5章 7話
いつもの生産ドームでリースを発見。私を見るやいなや、リースは泣きそうな顔になった。
「い、生きてたぁ……! よかった、絶対死んだと思ってました……!」
「勝手に殺さないでよ。それよりリース、相談したいことがあるんだけど。時間取れるかな」
「どうしたんですか改まって。ここじゃ話しづらいことですか?」
「うん、ちょっとね」
わかりました、とリースは言うと、パーティを送ってきた。承諾する。
「これでどうですか?」
「パーティチャットか。いいね、これなら外部には漏れないし。まずリース、これを見て欲しい」
「今日のビックリドッキリアイテムのコーナーですね。どれどれ」
リースに『帰還のロザリオ』を見せ、これを使えば戦闘中にも帰還できることを説明する。
「これは……。ぶっちぎりでヤバイですね。お聞きしますが、これは拾ったものですか? それとも作ったもの?」
「作ったものだよ。キーになる素材は『サファイア』。前に見せた『挑戦者のアミュレット』の効果で『サファイア』乱獲して、それで作った」
「ってことは……。『帰還のロザリオ』を安定して作るには『挑戦者のアミュレット』を持つ低レベルキャラクターが必要になってくるわけですね。そして今、その条件を満たしているのはラストワンさんだけだと」
「そういうことになる」
「なおさら危険なアイテムですね。転がし方を間違えれば身を滅ぼしかねない」
話が早くて助かる。そういうことなんですよ。
「最初は攻略組にだけこっそり販売しようかとも考えたんだけど、それは危ないような気がして」
「限定販売は絶対ダメですよ。情報はいずれ絶対に漏れますし、出元が知れるとあなたは攻略組以外のプレイヤーからの反感を買うことになります」
「それが怖いんだよ。私がどれだけ影響力を持っていても、数には絶対に勝てないから」
私はいまだどこのコミュニティにも属しておらず、基本的にはソロで活動している。後ろ盾の無い状態で大勢の反感を買おうものならひとたまりもない。
ネットゲームでの晒しを舐めてはいけない。私のようなソロプレイヤーは特にだ。
「はっきり言うよ。私は攻略組を応援しているし、『帰還のロザリオ』は可能な限り一番危険な場所にいる攻略組の手に渡る形にしたい」
「そうですね……。そうなるとやはり、値段設定でどうにかするのが落としどころなんじゃないですか。攻略組なら手は届くけど、中堅層には厳しい値段で販売する形で」
「うーん……。できれば前線に出る人たちから過剰にリソースを削いだりとかはしたくないんだ。後、単純にこれ以上お金いらない。すでに持て余し気味」
「ブルジョワジーなこと言いますね」
「パンもケーキも食べ放題だよ」
1個くださいとリースが言うので、『フラッシュストレートケーキ』を出した。『ハーブティー』も出してティータイムにする。
生産ドームのど真ん中で何やってんだろ私たち。
「攻略組に優先して行き渡らせようとすると値段がつり上がって、前線に出る人たちの財布を根こそぎにしかねない。だからって限定販売しようものなら私が吊り上がらされる」
「うまいこと言ってる場合ですか。個数制限をかけて安価で売ると言うのは?」
「それだと攻略組に行き渡る量が減っちゃうんだよねぇ」
うまいこと攻略組の手に『帰還のロザリオ』を供給しつつ、私が吊るされないためにはどうすればいいんですかね。
「いっそのこと攻略組に囲ってもらおうかな。後ろ盾としちゃこれ以上心強い物はないし、WIN-WINでしょう」
「確かに攻略組とラストワンさんはWIN-WINですけど、それをすると中堅層の反感が攻略組に向きかねませんよ。攻略組と中堅層の確執を煽りそうなんで、私としては反対させていただきます」
「あー。やっぱり確執とかってあるの?」
「ちょっとは、ですけどね。今はまだ問題になるほどでは無いですけど、火種は確かにくすぶっています」
そっかー。火種を避けるために他の火種に火をつけちゃ元も子もないからなぁ。
「ひとつ、いい手を思いつきました。それをするにはラストワンさんの全面的な協力が必要になりますが」
「協力も何も当人だし。やれることは何でもやるよ。聞かせて」
「まずですね、『帰還のロザリオ』は値段をつり上げて販売します。前線で狩りを頑張れば手が届くような値段で」
「うーん……。とりあえず最後まで聞こうかな」
「そうすることでラストワンさんはおそらく、前線プレイヤーたちから大量の資金を巻き上げることになりますよね? その資金を使って、基金を設立するんです」
基金……?
