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兄が異世界救って帰ってきたらしい  作者: 色川玉彩
第二章
18/85

嫌な予感

 愛ちゃんの提案で、ひとまず巻き舌ジュゴンの人形を入り口付近のコインロッカーに預けた。

 しかしコインロッカーの前に立って愕然とする。

 高い。

 どこ行ってもお金の話をして大変申し訳ないのだが、しかし私はこの5年間ほどお金のことだけ考えて生きてきた。だから、少なくとも心の中では、逐一お金について考えざるを得ない。

 悲しい17歳女子。

 ただ母の言いつけ通り、こういった場でお金を出し渋ることは集団の和を乱すし、周りに気を遣わせるだけなので、ためらいを見せずお金を支払う。

 しかもただただ大きい人形なので、大きい方のロッカーのさらに上、特大ロッカーを使用するしかなく。まさかの800円。泣きたい。

 買えたじゃん。

 痛すぎる出費と引き換えに、身軽になり園内を再度散策し始める。

 お化け屋敷やジェットコースター。ウォークスルー型のアトラクションなど、各種有名どころをつまんで遊んでみた。お化け屋敷は少しぞっとしたけれど、どれも楽しくそれなりに休日を満喫できた気がする。

 まあ、逐一兄がカッコつけたり妄言を吐きかけていたことはあったけれど割愛する。

 とにかくドラゴンだとか魔法だとかに反応するみたい。


「あれ! あれ!」


 いつも通り愛ちゃんが先行してアトラクションを指さした。

 そこにあったのは細長い塔のようなもので、園内の一番奥にある。ということは、かの冒険譚の最終章を意味しているのだろうと思う。


「えっと……」


 兄がマップの説明に目を落とす。


「白い竜が捕えられるブラックタワーで、悪のダークネスドラゴンの根城。だって」

「ラスボスってことですね」

「みたいだ。ここから白い竜を助け出すのが最後のミッションってわけか。ぞくぞくするね」


 ぞくぞくしたよ。今のセリフ。

 ちなみに、白い竜は実はいいドラゴンで、悪いドラゴンから人間を守っていたらしい。本当の悪はダークネスドラゴン(こっちは何故か横文字ネーム)で、白い竜と長年闘っていたんだって。でも冒険者がいらんことをしたせいでそのバランスが崩れて、ダークネスドラゴンに隙をつかれて連れて行かれた。

 それがさっき入ったウォークスルー型のアトラクションで起こった出来事。


「これは乗らなきゃ帰れないっしょ!」

「こんなの前は無かったよね。どんなアトラクションなの?」


 と、背後で北田くんが立ちすくんでいるのに気が付いた。


「北田くん、どうしたの?」

「えっと、いや……」


 その時、何かがすごい勢いで落ちてくる轟音と、複数の悲鳴のようなものが響いた。

 見上げると、細長い塔の窓からリフトのようなものが激しく上下に行き来しているのが見える。これはフリーフォールというやつだ。


「無理無理無理!」

「あー北田、高いの無理なんだっけ」

「お前、知ってて連れてきただろ……!」


 愛ちゃんと北田くんが言い合ってる。


「あれ、でも北田くん、さっきのジェットコースターは乗れたんだよね?」

「あれは……」

「無理してたんだよねー?」

「え、嘘。そうなの?」


 私の問いかけに、北田くんは目を逸らした。

 

「怖いなら怖いって言ってくれればいいのに」

「そ、そんなのカッコ悪いじゃん……」


 そうかな? 怖がってる男子も可愛いと思うんだけど。


「じゃあ北田はそこにいてよ。私たち先に乗ってくるから」

「え」

「うん。無理しない方がいいよ?」

「そんな……」

「あ、じゃあ俺もここで待ってようか?」


 そう兄が気を利かせた発言をした途端、北田くんの目つきがぎっと変わる。


「大丈夫っすよ! みんなで乗りましょう!」


 そう勇んでずんずんと1人入り口に向かっていった。

 なにか彼のプライド的なものに火をつけてしまったのだろう。

 ……大丈夫かな?

 愛ちゃんは愛ちゃんで、悪戯っ子っぽくほくそ笑んでるし。


「北田、学校の時とは違って、可愛いやつでしょ?」

「確かに印象違うかも。何でもできて爽やかな人かと思ってた」

「ぜーんぜん。子供っぽくて意地っ張りなの。昔から変わってない」

「愛ちゃんは良く知ってるね」

「幼馴染だもの。どう? 北田いいやつでしょ?」

「うん。嫌いじゃない」

「おーい北田! お志津が嫌いじゃないってー!!」

「なっ! 何言ってんだお前!!」


 前方でワチャワチャする二人に、幼馴染っていいなーと思う。

 私には心を打ち明けられる異性はいないから。

 ふと、黙りこくっていた兄を見遣ると、少し細い目をして遠くを睨んでいた。


「どうしたの?」

「ん、ああ。なんでもない」

「なんでもありそうな顔にしか見えないけど……」

「いや、ちょっとな。嫌な空気がして」


 あー、これ付き合っちゃいけないやつだ。

 気配を感じるというやつだろうか。第六感的な。


「好きにして。私は先行くわよ」

「ああ、俺も行くよ」


 出た、「ああ」。

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