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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
7章 行くぞお前ら祭りの時間だ
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7章 2話

『こちら【生産職職人連合】です。要救助者は居なくなったようなので、これを持ちまして作戦を終了します。ご協力頂いた皆様、誠にありがとうございました』


 リースがワールドチャットでそう締めくくると、辺りは拍手で包まれた。


『お疲れみんなあああ』

『お疲れえええええ』

『おつううううう』

『GG』

『勝ってしまったかー。また我々の大勝利で幕を閉じてしまったかー!』

『なんだかんだで犠牲ゼロだったんだよな。いやすげえよ俺ら頑張ったわ』

『敗北を知りたい』


 ギルドチャットはいつも通り阿鼻叫喚している。みんな本当にお疲れ様です。

 職連の方に救援要請を出した人々は、職連と義勇兵の手で全員救出した。一周目の時も職連主催の義勇兵団によって大体は救出できていたから、実のところこれ自体は既定路線と言える。


 協力してくれた皆にも、1人1人お礼のメッセージを送る。ありがとう義勇兵。サンキューヨミサカ。フライトハイトの奴にも気は進まないけど、礼は言っておく。


「お疲れ。リース、山田さん」

「お疲れ様です。お二人ともありがとうございました、おかげで無事乗り切ることができました」

「なんとかなりましたねー。よかったよかった」


 3人してふいぃと座り込む。いやあ、さすがに疲れた。大自然のクリスタル戦からそのままコレはなかなかハードだ。


「当面は乗り切りましたね……。ですが、問題はまだ残っています」

「そうですねー。怪物は消えてないですし」

「うん。今回のイベントはまだ始まったばかりだ」


 これはまだ前哨戦にすぎない。本当の災厄はここからだ。


「7日後、背面界から来た怪物の大群がラインフォートレスを襲撃するよ」

「襲撃イベント……。ラインフォートレス防衛戦という訳ですね。規模は分かりますか?」

「そうだなぁ、あそこに防壁があるじゃん?」


 ラインフォートレスをぐるりと囲む防壁を指差す。


「あの上から見た景色全てが、敵で埋まる」


 そう言うと、リースと山田さんは絶句した。私も一周目の時、その黒い波を見た時は同じ気持ちだった。

 これ、人間が勝てんのかと。


「――ってくらいを、想定しといたほうがいいよ」

「あ、ああ……。あくまで想定……ですよねー?」

「……でも、そうですね。それくらいを想定していきましょう」

「ほ、本気ですかー? さすがにそこまでは居ないんじゃ……」

「想定より敵が少ない分には問題はありません。それに、」


 リースがちらっと私の方を見る。


「時々思うんですよね。ラストワンさんは何かを知っているんじゃないかって」

「…………。私、めっちゃ勘良いんだ」

「だとしたら、それはそれで妖怪じみてますね」

「失礼な」


 わーい。めっちゃ疑われるーぅ。

 そろそろ秘密主義も終わりかなぁ。私が2周目だってこと、もう喋ってもいい頃合いなんじゃないか。


「それはさておき。後で対策会議を開きましょうか」

「えー、会議やだー。ノリと気合でなんとかしようよー」

「はいはい、攻略組みたいなこと言わないでちゃんと考えますよ。何かいい案あるんでしょう?」


 案って言われてもなー。一周目の時は確かどうやったんだっけ……。

 ……えーと、プレイヤー総出で頑張って駆除したけど焼け石に水。あわやラインフォートレス陥落寸前のところまで追い込まれたところで、本気出したラグアがゴッドパワーでどかーんしてくれたんだっけ。

 もちろんプレイヤー側の犠牲続々死屍累々、おまけに無理したラグアが力を失って次のイベントに連鎖したんですよね。所謂失敗ルートだったってわけで。


「……。リース、気が変わった。対策ちゃんとやろう」

「どうしたんですか急に」

「これノリと気合じゃなんとかならないやつだ」


 (そりゃそうでしょう)みたいな目を向けられるけど知らない。

 どう攻略するかなーとか考えつつ、紫色の空を見る。7日後に始まるのは戦争だ。


(楽しくなってきた)