また大掛かりになってきた。基金なんて作って何をするんだ。
「その基金は前線プレイヤーを支援する用途で使います。具体的に言うなれば、基金を使って生産職の商品をまとめて買い上げ、専用の店舗を通じて前線プレイヤーに安価で供給するといった形で」
「なるほど……。それなら攻略組は『帰還のロザリオ』を多く入手できて、前線プレイヤーは生産アイテムを安く入手できる。更に私は基金でヘイトを逸らすことで吊るされなくて済むのか」
「加えて言うなら、煩雑化している露店を一本にまとめ上げた上で値段も抑えられます。我々は大きなアドバンテージを得られるでしょう」
「大手デパートが地元商店街を駆逐するようなもんだね」
「人聞きが悪いですが、まあそんな感じです」
面白い試みだ。うまくいくかは分からないけど、やってみたいとは思った。
失敗しても少なくとも攻略組の手に『帰還のロザリオ』は行き渡る。最悪それさえできれば私は満足だ。
「ただ、それだけ大掛かりな仕組みを作れればだけどねー。私そういうの苦手なんだよ」
「実は丁度いいのがあるんですよね。今まさに各地に声をかけていたところなんですよ」
「ひょっとして【生産職職人連合】?」
「知ってるんですか? 耳が早いですね」
【生産職職人連合】。通称職連。一周目の時にも発足した、生産職の総本山となるギルドだ。
そうか、もう職連が発足する頃合いか。一周目の時よりもちょっと早いかな。
「各地の有力生産コミュニティを統括して、交流を図りつつ全体としての生産力を高めようというプロジェクトを絶賛推し進めているところなんですよ。ラストワンさんには振られちゃいましたけどね」
「あー、あの、保留にしてたやつね。あれってそういう内容だったんだ」
「知らなかったんですか……。いえ、私も説明不足でしたね」
「それで、その発足したての職連に基金の役割を加えると。面白いね」
「ええ。上手く行けば職連の求心力を高めることが出来ます。こちらとしては願ってもないことですね」
おあつらえ向きの環境だけど、後付で基金を足すなら職連の形を変えてしまうかもしれない。
大きなお金は大きな力を持つ。使い方を誤れば身を滅ぼすだろう。
「基金が支えられる生産職の数には限りがあるよ? あまり大人数のコミュニティにするつもりなら色々問題が起こるかもだけど、大丈夫?」
「元より有力なところだけを束ねるつもりでしたので。かえって足を引っ張りそうなコミュニティの参加要請を断る理由になって都合が良いくらいです」
「悪辣ぅ」
「誰かさんの影響を受けたみたいです。あと、大きなコミュニティを引っ張るとなると気苦労が絶えなくて」
規模が大きくなるほど加速的に問題が増えるからなぁ。大ギルドのトップは頭が痛いでしょうに。
「分かった。その方向で話を進めよう。ある程度『帰還のロザリオ』が売れて基金を設立できるだけのお金ができたら、また連絡する」
「ええ。とりあえずラストワンさんも職連に招待しておきますね」
リースから受けたギルド勧誘を承諾する。メニュー欄にギルドコマンドが追加された。一言ギルドチャットで挨拶しておく。
なにげに一周目含めてもギルドに所属するのは初めてだったりする。ちょっとわくわく。
「ああ、それとですね。基金のことを次回の職連会議で取り扱おうと思うのですが、それに参加してもらえますか?」
「ええー、なにそれ面倒くさそう」
「当事者にはぜひとも参加してほしいのですが……。説明は私の方からするので、いてもらうだけでも」
「むー。分かったよ。それが必要だっていうなら」
「では、ある程度権限を与えておきますね」
ギルドから通知が届いた。確認してみる。
『ギルドマスター・リースにより、あなたは【生産職職人連合】のサブマスターに選出されました』
…………。
「いやいや、入ったばかりの新人をサブマスにするのはさすがに他の人に悪いんじゃない?」
「入ったばかりの新人が基金を設立ってのもおかしいでしょう。これくらいの権限は持っておかないとスムーズに運びませんよ」
「そういうのは分からないけど、そうじゃなくてですね」
「大丈夫ですよ。ラストワンさんは生産職界隈じゃトップクラスの知名度ですもの。文句言う人なんていませんって」
「いやまぁ、その……。ちょっと待ってリース、これってひょっとして私、嵌められた?」
「お察しの通りです」
リースはとっておきのイタズラが成功した顔でにっこりと笑う。
曰く、「ポストを用意するから勝手に抜けるなよ」ってことだ。これで私が勝手に抜けたら、独断で選出したリースに迷惑がかかる。してやられた。
まさか身を切ってまで囲いに来るとは……。まあ、いいけどさ。なんだか腑に落ちない。
「……そういうことするタイプには見えなかったけど」
「リスクを負わなきゃリターンも無いんですよ。挑戦上等、安牌なんてくそくらえです」
「リースちゃんはいつからそんな悪い遊びを覚えたのさ」
「朱に交わって赤くなりました」
えーえーそうですか。私のせいですか。まったくもう。
いつの間にか共犯者になっていたような気分だ。旅は道連れ世は情け、人は独りでは生きられぬ。
独り者も気楽だったけど、たまにはこういうのもいいんじゃないかな。というかもうなんでもいいや。好きにしてくれ。
大分投げやりな感じでため息をつく。そんな私を、リースはにこにこ笑って見ていた。




