最終話 二人で一つの誓い
静まり返った部屋の中で、俺はそっと顔を寄せた。
まずは、涙を浮かべて俺を見つめる「表の繭」の柔らかな唇へ。
続いて、彼女の肩越し、安らかな微睡みの中にいる「裏の顔」の冷たく愛おしい唇へ。
「僕の命が果てるまで、二人を……愛し続けるよ」
誓いの口づけ。
二人を等しく愛し、その存在のすべてを受け入れたその瞬間——光とも影ともつかない澄んだ風が、部屋の中を吹き抜けた。
それからだった。
あの日を境に、繭の後頭部に宿っていた「裏の顔」は、ピタリと姿を見せなくなった。
それどころか、あんなに重そうだった彼女の豊かな黒髪をどれだけ深く掻き分けても、そこには傷ひとつない、滑らかな少女の肌があるだけだった。
跡形もなく、消えてしまっていたのだ。
そして、訪れたのは繭自身の劇的な変化だった。
ほんのわずかな期間の間に、彼女の背はすんなりと伸び、幼さの残っていた輪郭はハッとするほど大人びた美しさを帯び始めた。おどおどと震えていた瞳には、深く澄んだ知性と凛とした光が宿っている。
「守さん……私、なんだか不思議なんです」
庭のベンチで並んで座っている時、繭がふと呟いた。
その声は、かつての可憐な響きを残しながらも、どこかあの「裏の顔」が持っていた透き通るような妖艶さと威厳を孕んでいる。
「今までずっと、自分の中に大きな穴が空いていたような気がしていたんです。でも今……すごく胸の中が温かくて、満たされていて……『私』がちゃんとここにいるって思えるの」
無邪気に微笑みながら、彼女は俺の腕に寄り添ってきた。
二人を分け隔てなく愛したあの日。
守るために狂気を背負った裏の顔と、守られるために無垢でいつ続けた表の顔。
引き裂かれていた二つの命は、俺の愛によって溶け合い、ようやく「ひとりの糸巻繭」として完成したのだ。
「守さん、大好きです。……ふふ、僕がずっと守るから、なんて顔しないでくださいね。これからは、私が守さんのことも支えるんですから」
悪戯っぽく微笑む彼女の瞳の奥に、かつての二人分の愛が見えた。
「そうだね。これからは……二人で一緒に生きていこう」
俺は彼女の細い肩を抱き寄せ、どこまでも広がる青空を見上げた。
世界の理から外れていた少女は、もうどこにもいない。
ここにいるのは、俺が愛し、俺を愛してくれる、ただ一人の愛しい恋人だけだ。




