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魔法少女はおたずね者  作者: 長門シゲハル
第四章 淵源の樹
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第百二十四話 六十五日目 アンハレルトナーク城 天気晴れ 【最終回】

 アンハレルトナーク城の部屋で目覚めると昨日までの出来事が夢だったかのように感じる。


 でも夢じゃないんだよね。


 フランシスを封印した私たちはとりあえずアンハレルトナークの城に移動した。私たちといっても、クラウディアは「次は戦場で会おうぞ」と不吉な言葉を残しつつ途中でユニオールに帰っていった。

 それからドラゴンたち、今は四体になってしまった偉大な五体のドラゴン(ファイブドラゴンズ)たちも自分たちの住処にそれぞれ帰っていった。


「もう起きたか? レティシア」


 扉をノックしてトールヴァルドが入ってきた。


「ええ、今起きました。おはようございます」

「おはよう。朝食の用意ができてるそうだぞ」

「行きましょう」


 食堂に行くとすでにイリスが座っていた。


「おはよう。よく寝られたかしら?」

「ああ、ぐっすり寝たよ」

「ちゃんとしたところで寝るの久しぶりでしたからね」


 淵源の樹では三日も時間が経過していたにも関わらず結局一睡もしなかったのだ。そんなに寝ないで平気なわけがないので、あの樹の中では時間の流れが外とは違ったのだろうけど。


 お茶と朝食をいただく。話題は自然と昨日までのことになる。


「本当にあの封印でフランシスは出てこれないんですかね?」

「クラウディアは大丈夫と言っていたけど、監視もできないし、信じるしかないわね」イリスが肩をすくめる。

「そうですね」


 クラウディアが言うには、フランシスを封印したのは次元の狭間だそうだ。何の目印もないただの空間のようなので、万一出てきたとしてもこの世界に戻ってくる可能性は限りなくゼロに近いらしい。


「次元ってのがよく分からないけどな」


 トールヴァルドが苦笑して言う。この世界の人には次元の考え方は少し難しいのかもしれない。私もよくは分かってないけどね。


「ところで、クリスティーナは大丈夫なのか?」

「ええ、まだ眠っているけど、体に異常はなくてただの魔力切れだと医師は言っていたわ」

「ただの魔力切れなら二、三日で目を覚ますんじゃないですかね」

「レティシアがそう言うなら大丈夫だな」


 そう言ってトールヴァルドが笑う。私はよく魔力切れを起こしていたので、ある意味、魔力切れのプロだ。


「アンシェリークの秘宝だけでなく、自分の魔力を使い果たすほど頑張ってくれたんだからクリスティーナには感謝ね」


 クリスティーナが最後に放った爆炎は本当に全力だったようで、アンシェリークの秘宝は光を失って割れてしまったそうだ。


「秘宝の力を全部開放したんですね。だからこそフランシスも怯んだんでしょうね」


 ちなみに私の指輪の方はまだウィルフレドの秘宝が嵌っている。フランシスを押すときに結構な力を放出したんだけど光は変わらない。


「レティシア、指輪はどうしたんだ? 嵌めてないのか?」トールヴァルドの目が私をからかうモードになっている。

「しまってありますよ。これからクラウディアとの戦いで使うかもしれませんし」

「なんだよ、普段から嵌めてればいいのに」

「いやですよ」


 それにフランシスのブレスを防いだときから石の光が収まらないのだ。普段から嵌めていては目立って仕方がない。


「クラウディアはどうするつもりなのかしらね」


 イリスが眉を曇らせる。せっかく世界の危機は回避したのに、またかき回されては堪らないだろう。


「まぁ……、いずれは攻めてくるでしょうねえ」


 クラウディアとはこれまで結構話をしたけど、彼女はいつも本気だ。


「他の国もずいぶんきな臭くなってるしな」

「そうね。シュタールとハーフルトの戦いは間もなく終わるでしょうけど、レッジアスカールックの方は長引きそうね」


 バーンハルドがイクセル元王子を立ててレッジアスカールックに攻め込んでいるそうで、五大国のうち三国が戦争中という不安定な状況だ。この上ユニオールがアンハレルトナークに攻め込むようなことがあれば世界はさらに混乱するだろう。


「クラウディアの言う世界大戦てやつか」トールヴァルドが物憂げに言う。「面倒な状況だな」

「本当にね」


 イリスが頷く。「彼女の思惑通りにはさせないけどね」


 朝食をとり終わって、まったりする。こんな穏やかな朝は本当に久しぶりだ。


「レティはこれからどうする?」

「イリスはどうするんですか? また旅に?」

「いえ、ユニオールが気掛かりなのでしばらくはここにいるわ」

「なるほど」


 私としては、アンハレルトナークを攻めるであろうクラウディアと戦うつもりだ。


「レティが望むなら魔道士団にポストを用意するわよ。ゲストとしての滞在でも構わないけど」

「そうですね。ひとまずトールヴァルドをベアトリスまで送って、ヴィスロウジロヴァー山に戻ったアーシェたちを見舞ってから戻ってきますね。その時の状況でお願いします」


 アーシェはシルック、フィクスとともにヴィスロウジロヴァー山に戻っていった。そういえばフィクスはアーシェを送ったらアンハレルトナークに顔を出すと言っていた。入れ違いになりそうな予感がする。


「分かったわ。トールヴァルドは船に戻るのね?」

「ああ、そろそろ戻らないと誰が船長なのか忘れられそうなんでな」と言ってトールヴァルドは笑う。「事が起きれば私も駆けつけるよ。約束する」

「ありがとう」


 礼を言って微笑むイリス。


 二人の会話を受けて私もイリスに言う。


「ユニオールが本当にアンハレルトナークを攻めるのかは今のところ分からないですよね。実際に戦争が始まるような状況なら、お客さんとしてよりは魔道士団に入れてもらった方が戦いやすいかもしれないですね」

「そうかもね。さすがにもうあなたを追う連中はいないと思うけど、気をつけてね」

「そういやレティシアはおたずね者だったな」

「ああ、完全に忘れていました」

「カッカッカッ、さすがレティシアだ」


 トールヴァルドが笑い、それにつられて私もイリスも笑った。


 目が覚めたら牢屋にいたことが遠い昔のことのように感じる。実際はあれから二ヶ月ほどしか経ってないのだが、ずいぶん色々とあった。


 色んな人や精霊、ドラゴンたちにも関わった。元の世界では考えられない、刺激的な出会いだ。


 日本で暮らしていれば、「戦う」なんて日常で考えることさえない。私が人や精霊、ドラゴンと戦うなんて、我が事ながらいまだに信じられないくらいだ。


 もしかしたらちょっとは内面的に成長したかな、とも思うけど変わってないような気もする。


 ひとしきり笑うと私は食堂の窓から外を見た。


 窓から目に入る青空は雲ひとつない。今日も暑くなりそうだ。ひと山越えたけど、この世界で私がすべきこと、いや、やりたいことはまだ終わっていない。これからもイリスやトールヴァルドたちと一緒にやっていこうと思う。


(了)

「魔法少女はおたずね者」をお読みいただきありがとうございました。

これでひとまず予定していたところまで書き終わりました。

本当はもうちょい書きたいこともあったのですが蛇足になりそうなのでこれでおしまいです。


※誤字訂正しました(2019/02/26 18:52)

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