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魔錬精機  作者: 渡瀬 理央
祈りの国編

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序章

「全ての世界のありえないはここにあるし」「ありえないものはありえない」


「ロン、3900は4200、逆転。終了です」

「…はい」

「…ありがとうございました」

1つの豪華なテーブルに大人4人が座り同時に頭を下げる。ここはTV局が契約しているスタジオ。非常に明るい室内だが観客は無く、対局中の発声には制限がある為、無言で己の磨き上げてきた技術と譲ることは出来ない信念をぶつけ合うだけの場所。観客は皆無だが、インターネット配信の同時接続数は100万の桁を刻む。

 麻雀プロ、この世で一番勝利確率の低い「勝負」を生業にしている集団。

 七尾京は本日の対局も3着という結果で敗戦。終了した。麻雀は4人で点数を奪い合い、1着のみが勝者となる頭脳ゲームだ。囲碁、将棋、チェスなど1対1のゲームであれば実力が同じなら勝率は5割。

麻雀においてはスタートの時点で勝率2割5分。更に視覚情報が極端に少ないゲーム性で運も絡む。

 こんな世界で20歳から15年。七尾京は何とか生き延びてきた。現在では同期にデビューしたプロの8割は足を洗い、残りの1割9分は実況や解説、組織運営等の裏方として麻雀という競技を支え、繋がってはいるが「麻雀プロ」を名乗るのもおこがましい会社員である。

 数少ない「専業プレイヤー」として生き延びている京だが生き延びているだけだ。プロとして目立った成績を収めている訳ではない。同じ年代にはタイトルを5倍は獲っているトッププレイヤー選手もいるし、ファンからの人気面でもアイドルの様な容姿端麗な女流プロには到底敵わない。

 そんな京が今日まで生き延びてこれたのはひとえに「タイミングが良かった」この一言に尽きる。

8年前、麻雀業界に1つの転換期が訪れた。個人が全ての麻雀関係者を飲み込む巨大なプロリーグ、RM(リアル麻雀)リーグを立ち上げたのである。転換期以前は人生を賭けた大会優勝賞金はサラリーマンの金一封と同程度。知名度もラクロスや競歩等のマイナースポーツに比べればまだマシ。街中で声をかけらることなど天地がひっくり返ってもあり得ない。大多数の麻雀プロは競技麻雀だけで生活することは叶わず、雀荘の従業員として働きながら腕を磨く。その腕を披露する場はあまりにも閉鎖的な世界。

 しかし、天地はひっくり返った。事の始まりはAI事業で1山当てた企業の代表が無類の麻雀好きだった。自社の入社試験の項目に麻雀を取り入れる程には好きだった。代表の名は藤田ゆかり。以前から麻雀プロと個人的な繋がりを多数持っていた藤田代表は、同時に当時の麻雀業界にも不満を持っていた。経済紙のインタビューで趣味について聞かれた時に代表は答えた。

 「麻雀はとても魅力的な知的ゲームだ。卓を囲えばその人なりも分かるし、技術や心理戦も奥深い。しかし、日本では賭博のイメージが未だに色濃く根付いている。私が変えたい」

 おおよそ、経済ニュースのインタビューの質疑応答とは思えない。しかし、藤田代表は1976年から始まった日本の麻雀プロの歴史に革命を起こした。

 藤田代表は経済界の太いパイプを使いスポンサーを掻き集めることから始めた。その結果、RMリーグの優勝賞金は5億円。今までの人生を反転させるには充分すぎる金額だ。

 次に藤田代表は麻雀にチームスポーツの要素を取り入れた。以前は個人戦がほとんどの競技麻雀だったが男女混合4人1チームへと変更。試合にはスーツ姿が基本とされていたものを、一見するとスポーツ選手のようなユニフォーム姿へ。ユニフォームにはチームのロゴは勿論、スポンサーの企業名が所狭しと並ぶ。

 更に藤田代表の革命は止まらない。人気選手の獲得だ。以前の麻雀業界は「我が団体が最強、最高峰」と譲らない麻雀プロ団体が無数にあった。しかし、実態として団体同士の対抗戦は少なく、運の絡む競技な上に年に1回の対抗戦では試行回数が少なすぎる。おまけに各団体によってルールも違う。よって古の麻雀ファンは「誰が最強なのか?」答えの出ない疑問にモヤモヤしていた。しかし、藤田代表は団体の壁を資金力と言う名の力業で壊した。それがドラフト制度の導入である。

 総勢10チームで構成されたRMリーグ。1チーム4名で構成されているがチームに関するルールはたった1つ。「男女混合」それだけである。

 人気商売である以上、ファンとスポンサーから応援したくなるチームを作らなければならない。それには各団体のトッププレイヤーだけでチームを構成するのがチームオーナーとしての務めだ。各団体の勝率1位選手を並べることや美男美女を取り揃えてビジュアル重視でチーム編成も可能だ、団体側としても自団体所属の選手が天下のRMリーグで活躍すればその宣伝効果は計り知れない。選手としても収入だけでなく自分の腕と人間性を世間に売り込むまたとないチャンスだ。

 そして、極めつけはメディアへの圧倒的露出。RMリーグ開幕前には新聞の一面をRMリーグの広告で埋め、地上波でRMリーグの番組を作成し、藤田代表が組織運営する子会社のインターネットTVで全試合をリアルタイムで無料配信を始めた。

 革命は成された。

ビーストファンです。

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