表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された遠征書記官は、勇者パーティの敗因を知りすぎている  作者: 黒猫
第2章 敗因を武器にする

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/23

第七話③ 崩れなかった、という評価

 白靄葦原の見回りは、昼前には終わった。


 道標は三本とも立て直した。湿地犬は四体。採取道から大きく外れた足跡も一つ記録した。派手な成果ではない。だが、軽傷者も迷い込みも出さずに終えられたことの方が大きかった。


 帰り道、霧は行きより濃くなっていた。

 けれど朝に比べると、不思議なくらい慌てなかった。


「前進」

 ミラ。

「いる」

 俺。

「いる」

 シエル。

「いる」

 ノア。


 短いやり取りだけで、誰も見失わない。

 道標も、今はどこを見るべきか分かっている。

 視界が悪いこと自体は変わらない。だが、崩れ方が分かると怖さの形も変わる。


 南区へ戻って報告書を出すと、ハロルドは記録札ごと受け取って目を通した。


「第二道標の左逸れ、か」

「はい。霧で人影を見間違えやすい。左は風下で、見えやすい方へ寄ると道を外します」

「ほかは?」

「影より、水はねの間隔を見た方がいいです」

 俺は答えた。

「人なら歩幅がある。湿地犬は低くて速い。道標は動かない。視界が悪い時ほど、影より先に音と足元を見た方が崩れにくい」

「……なるほどな」


 ハロルドは羽根ペンを走らせ、報告の要点を短く整理していく。


 その横で、受付にいた別の探索者がぼそりと呟いた。


「また怪我なし?」

「白靄葦原で?」

「《灯火の羅針盤》だろ」


 声は小さい。

 でも、聞こえた。


「異様に事故率低いな」

 別の誰かが言う。

「強いっていうより、崩れてないんだよ」

「そっちの方が凄いんじゃないか」


 その言葉に、少しだけ胸が熱くなった。


 強いより、崩れていない。

 たぶん今の俺たちには、その方がずっと正しい。


「報告は反映しておく」

 ハロルドが言う。

「次から同じところで迷うやつは減るはずだ」

「お願いします」

「それと」

 ハロルドは俺たちを見た。

「お前たちの名前、早くも仕事し始めてるな」

「名前が?」

 シエルが聞く。

()()の方も、()()()の方もだ」


 そう言って、ハロルドは珍しく少しだけ口元を緩めた。


 ギルドを出たあと、ミラが軽く肩を回した。


「悪くなかったわね」

「ええ」

 俺は頷いた。

「怪我がなかったのが大きい」

「しかも、危ないところが最初から見えてた」

 ノアが言う。

「白靄葦原、前ならたぶん誰かが影に釣られてたぞ」

「だから最初に言ったんです。見えたものを、最初から敵だと思わないでくださいって」

「正解だった」


 シエルは少しだけ得意そうに言った。


「霧の落とし方も、悪くなかったでしょ」

「はい。かなり助かりました」

「でしょ?」

「ちょっと誇らしそうですね」

「だって、嬉しいし」


 ミラはそんな二人を見ながら、ふっと息を吐いた。


「次もこれで行きましょう」

「何をです」

「勝つことより先に、崩れないこと」

「……はい」

 俺は答えた。

「その方が、たぶん長く勝てます」


 南区の空は、昼を回って少しだけ白く霞んでいた。


 派手な一勝じゃない。

 大物を倒したわけでもない。

 でも、今日の依頼には確かな手応えがあった。


 敗因は、知っているだけじゃ意味がない。

 言葉にして、手順にして、次の動きへ落とし込んで、初めて武器になる。


 《灯火の羅針盤》として受けた最初の依頼で、俺はそれを少しだけ実感していた。


 勝った、という実感はまだ薄い。

 でも、崩れなかった。

 今の俺たちには、たぶんそれで十分だった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