5章 6話
畑の世話して陳列棚にポーションを補充する。今朝の日課は終了。
さて、久々にレベリングオンラインの時間です。今日は工芸スキルの熟練度を上げていきましょう。
工芸スキルは熟練度を上げるだけなら簡単なほうだ。まずは工作台に大神殿から掘ってきた『大理石』を並べる。
次にノミを取り出してハンマーで『大理石』に打ち付ける。熟練度が少しあがった。
これを繰り返す。
「苦行すぎる」
熟練上げに向く素材が簡単に入手できるから、時間さえかければある程度まではさくさく上がる。心を殺してノミを振り続ければ、一週間ほどでカンストもできるだろう。そこまでやる気は無いけど。
とりあえず丸一日ノミを振ってみた。心が死んだ。
「クソゲー……」
作業ゲー、ほんと嫌い。
延々と掘り続けた甲斐もあって熟練度はカンストまで折り返しを過ぎた。ここからが長いんだけど、もういいや。極めなくてもある程度の熟練度があれば生産はできる。
続いて『宝石の原石』を工作台に並べる。ノミを軽く打ち付けると『宝石の原石』が精錬され、『アメジスト』を入手した。
「次は工芸に手を出したのか、お嬢ちゃん」
「アトリエの中にも沸くのかじいさん」
ここは私とフレンドリスト以外の人間は立ち入り禁止にしてるのに。じいさんすげぇ。
NPCにはプレイヤーの都合なんて関係ないんですかね。きっとそうなんでしょうね。
「工芸とはまた難しいものを……。この道は厳しいぞい。やるというなら覚悟しておくんじゃな」
「あ、もう一番難しい部分終わってるんだ。熟練上げたし素材揃えたし。もう後は作るだけ」
『宝石の原石』を次々に精錬して中から宝石を取り出す。『トパーズ』、『ルビー』、『エメラルド』、『サファイア』、『ガーネット』、『アクアマリン』、『ダイアモンド』――。
掘ってきた『宝石の原石』を全て精錬すると、一通りの宝石は手元に揃った。
この宝石が無いと工芸は成り立たない。宝石の無い工芸なんてソーシャルゲーム無課金プレイみたいなもんだ。
「こ、こんな大量の宝石……。どこから盗んできたんじゃ、お嬢ちゃん」
「失礼な。ちゃんと自力で入手してきましたとも」
「そ、そうか? 正規の方法で? それなら良いんじゃが……」
「ズルはしてない。それは間違いない」
「ズルに近いことはしたんじゃの」
ぶっ壊れアイテムは使ったけど仕様の範疇だよ。チートじゃないよ。チーター呼ばわりは断固として抗議するよ。
私チーターじゃないもん。バグは使うけど。
さて、素材は揃った。工作台のクラフトウィンドウを呼び出し、鉄と聖水とサファイアを突っ込んで自動クラフト。
がたがたごとんと工作台が震え、『帰還のロザリオ』が5個完成した。鉄と聖水は簡単に手に入るから、実質1サファイア=5ロザリオのレートだ。
「ふむ、『帰還のロザリオ』か。ラインフォートレスへ帰還するための消費アイテムじゃったかの」
「そうそう。すごいんだよこれ。この『帰還のロザリオ』はね、消耗品なのにかつて1個8m以上で売られた超貴重品なんだよ。今はまだ相場すらできていないからどれほどの値がつくかもわからない」
「帰還するだけなら『帰還スクロール』があるじゃろう? なんでわざわざ宝石まで使って『帰還のロザリオ』なんて作ったんじゃ?」
「わかってないなーじいさん。この『帰還のロザリオ』はね、戦闘中にも使えて即座に帰還できるんだ」
戦闘を即座に中断して安全圏まで離脱できる『帰還のロザリオ』は、デスゲームなこの世界で必須とも言えるレベルの超有用アイテムだ。
素材が貴重なこともあり、値段がつけられないほどに高価な品になることは確実だ。1周目の時は1個8mで買えるならまだ良いほうで、そもそも売られることすら珍しかった。2周目の今はまだこのアイテムの存在自体認知されていないんじゃないか。
だからこそ、これは火種になる。
「問題は、どういう形で世に放つかだなー」
「ほ? どういう意味じゃ?」
超有用アイテム。素材が限られているせいで少量しか供給できない。おまけに、おそらく現在ゲーム内で安定してこれを作れるのは私だけだ。
うかつに扱えば火事になる。素直に世に放とうものなら面倒事に巻き込まれるのは目に見えていた。
「……とりあえず、リースに相談しに行くかな。じいさん、私でかけるから」
「なんじゃい、わしの出番はこれで終わりかい。しょうがないの、テラスで釣りでもしておるわい」
「馴染みすぎでしょ」
じいさんを残してアトリエを出る。職人地区まで行ってみよう。
 




