第14話 混乱する情勢 勝利の条件
キーと我夢は朝になると早々に朝食をとり、衣類を買い替えて朝の支度を整え、ルルアガに向かう事に決めた。我夢としてもルルアガに協力することで路銀を稼ぎ、すでに敵対しているビーボーイを大戦力で向き合うことができるという魂胆があったからだ。
キーは我夢の実力であればキー相当の待遇を持って迎えられることと踏んでいた。信頼には乏しいが、既にダーリレン支部を壊滅させた結果を鑑みれば協力関係を結ぶことは至極妥当である。キーはそんなことを考えつつ我夢に考えを共有し、ルルアガの本拠の門を叩いた。
門が開き、キーと顔見知りのルルアガの構成員が顔を出す。挨拶をして少しばかり談笑しながら用件を伝えると、直ちにイルーシャに取りつないでもらえることを約束できた。彼らとしても戦力が増えることは渡りに船であるからか、イルーシャはすぐに出迎えに来た。
「私も要件があったの。キーから来てくれて嬉しいわ」
「ちょうどよかッたな。少し長く話したイのだが時間はあるか?」
「ええ。大丈夫よ。そちらの方が話にあった人よね?」
イルーシャは我夢に尋ねる。
「ああ!我夢だ!よろしくお願いする!」
「イルーシャよ。よろしく。それではついてきてくれるかしら」
イルーシャと共に応接室に通される。ラシオンは現在不在だがもうすぐ帰るとのことだ。運が良ければ挨拶できるだろう。そんなことをイルーシャから聞いているうちに以前ラシオンと話している時にいたずっと目を瞑っていた女がグラスを配膳した。
「どうぞ」
「気遣い痛み入る。……確かラシオンの部屋にいた」
「シユナと申します。ラシオンの秘書兼相談役をしております」
「ああ。改めてキーだ。よろしく頼む」
シユナは深々と礼をする。イルーシャはシユナと書類の受け渡しをしながらキー達に契約について話す。
「シユナは聞いている通りの立場にいるわ。彼女に前回話していた契約書について話してもらうわ」
「わかった」
「承知した!我夢だ!どうぞよろしく!」
シユナはイルーシャの隣に座る。そして静かな口調で話し始める。
「今日はようこそお越しくださいました。まず前回の話し合いについてまとめた契約についてお話させていただきます。」
イルーシャは書類をキーに手渡す。キーは流し読みしながら話を聞く。
「キー様のご要望によりいくつか条項を付け加えさせていただきました。概ね聖堂が発行する契約書と同等の内容となります。確認の上サインを頂き、聖堂に提出し承認されることで契約成立となります。どうぞお確かめください。」
「わかった。3部あるが一枚は聖堂の控えだったか?」
「はい。そうです」
「わかった。依頼斡旋所でも同様の書類を提出したからもう確認できた。サインするので契約を頼む」
「ありがとうございます。ルルアガと協力していただけることを誠に嬉しく思います」
「よろしく頼むわね!」
契約手続きは順調に終わった。これで名実ともにキーは完全なルルアガ陣営となった。どこかイルーシャとシユナの顔もほころんでいる。そうしているとシユナはまた新しい書類の束を出した。
「次の話に移ります。こちらは依頼達成時の特別手当についてまとめたものです。ビーボーイの構成員を捕縛、または殺害時に出る報酬などについてまとめています」
「拝見しよう」
そこには似顔絵付きの指名手配所などがある。ビーボーイの拠点についての情報もあり、ビーボーイの財産に損害を与えることに成功した場合も、報酬が望めるようだ。書類をめくっていくと、あるページで手が止まる。
「こいつは……」
「ビーボーイ幹部のオゼね。殺したら銀貨500枚よ」
特徴的な見た目であるし、あのような襲撃事件があったことは記憶に新しい。キーは我夢にも書類を見せてからイルーシャ達にこれまでの経緯を説明した。
「イルーシャ。昨日ヴァゲスとオゼと遭遇し、俺様たちは戦った。それについてこの我夢を交えて話したい」
