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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
8章 火力積んどけば大体いける
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8章 15話

前半:銀太視点

後半:ラストワン視点

 水面に打ち上がっていった赤龍を見送る。いやーはっはっは、やっちまった。

 でも店長ならなんとかなるだろと気楽に見ていると、案の定水上で激しい剣の音が響いている。どうも頑張っているらしい。

 どうすんのかなーってわくわくしながら見ていると、水上からすんごいのが飛んできた。

 水面から逆流してきた竜巻が水中をくまなく擦り潰す。竜巻の中に交じる空気が何かに触れるたびに爆発し、それはまさに破壊の嵐だ。


「ちょっ……、店長ー!? 何やってんだよー!」

『お返しっ! 受け取ってよね!』

「さばききれるかーっ!」


 水と風が入り交じる暴嵐の先端を『アルギスの白盾』で捕まえ、回転を始める。嵐に飲み込まれないよう細心の注意を払いながら回転して、竜巻を横巻きにぐるぐると巻く。

 嵐を、捉えて、嵐と変える!


「【メイルシュトローム】っ!!」


 使える限り最大のカウンター技で、店長の嵐を渦潮に変えた。なんとかさばききれたが、もう一度やれと言われてもゴメンだ。こんな綱渡り何度もやれるか!

 湖の中に作られた渦潮に、水上から降り注ぐ激しい雷。苛烈な攻撃に晒されて、気がつけば赤龍はズタボロになっていた。

 もう無茶苦茶だ。無茶苦茶だが、たしかに効いている。


『銀太、敵の体力は?』

「1割を切った。レッドゾーン突入済みだぜ、このまま押し切る!」

『1割……。待って銀太、作戦と違うってば! 敵の体力が2割切ったら撤退する予定でしょ!』

「え、なんでだ?」

『説明したじゃんかー!』


 そんなこと言ってた気もするけど、あんまり覚えてない。店長は時々難しい話するからわかんないんだよなー。

 なんかあっても、その場のノリで対処すればいんじゃね?


『ああもう間に合わない! こっちで何とかするから衝撃に備えて!』


 店長がそういうもんだから一応『アルギスの白盾』を構える。

 渦潮に流される赤龍は――、まばゆい紅の光を放ち、周囲の水が熱せられてゆらゆらと揺らいでいた。

 そこまで見て、やっと思い出す。これはそう、あれだ。

 追い詰められた赤龍の奥の手、【紅炎爆熱波】だ。


「やっべ」


 赤龍の体が爆発し、焼き尽くす熱波が周囲の水を巻き込んで何もかもを吹き飛ばした。



 *****



「ったく、手間かけさせるんだからっ!」


 赤龍の赤い光が水面からも見える。【紅炎爆熱波】まで一刻の猶予も無いってのに、銀太は水上に脱出するのを完全に忘れていたみたいだ。

 『蒼海龍の釣り竿』を振って水中の銀太に釣り針を引っ掛ける。引っかかるやいなや全力で竿を引き、銀太の体を水中から引き上げた。

 次の瞬間、【紅炎爆熱波】が湖を吹き飛ばした。


「――――――っ!!」


 とっさに身を伏せ、吹き飛ばされることだけは防いだ。

 衝撃が去ってから体を起こす。湖は、跡形も無くなっていた。

 空から降ってくる吹き飛ばされた熱水があたりに蒸気を作っている。湖の中にたゆたっていた水はすべて吹き飛ばされ、焦げ付いたクレーターの中央に赤龍が鎮座していた。

 ヤツもまた満身創痍だ。だが未だ戦意は迸り、傷ついた龍翼を大きく広げてこちらを威圧する。


 作戦の要であった水は失われた。もはやヤツの炎と翼を封じる術は無い。

 ここまでは計画通りだ・・・・・・・・・・


「こちらラストワン。フェイズ3、『太陽の墓場ソル・グレイブ』を要請するよ!」

『第三走者リース及び職連一同! 承りましたっ!』

『野郎どもー! 行くぞーっ!』

『うおおおおおおーっ!!』


 ギルドチャットで合図を出すと、湖底に設置した焦げ付いた転移石から大量の粘土が溢れ出してきた。

 今頃砂漠のテレポーテーション装置に、職連のみんなが粘土をガンガン放り込んでいるはずだ。湖底を埋め尽くす質量兵器『粘土』は紅炎の赤龍を飲み込み、それでもなお勢いを留めることなく溢れていく。

 うずくまる赤龍は為す術無く粘土に飲まれていく。【紅炎爆熱波】は反動が大きく、発動後数十秒は一切の身動きができなくなる。この数十秒だけが、一切の抵抗を許さずヤツを土中に葬り去ることができるチャンスだ。

 『太陽の墓場ソル・グレイブ』作戦はこれをもって完遂する。


 赤龍が吠えるが、その叫び声もむなしく『粘土』の中へと飲み込まれていった。やがて赤龍の姿が見えなくなっても粘土の勢いは止まらず、粘土が湖から溢れだしたころにようやく止まった。


