第1章 前フリ長いよ!!!
「な、なんとか間に合った……!」
私は、急いでバスから降りると、まるでドラマや漫画に出てくるかの如く巨大な建造物を見上げた。
その建物の招待は、都内某所に存在する、全校生徒数三千を誇るマンモス校ーー私立 六波羅学園高校。
五年ほど前に、男子校と女子校、二つの高校を合併して出来た共学の新設高校である。
偏差値は秀でて高くはないが、自由な校風、イベントの多さ、女子制服の可愛さ等が人気で、受験の倍率は毎年十倍にものぼり、巷じゃ知らない者はいないと思われるほどの有名私立。
ーけれど、この学園の本当の人気の理由は別にあるのだ。
大きく深呼吸をしながら、自身の身長より高い門をくぐり、学園内に一歩足を踏み入れた途端…
「キャアアア〜〜〜〜〜ッ!!!!!」
おろし立ての制服を着た、恐らく新入生であろう女子生徒達数十人が、何かを取り囲みながら、スマホで浴びせんばかりのフラッシュを焚いている光景が、目に飛び込んできた。
身長が高い分、その人だかりの中心にいる二人の男子生徒の姿は、私でも視界に捉えることができた。
一人は、少し困ったような表情で手を振っている、桃色のふわふわパーマに、女の子のように大きな瞳が特徴の、端正な顔立ちの少年。
「どうしようかももちゃ〜ん。そろそろリハの時間だから行かなきゃいけないのに」
ふわふわパーマの彼は、隣に並ぶ、自分より背の高いもう一人の少年に声を掛けた。
「アンッタ本当に何考えてんですか!?今日は体育館通路の方から行こうって俺何度も言っただろ!」
苛立ちを抑えられない様子で、『ももちゃん』と呼ばれた少年が応じる。橙色の少しハネた短髪、ライトブラウンの瞳に、長い睫毛が特徴的な少年だ。
「またやってる…」
私は彼らの様子に半ば呆れながら、人だかりを抜けた先の体育館へ向かおうとする。
すると---
「わっ」
「おっと」
彼らの様子に気を取られていたせいか、私は目の前から来る人物に気がつかず、思い切り体当たりをかました。
弾みでよろけた私の身体を咄嗟に支えてくれた人物を見上げる。
「あ、ありがとうございま……げっ」
朝から危険人物に遭遇してしまった。私はお礼を言ってから、じりじりと後退する。
綺麗な黒髪に、同様に真っ黒な切れ長の瞳。すらっと伸びた長い足。
端正に整った顔立ちの彼は、漏れた私の心の声にも動じることなく、飄々とした笑みを浮かべながら言った。
「どういたしまして。怪我はない?ヒロインちゃん」
「はい。ほ、ほんとごめんなさい鷹狗先輩。私ったらよそ見してて」
「んもう、ヒロインちゃんってば。
征士郎でいいっていってるのに!1年間言い続けてるのに!相変わらずお堅いなあ。まあ、どんなヒロインちゃんも好きだけどね俺は」
「は、はは……」
その大人しそうな風貌とは裏腹によく回る口に圧倒されながら、私は体育館の方へじりじりと向かう。
私はこの先輩を大変苦手としている。
理由は簡単。
とってもいい先輩なのは確かなのだが、いかんせん『下品』なのである。
立てば下ネタ。座れば下ネタ。歩く姿は喋る爆弾なのである。
後退しながら鷹狗先輩から距離をとっていると…
「おーい、セーシ!!!リハ始まっちゃうってば〜!!!」
その聞き間違いかと一瞬疑ってしまうような酷い呼称で鷹狗先輩のことを呼ぶ人物を、私は一人しか知らない。