「……!」
「なんですって!?よく無事だったわね!」
一気に空気が張り詰める。シユナも表情が引き締まっている。彼らはやはりルルアガとは因縁深いのだろうか。言葉に気を使いながらキーは話し始める。
「まず経緯を説明する。昨日の昼過ぎ、依頼によって製粉所で荷揚げをしていた際に襲撃された。そこにこの我夢が現れて返り討ちにした。オゼは全身打撲と裂傷を負い、おそらく魔法を使って煙幕を出して撤退したという次第だ」
「うむ!その説明の通りだ!オゼは俺が殴って家屋に吹き飛ばしたが、あの感触だと大した傷ではあるまい!殴られる瞬間に魔力防壁を貼りながら飛びのいていた!ダメージは与えただろうが動きに支障はないだろう!」
「あなた相当な手練れじゃない。嬉しい知らせね」
「昨日と今日にビーボーイ幹部の動きが見えないところを見るとそのことが原因なのかもしれません」
キー達が昨日の戦況を話すと、イルーシャは我夢の戦闘力を頼もしそうにする。シユナは謎であったビーボーイの動向の原因の推測を論じると、キーはこの屋敷にいない人間について聞く。
「ラシオンはビーボーイの動きを見るために今いないのか?」
「仰る通りです。昨夜はビーボーイの襲撃が全くなく、ビーボーイ全体の動きが鈍くなっていたので調査に参りました。……また昨夜突如出現した戦略級魔法と思われる現象についても余力全てを注いでいます」
「あんなことが起きるなんて思いもよらなかったわ……。おかげで今ウルゴルヌーマはかつてないほど賑やかよ。うちももう昨夜からてんてこまいよ!」
「前者に関しては推測ではあるが魔導士とイう特記戦力が倒されたことと後者の事件によって、戦力の再配置をしたのだろう。後者に関しては俺様モさすがに驚いた。なんだったんだろうなあレは」
「……。」
「……!!!」
「……」
イルーシャはほとほと疲れたというように愚痴を口にした。その様子を見て我夢は形容しがたいすごい目でキーを見ている。キーは目力を込めて我夢を睨みつけるように見つめると、我夢は呆れたように目をそらした。嘘は言っていないからだろうか。キーは分析を口にしてからそんなコントをしていると、我夢の方に手を差し伸べて紹介する。
「そこの我夢はなんでもダーリレンとかイう場所のビーボーイ支部を壊滅させたらしい」
「うむ!その通りだ!壊滅させてからすぐにこの町に向かって来たから知らないのも無理はない!」
「まぁ!それは本当なのですか?」
「ビーボーイのヴァゲスも知ってイたようだ。なんでも一昨日あッた幹部総会で知ったとか言っていたな」
「それなら真実である可能性が高いわね……。かなり貴重な情報よ」
シユナの問いかけにキーが答えるとイルーシャが推測を口にする。ルルアガはこの件について知らなかったようだ。イルーシャとシユナは二人で盛んに論を交わしている。そうしていると屋敷に男衆が入ってきたようだ。調査が一段落して帰ってきたのだろうか。シユナが席を外して少しばかりすると防具を身に着けたラシオンが応接室に入ってきた。
「戻ったぞ。いったん休憩だ」
「ラシオン!今キー達が来ているの!すごい情報があるから一緒にきいて!」
「わかったから落ち着け。よぉキー来てくれて嬉しいぜ。契約もしてくれたようだな。期待しているぜ!それでそちらの男前は?」
「我夢という!ラシオン殿!お会いできて光栄だ!よろしくお願い致す!」
「ラシオンだ。丁寧な挨拶痛み入る。それで何の話だったんだ?」
「実は――――」
イルーシャが今までの経緯をまとめてラシオンに話す。ラシオンは腕を組み黙ってその話を聞いている。話を聞き終わると納得したようだ。
「そうか。ここしばらくビーボーイの襲撃がほとんどなかったのはダーリレン支部が壊滅していたからだったのか」
「どうやらそのようですね。昨年に新大陸最大の国家が列強国の植民地にされてからビーボーイの力は飛ぶ鳥を落とす勢いでした。幹部のオゼやヴァゲスでさえ貴族位を手に入れるほどに奴隷貿易で儲けたようです」
