べ、ベッドに入り、自分の言葉を思い出して羞恥に悶えているのが現状だ。
勢いに任せて言った言葉を、クラウスはどう思ったのだろうか。・・・明日からいったい、どんな顔をすればいいのだ。
顔をソファーのほうに向け、セレナはため息をついた。
のばした手にふわふわの物体が触れ、引き寄せる。眠りを妨げられ、もぞもぞと動く黒い毛玉───ノワール。
使役している魔獣、と言っても誰も信じなそうな愛らしい見た目に、唇が綻ぶ。
小さな頭を撫で、
「おやすみ、ノワール」
「にゃ・・・」
微かに聞こえた鳴き声を最後に、セレナは眠りに落ちていた。




