6章 6話
大自然のクリスタルが砕け散ると、世界樹の大門はゆっくりと開いていく。
その向こうから覗くのは荒廃した大地。ただただ灰色の荒野がどこまでも続く、色彩の無い世界。
「おい……! なんだよ、なんだよこれ……!」
「大門を開いたら現実に帰れるんじゃないのかよ……! なんなんだ、この世界は!」
誰かがそう叫んでも、その声は灰色の世界へと消えていく。
この世界は背面界。私たちの住む自然界の裏側に存在する、かつて滅びた世界だ。
『守護者を倒してくれてありがとう。君たちのおかげで僕は目覚めた』
立ち尽くすプレイヤーたちの頭に、その声が響き渡る。
次元を隔てて届いたような不思議な声の響きは、それが神格に名を連ねるものであることを理解させる。
しかしその冷たい声音は決して人間に友好的とは思えない。恐ろしく、悍ましく、声音を聞くだけで精神が警鐘を鳴らす。
直感的に理解してしまう。コレは、己の命を握っている神格であると。
彼の者は魔神。主神6柱で最も忌まわしき神。
そして、コイツは――。
一周目の攻略組を壊滅させた、私の敵だ。
『僕の名前はウルマティア。死滅と再生の神ウルマティアだ』
次の瞬間、大門から邪悪な生き物が大量に飛び出してくる。自然界には存在し得ない、明らかにこの世のものとは思えない悍ましき怪物だ。
数えきれないほどの敵の群れが、際限無く門から飛び出し続ける。門から飛び出してきた怪物たちに一度は刃を交えるものの、門の奥にひしめく黒い波を見て撤退を余儀なくされた。
ってのが一周目の時の流れだったんだけど、今回も同じ感じかな。盲目がまだ治ってないからまったく見えないんだよね。
「おいっ! 逃げるぞお前ら! あの数は無理だ!」
「何を言う。良い腕試しの場ではないか。喜べ、好きなだけ斬れるのだぞ」
「スコアアタック希望」
「シャーリーは死軍をぶつけて集団VS集団の戦争を楽しみたいです」
「おっさんおっさん、私まだ目見えてないけど命尽きるまで戦うよ」
「言うこと聞けバトルジャンキーども! 逃げるっつったら逃げるんだよ!」
誰か(多分おっさん)に手を引かれるまま撤退を始める。しょうがないなぁおっさんは。
というわけで命からがらセーフティゾーンまで帰ってきた。転移石に手を触れ、ラインフォートレスまで退却する。
ラインフォートレスに帰ってきた頃、ようやく『魂呼の花飾』の効果が切れて盲目が解除された。『アムリタ』を飲んでHPも回復しておく。
しぱしぱと目を瞬いて見えた空は、「これから悪いことが起きますよ」と言わんばかりの紫色をしていた。街中のプレイヤーも心なしざわついているようだ。
「んじゃ、ボスも倒したことだし。私は行くよ」
「お前この状況で……」
「すぐにどうこうならないでしょ。何かが起こるまで後7日くらいあるんじゃない?」
「なんだよその具体的な日数は」
意訳:7日後にあの怪物の山がラインフォートレスに殺到するんで、それまでに頑張って準備してね。
んー、これだけじゃヒント足りないかな。あんまりモタモタして時間を浪費されるのも嫌だし、ちょっとサービスしとこう。
すれ違い際に、ヨミサカの耳元でそっと呟く。
「大神殿に行ってごらん」
それだけ言って、パーティから脱退して立ち去る。後はラグアが事情を教えてくれるだろう。
私は私で準備しなきゃいけないことがある。あんまりうかうかしてられない。
それじゃあ始めよう。記念すべきMyrla初の大規模イベント、ラインフォートレス防衛戦の攻略を。