「ダーリレン支部が壊滅したとなれば奴隷輸送も滞るだろう。俺たちにとっては福音だ」
シユナは今までの状況をまとめると、ラシオンは冷笑を浮かべる。キーは疑問点を聞く。
「ダーリレンって場所の支部がつぶれるとなンで奴隷輸送が滞るんだ?」
「ダーリレンは三つの半島が接触している地理にある。そこに存在する国家間では大昔から延々紛争を繰り返していて奴隷の大産出地域なんだ。そこからビーボーイの連中は奴隷を買いつけてウルゴルヌーマで売買しているわけだ」
「解説どうモ。なるホど……」
キーは考え込む。ラシオンたちは今回得た情報からこれからどうするか話し合っている。我夢は黙っているが、ダーリレンの様子はどうだったか聞かれるとすげなく答えていく。そうしていると、話は煮詰まっていきライオンはキーに話を振る。
「キーよ。何か知恵を貸してはくれねーか?」
「そうだな……大方針を決めるなら叩き台を考えていた」
「そうか!参考にしたい。是非聞かしてほしいんだが」
キーは頷く。その場にいる全員が注目し、清聴する。
「腹案としては現在ビーボーイが混乱している隙を突いた速攻だ」
「ああ。同感だぜ」
ラシオンは同意し、それきり黙り続きを催促する。きーはじろんをとなえる
「ビーボーイの経済基盤は主に奴隷貿易だ。現在奴隷入手地域は聞いている限りダーリレンの比重は大きく、支部が壊滅したとなれば戦力の投入などてこ入れをするだろう。必然他地域は手薄になり、ウルゴルヌーマには余力は残らなくなる。」
「ちょっと待って昨夜あんな出来事があったばかりよ」
イルーシャが懸念を口にする。キーはすかさず詳しく推測を説明する。
「ビーボーイは一昨日以前には少なくともダーリレンに余力を向けていルだろう。昨夜の事件を調査することよりも重要度は高いダろうし、送り出した戦力をすぐに戻すのは難しい。組織として商売を放り出すこともしないからダーリレンにはある程度の戦力を確実に差し向けることになる」
「確かにそうね」
キーは頷いてグラスを呷る。喉を潤して一息つくと話を再開する。
「ビーボーイの戦力の空白が現在ウルゴルヌーマに存在すル。また事件ガ続き情報網にも粗があるだろう。よってビーボーイの混乱を助長しつつ、速攻ヲかける。目標はボスの首を狙うか、各個撃破ヲ狙うかだ。また相手の輸送網を狙ってウルゴルヌーマとダーリレン間の情報を遮断できれば時間的猶予も伸ばし、情報網も破壊できるだろう。弱ってイる相手をさらに分断し、息をつかせる間もなく混乱させ、こちらの最大戦力をぶつけ続ける。簡単だガ以上だ」
「なるほどな……。俺も賛成だ。作戦の参考にする」
「私も同意します。」
「よく理解できなかったがよく考えてあると思う!素晴らしい!」
「いい考えね!やるじゃない!」
キーは誉め言葉に気をよくし、髪を手で靡かせて鼻を高くする。そして組織を統括する男に発破をかける。
「具体的な作戦はそっちの領分だ。期待してるぜ?」
「ああ。任せろよ」
ラシオンは白い歯を出して不敵に笑う。
話が一段落すると応接室がノックされ、入ってきたルルアガの男が調査の時間が押しているので出発したいという旨を伝えに来た。ラシオンはすぐに立ち上がり、退出することを告げる。
「それじゃ俺は昨夜の事件の調査に行ってくる。貴重な話感謝する。懸念が一つ消えたぜ。お前たちはゆっくりしていってくれ」
「あぁ待テ。あれをやッたのは俺様だ。懸念が全部消エてよかったな」
「うむ!魔法の練習をしていたらあんなことになってしまった!つい勢いでな!許してほしい!」
「むしろ他の組織を牽制できるいい手ダった。自分が誇らしイよ」
ラシオンたちは絶句し、ジト目を二人に交互に向ける。キーはどや顔ダブルピースを向け返すと一言を投げかけた。
「ウケるナ」
「アンタ糞だわ」