 だというのに、ワクワクしちゃってしょうがない。やれることは全部やろう。手加減なんてするもんか。



 *****



 会議は踊れ。踊れや踊れ。


『防衛戦になるんだろ? じゃあまずは防壁を増やそう』

『そんなものより大砲だ! 砲の数こそパワーだ!』

『兵器作りたい兵器。超兵器で一発逆転は外せない』

『超兵器って言ってもなぁ。何作りたいんだ?』

『巨大レールガン』

『やだかっこいい』

『そんなのどうやって作るんだよ』


 ギルドチャットを会場にした、職連総出の対策会議はまるで纏まりそうにない。

 みんな好き勝手言うことかれこれ2時間。火のついた職人たちはまるで勢いを衰えさせることなく、喧々諤々の狂騒を熱心に生み出していた。


『戦争するなら戦車作ろうぜ!』

『まずは内燃機関の開発から始めないとね』

『7日間で技術革新が4回くらい起こらないと無理でしょ』

『TankじゃなくてChariotなら作れるんじゃね』

『ついに古代兵器チャリオットが解き放たれるのか』

『馬はいないけどどうすんだ?』

『そこは従魔に牽かせるとか』

『お前天才かよ』


 従魔は戦闘力こそ無いが、機動力や特殊能力を持っているため生産職には重宝されている。

 入手と育成に相応の手間がかかるから攻略組にはあまり普及していない。時間をかけてじっくり育てるコンテンツは中堅層だけの特権だ。


『それなら飛行能力持ちの従魔は航空戦力にしようよ』

『航空戦力……。まさかファンタジー系MMOでそんな言葉を聞く時が来るとは……』

『具体的にはどうすんだ? 個人的には軍用ドラゴンという電波を受信して滾ってる』

『心震えるワードだけど、ドラゴンなんて持ってる奴いたか?』

『ここはセオリー通り行こうぜ。飛行従魔で直接攻撃するより、空から爆撃の雨を降らそう』

『妥当なとこだな』


 おっと、これは私の仕事ですかね。『爆撃おりがみ』の在庫まだあったかなぁ。


『陸の戦車に、空の爆撃機か。おい知ってるかお前ら、ラインフォートレスには海もあるんだぜ』

『まさか……、軍船!? 軍船を作るってか!?』

『はいはいはい! フリゲート! 拙者フリゲートを所望いたす!』

『馬鹿野郎ガレオン船に決まってんだろ!』

『ガレオンまで行くなら戦列艦がいいです先生! 砲門数こそパワー!』

『なんでお前ら当然のように帆船推しなんだよ』

『そもそも海からの敵は来ないんだろ? 軍船なんて作ってもただの砲台にならないか?』

『だったら航行能力犠牲にして砲を積みまくればいいじゃないか!』

『やったぜ! 夢の160門艦だ!』

『駄目だこいつらロマンに生きてやがる』


 軍船とはなかなか事が大きくなってきた。私は戦列艦に一票かな。一番火力高そうだし。


『で、色々意見出てたけど結局何作るんだ?』

『まてまて、まだ話は終わってない。ここはやはり古典に帰って投石器をだな』

『それならバリスタもかかせないだろ』

『そのラインナップならぜひとも破城槌も加えたい』

『えーと……。そろそろ意見を纏めたいのですが……』


 リースが困ってた。頑張れギルドマスター。


「ラストワンさんも傍観してないで、意見まとめるの手伝ってくださいよ」


 一般チャットのほうでリースがこそっと文句を言ってくる。こっちに振られても私にはどうにもできませんよ。

 とりあえずギルドチャットで適当に言っておく。


「もういっそ全部作ればいいんじゃない?」

『んじゃそれで』

『その言葉を待っていた』

『おーいお前らー。喜べ、サブマスからゴーサイン出たぞー』

『よっしゃ来たあっ! サンキューサブマス!』


 おおっとぉ(笑)。

 リースが真顔でこっちを睨んできた。無言で顔を逸らす。しーらない。


