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冬の森の死体安置所  作者: 山田太朗
第五幕「空が泣いて月が死んでる悲しい静かな『世界』」
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6.端緒

 死体。死に取り込まれた身体。あるいは無価値となってしまったモノ。

 死者。生との対極――彼岸でしか存在を許されないモノ。


 わたしにとって、死というものはどこまでも身近にあって、遥か遠い存在のはずだった。

「じゃあ、何故わたしは話せているの? 死者は言葉を解さない」

「それは貴女が一番知っていることでしょう?」


 質問に質問を返さないで!


 そう叫んでしまいたかった。何もかもを忘れて、駄々をこねる子供のように。だがわたしは知っている。これは『埋葬』なのだ。


『埋葬』。死者を繋ぎとめることが出来る、古代人の秘中の儀。彼らは一時だけ言葉を話す権利を(あるいは義務を)与えられる。安らかな眠りを蹂躙するそれは、この()()に住まう人間たちの傲慢さだと断言できる。彼らは知らないのだ。この満ち足りた感情を。


 ()()()()()()()()()


 ぞっとした。自分の思考に。そんな隙を与えまいと、男がのっぺりとした声を出した。

「死者はぼくらとは違うルールで動く。制約と言っていいかもしれない」

「制約?」

「そう。現在君は古代語しか解さない。それも制約の一つ」

「古代語」

「ほかにもいろいろとあるんだけれど、説明をする必要はないね?」

 

 それが既定された未来だから――そう男は結んだ。

 どこまでも現実味のない話だ。しかし、わたしは自身の掌を見て納得せざるを得なかった。

 先ずは受け止めること。そして考えること。


 相変わらず思考はぼやけ、理論を上手く形作ることが出来なかったが、認めるしかない。

 現状を整理するために、言葉を紡いだ。

「わたしは既に死んでいる」

「イエス」

「わたしは『埋葬』されている。現在進行形で」

「イエス」

「わたしがこの場にいる理由は?」

「それは世界に聞いた方がいい」


「では世界。わたしは何故この場に招かれたの?」

「その言い方は正確ではない。あなたは招かれたわけではなく、自身の意思でここにいる。いや、ここに存在している」

「そんなはずがない。だってわたしは……」


 その次の語句を、わたしは継げずにいる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()


「あなたがここに迷い込んだ理由。それはどうでもいいの。今現在、()()()()()()()()()()()()()、それが全てなのだから」


 何もかもが分からない。だが、そうやっていても話は進まない。だったら聞かせてもらおうじゃないか。彼女らしい前向きさで決心した瞬間、世界が笑った。「それでいいの」そう付け加えて。

 思考を読まれているという現状。得心はしかねるが、理解はした。

 この世界を受け入れる。それだけで、わたしの心はかなり軽くなった。


「宜しい」


 どこか厳かな声音で男が言う。遠い遠い昔に聞いたことがあるような声だった。

 いつの間にか、彼の手には一冊の本が握られている。いや、彼の大きさから考えると、つまんでいる、と言った方が正確か。ともかく、その本には見覚えがあった。

 真黒な装丁。言語化が出来ない、不可思議な色でタイトルが彫り込んである。


「クリウッド戦記」

 

 古代語で記されている表題。真っ暗ながらんどうから、右手だけが出てきてそれをイルミナに放った。そんな記憶がどこからか湧いてくる。

「だから、本はもっと大事に扱いなさいよ」

 思わず口を突いて出た言葉に、わたしは驚いた。「いい傾向だ」男か世界か――あるいは褐色の瞳をした誰かが優しく言った、そんな気がした。


「それでは始めよう。すべての発端である、クリウッド戦記……その作者であるローラン・クリウッドの物語を」


 

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