【番外編】 王様と大魔女様で、本編より少し前
ある日、謁見室にて王様は真剣に頭を悩ませていました。そんな王様を困ったように見るソフィアはすっかり大魔女の仮面が剥がれています。ですが、本当に困っていたので仕方が有りません。
「ソフィア、そう…もうちょっと体重左にかけて」
「あの…陛下、本当にこれで良いのでしょうか?」
「ああ。そう、そこでストップ」
陛下は困る様子のソフィアを無視し、「完璧」と一人で納得していました。
今、玉座の肘掛に腰かけるように命じられたソフィアは非常に戸惑っています。普通なら王座に座る……いや、正確には王座の肘掛に座るという不敬も甚だしいこの行為を、何故王様が求めるのか理解できないのです。
しかし王様は満足した様子で、そのまま玉座に座りました。そして、ひじ掛けに座るソフィアに満面の笑みを浮かべて問いかけます。
「この図、下から見たらどう見えると思う?」
「え……?そうですね、とても……とても馬鹿な魔術師がいるように見えると思います」
「それはこの国の国民が見た場合だろう。他国の使者が見た場合だよ」
楽しそうに陛下が言葉を紡ぐ時、大概はロクなことを考えていないとソフィアも十分に理解しています。きっと、他国の人に相当な意地悪になることをしているのでしょう。そう考えて、やがて一つの結論を導き出しました。
「王を守るとんでもない死神に見える、ということでしょうか?」
「正解。だから、妖艶に笑ってね。その方が真実味も増すだろうから」
そう言った王に、ソフィアはただ苦笑して「頑張ります」としか答えられませんでした。きっと実行した際には卒倒する国内の重鎮もいるのだろうな、と思うと彼らに気苦労を掛けることを申し訳なく思いますが、まさか陛下の命令に背く訳にもいかないのです。
ソフィアにとって国王は信用に値する相手です。何より、馬鹿正直に魔術師になりたい理由を告げた9歳のとき、当時王子だった現国王はソフィアに迷うことなく言ったのですから。
『お前は正直で信用に足る相手だ。王家に仕えたいのではなく、愛する者を守るために王家に仕えたい言いだす者がいるとはな。馬鹿正直過ぎて、同情さえ禁じえない』
そして王子はその信用した子供魔術師……後の大魔女の後ろ盾になり側に置くことにしました。そしてそれはあくまで「軍属の人間」としてのことです。王子にとってソフィアは家柄も良く面白い子供でありましたが、王子は他の男に惚れている子供を欲しがることはしませんでした。寧ろ、そこまで恋心を貫こうとするソフィアの観察が面白いとも思っていました。
「随分楽しそうですけど…どうされました?」
「いや、気にするな」
しかし、その恋心の邪魔をするかのごとく彼女に任務を与えているのは王子、いや、今は王となった自身なのです。ここまで熱心な恋心であるから成就させてやりたいと最近では思うようになったものの、破局してしまえばよいのにと思わなかったことが無い訳もない。
「……まぁ、大根役者を自覚しながらも道化を演じる事を躊躇わない程に惚れているなら、仕方がないな」
「陛下?」
「いや。明日は西の国の文官がやってくる。役立つ威嚇を楽しみにしているよ」
人の恋心を利用して国を支えている現状を、ソフィアにかけている負担を国王とて理解できていない訳ではありません。早く国を安定に導かなければいけないと思っています。だからそのためにも……はやく彼女の重荷を取り除くためにも、彼女を利用することを躊躇いません。
(矛盾してても構わない。どうせ、この世は全て矛盾だらけだ)
せめてもの罪滅ぼしというのなら、彼女が行うだろう侯爵家子息との結婚式は彼女が恥ずかしがる程に盛大なものになるよう後ろから働きかけてやろう。そう、国王は考えました。
(迷惑がられても構わない、盛大に祝ってやろう)
そう国王が密かに思っていた事を大魔女は全く気付くことなく、ただただ困ったように笑っていました。