「……やったか」

「銀太ー! お前はー! 絶対に言ってはならんことをー!」

「なんでだ?」

「それフラグってやつだからー!」


 【紅炎爆熱波】から間一髪逃れられず、ふっ飛ばされた銀太が戻ってくるなりフラグを立ておった。こんの野郎……。

 銀太がフラグを立てたからなのか、粘土で埋め立てられた湖から熱気が立ち上る。ゴボゴボと溶岩のように脈動する粘土の隙間から赤い光が漏れ出していた。


「ほらー、銀太がフラグ建てるからー」

「いやでもこれは想定の内なんだろ?」

「そうなんだけどね。なんでこういうとこだけ作戦覚えてるのさ」


 Q.ゲーム内で『粘土』を加熱したらどうなるでしょう。

 A.『レンガ』になります。


 湖中にあふれる泥が赤龍の放つ熱を吸収して固まり、赤いレンガへと変わっていく。

 重く絡みつく粘土も相当の重みだろうが、より固く頑丈なレンガの中に閉じ込められては脱出する術は無い。赤龍が怒り狂って炎を放つほど、ヤツの束縛は増していく。

 ここは太陽の墓場ソル・グレイブ。自らの炎で墓を成せ。


 赤い光がレンガの中に消えていき、湖は静けさを取り戻す。月明かりが太陽の墓場を照らせば、ふわりと新緑の匂いが漂った。


「……今度こそ、終わったか」

「みたいだね。みんなもおつかれ」

『ええっ!? 本当に上手くいったんですか!?』

『っしゃおらー! やったぜおらー!』

『もう土掘りはこりごりじゃおらー!』


 リースさんや、私の策を疑っていたんですかい。ラストワンの作戦に失敗はありませんよ。ほんとだよ。

 何はともあれ、紅炎の赤龍の討伐には成功した。最初はどうなるもんかと思ってたけど、やってみればなんとかなるもんだ。


「帰ろーぜ、店長」

「ん。帰ろっか」


 転移石まで帰ろうと歩き出す。その時、ふと何かを忘れてるような気がした。

 何だろう……。何か、とても大事なことを忘れてるような……。


「……あれ? 銀太、なんか忘れてない?」

「何がだ?」

「なんだろう。わかんないや」

「?」


 えーっと……、そもそもなんで紅炎の赤龍を倒しに来たんだっけ。

 確か……。


「あ、『龍の心炎』! そもそもそれを取りに来たんだよ!」

「あー、そういやそうだったっけか。普通忘れるかぁ?」

「銀太だって忘れてたじゃん!」


 急いで湖に戻ろうと振り返って、それを見た。

 太陽の墓場ソル・グレイブをぶち破り、天へと昇る天上の業火を。


「――銀太っ! まだだ! まだ終わってない!」


 紅炎の赤龍は中天へと至り、その身に宿す業火は一切の慈悲無く世界を灼いた。

 月夜にありながらそれはまるで、破滅の太陽のようであった。かつて天へと登った勇者を地に叩き落とした神話の炎。それを身にまとい、破滅の太陽は天を翔ける。

 かつて世界の始まりにあった火は、命を育む炎となり、やがて焔がすべてを滅ぼす。

 彼の者は龍。龍の形をした焔。始まりを告げ、終わりに閉ざす者。

 紅炎の赤龍バハムート・ソル


「作戦は……、失敗だ」


 ――見通しが甘かった。甘すぎた。

 万全の用意をして、必勝の策を練ったつもりだった。でも、そんなの全部無意味だったんだ。

 誤算があったとするならば、それは最初の最初。こいつを倒すために攻略組の手を借りなかったこと。私はなんとしても攻略組を引っ張り出すべきだった。

 心の中で舌打ちをする。反省会は後だ。頭を切り替えて、目の前の敵に集中する。


「銀太……」


 既に体は【龍の威】に貫かれて動かない。だから、銀太に頼るしかなかった。


「わかってるぜ、店長」

「うん、すぐに引くよ。悪いけど私体が動かないから――」

「やつはここで倒す。ここがあいつの墓場だ」


 えっちょっおまっ。


「待って待って待って! 考え直してよ銀太! ここは一回引いて状況を立て直さないと死ぬよ!」

「店長こそ考えてみてくれよ。あいつは完全にブチ切れてる。ここで落とさないと、どこで暴れまわるかわかったもんじゃない」

「それはそうだけど……。でもっ、全力のあいつに正面から挑むなんて無茶だ!」

「俺はァッ!!!」


 銀太は『極極鉄』をまっすぐに構え、吠えた。


「もう引かねえって決めたんだ! 二度と誰も死なせないために! 二度と誰も殺させないために! 相手がなんだろうと関係ねえ、相手がどんだけ強くたって関係ねえ! 俺の後ろにいる誰かの盾になる! 俺の前にいる誰かを守りに行く! 一歩だって下がってたまるか!」


 その叫びは、慟哭と呼ぶには激しすぎた。

 決意を胸に抱いて立ち、力強く剣を構え、まっすぐに前を見る。その瞳に一切の迷いは無く、ただ一筋の意思だけが強く灯っていた。


「来いよ赤龍! 俺はここにいる! お前の相手はこの俺だッ!!」


 強く叫ぶ銀太の背中は。

 まるで、太陽に立ち向かう勇者イカロスのようだった。

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