『全部作るのは無理です! 時間も資源も人手も限られてるんですってば!』

『ええー。ギルマスのいけずー』

『ぶーぶー』

『いっぱい作ろうよー、せっかくの戦争なんだからさー』

『だから現実的に無理だと言っているんですって……。このギルドに私以外の理性ある人間はいないんですか!?』


 理性ある人間が欲しいらしいよ山田さん。あ、山田さんにもこの状況はどうにもできないんですか。そっかぁ。

 しばらくリースは困ったようにあたふたしていたけれど、突如動きをぴたりと止めた。そしてゆらりと再起動する。


『……分かりました。そこまで言うならこちらにも考えがあります』

『あ、ギルマス怒った』

『逃げろー! ギルマス様のお怒りじゃー!』

『鎮まりたまへ! 鎮まりたまへ!』

『黙りなさい。いいですか。これから皆さんには、「己の作りたいもの」を掲げ、それに対する「賛同者」を集めてもらいます』

『なんか始まったぞ』

『賛同者が5人以上集まった企画は採用です。それ以下の人数しか集められなかった物は不採用。基準は以上です。いいですね』

『人さえ集めればなんでも作っていいんですね!?』

『よっしゃやるぞー!』

『ちょっと待って、陸海空軍の編成はさすがに5人やちょっとじゃ足りないです先生!』

『でしたら各企画にメガホンを1スタックずつ渡します。それを使って職連外のプレイヤーに協力を仰いでください』


 リースは面白いこと考えるなぁ。これなら可能な限り多くのものを作れる上、明らかにダメな企画は自然淘汰されて、更に不満も出にくい。ギルド単位での統率は失うことになるけど悪くないんじゃないか。

 職連外のプレイヤーを巻き込むにしてもついさっき恩を売ったばかりだ。上手く行く公算は高い。


『つまりこれはあれか、俺たちで部活を立ち上げてメガホンで部員を募れってことか』

『なんで学園?』

『となると戦争が文化祭、企画が出し物ってわけだな。ギルマスは先生? それとも生徒会長か?』

『なんで学園?』

『どっちでもいいんじゃないか。職連学園文化祭の始まりだ。とびっきりの思い出にしようぜ』

『なんで学園?』


 戦争だと思ってたら急に学園編が始まった。これはエタる、間違いない。

 私はどうしよう。ヘラクレス愛好会でも作ろうかな。


「ラストワンさん、少しいいですか?」


 一般チャットの方でリースが話しかけてくる。


「ラストワンさんには特殊な役回りをお願いしたいです。危険な役割になりますが……」

「ほうほう、聞かせて聞かせて」

「お願いしたいのは素材採集です。今回の作戦には膨大な物資の供給が必要になります。ですので――」

「最前線でレア素材がんっがん掘ってきていいんだね! まっかせて! ひゃっほう!」

「テンションの上がりどころがおかしいような気がするんですが」


 ついにリースのオッケーが出た! 危ない事いっぱいするぞー! いえーい!


「ただしです! 行くんだったらフルパーティの護衛をつけるのが絶対です。分かりましたね?」

「じゃあ銀太と、『ヘラクレス』と……。後はじいさんと山田さんで」

「ホムンクルスとNPCを護衛にしないでください! あと、山田さんには頼みたいことがあるのでダメです!」

「ちぇー」


 山田さんも職連のサブマスターだからなぁ。色々忙しいんだろう。


「んじゃ適当に募って行ってくるよ」

「気をつけてください。やってほしいことがたくさんあるんです、変なところで死なないでくださいよ」

「私は死なないよ。最後の一人になるまでね」


 なんたって実績がある。嫌な実績だけど。

 ふらふらと手を振って生産ドームを出る。それじゃ、さっさと仕事しに行こう。

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