放課後の密着と、微笑む幼馴染の冷たい視線
放課後、山田先生は眠そうな顔で教室を出て行った。それを合図にするかのように、クラスメートたちはそれぞれのグループへと散らばっていく。広人は自分の席からその様子をぼんやりと眺めていた。
目の前ではギャルの集団が騒がしく喋り合っている。教室の前方では、男女入り混じって鎌城冬也の周りに集まっていた。一人の女子が声をかける。
――鎌城くん、サッカー部に入ってたって本当ですか?
彼女は彼の手を掴んで言った。
――すごい!
冬也は穏やかに答えた。
――ああ、うん。昔も今もやってるよ。
男子が割り込んできた。
――マジで!?学校のサッカー部に入るの?俺も入ろうかな!
冬也はにっこりと笑った。
――じゃあ放課後、一緒に先生に聞きに行こうぜ。
別の女子が言った。
――鎌城くん、髪きれいですね。何かシャンプー使ってるんですか?
――ああ、専用のシャンプー使ってるだけだよ。
彼は席から立ち上がり、付け加えた。
――「くん」はいらないよ。冬也って呼んで。クラスメートなんだからさ。
冬也が話している間、広人のすぐ隣では別のグループが森戸りかを囲んでいた。女子が言った。
――森戸さん、アクセサリーかわいいですね!
りかは照れながら頭の後ろを掻いた。
――あ、ありがとう!先月買ったばかりなんだ。
男子が続けた。
――りかちゃん、格ゲー好きって聞いたけど、レースゲームもやるの?
りかは頬に手を当てて少し考えてから答えた。
――正直、やったことないかな。格ゲーは幼馴染の影響で好きになったんだよね。あの子、すごいハマってて。
広人はその言葉を聞いて、そっと顔をそらした。りかはそれに気づき、彼のほうを見る。グループの視線もつられるように広人へと向いた。
一人の女子が広人を見ながら言った。
――森戸さん、田中さんって幼馴染なの?
りかはサムズアップして答えた。
――うん、長い付き合いだよ。昔は隣に住んでたし。
女子が続けた。
――なんか意外!全然似てないよね。田中さんって無口そうだし。
クラスが笑いに包まれた。広人は顔を背けたまま、心の中でつぶやいた。
……なんなんだこいつら。全部山田先生のせいだ。おかげでクラス全員に根暗オタクだと思われた。本当に最悪な一日だ。
広人はため息をついてスマホを取り出し、新しい格闘系RPG MMOを起動した。このゲームをダウンロードした理由はただ一つ――シルヴィアの原作者とコラボしていて、シルヴィア自身がプレイアブルキャラクターになっていたからだ。
チームに合流してシルヴィアを選択しながら、広人は思った。
なんでシルヴィアがゲームの中で魔法の小屋にいて、剣を抜いて俺を殺そうとしてるんだ……おかしいだろ。
試合は接戦だった。広人が集中して画面を見つめていると、不意に耳元に息がかかった。そして、静かな声が聞こえた。
――回復ポーション使って、次に火魔法。
広人は振り向いた。
三上さやだった。
見知らぬ女子にこんなに近づかれたことなど一度もない。広人は思わず椅子から転げ落ちた。
教室が静まり返った。全員が広人を見た。最初に視線を向けたのはりかだった。その顔には、表情こそ薄いものの、怒りの色が滲んでいた。しかし他の生徒たちはすぐに興味を失い、それぞれの話題に戻っていった。
広人はお尻をさすりながら言った。
――い……普通に痛いんだけど。
さやが近づいてきて手を差し伸べた。りかは今にも爆発しそうだったが、割り込むこともできない。
広人はその手を掴んで立ち上がり、もう一度椅子に座り直した。
さやは深々と頭を下げた。
――ごめんなさい、本当にごめんなさい!驚かせるつもりじゃなくて、ただ『ラストバース』を見たら嬉しくなっちゃって!
――いや、俺が勝手に驚いただけだから。
さやは少し間を置いてから言った。
――私、三上さやです。よろしくお願いします、えっと……
そこで止まった。さやは今朝遅刻していて、自己紹介の時間に間に合わなかったのだ。
広人は答えた。
――田中。田中広人。
さやの目が輝いた。
広人は頭を掻きながら言った。
――そういえば、格ゲーとラノベも好きなんだっけ?
さやは前のめりになって答えた。
――好きどころか、大好きです!
そう言ってから、広人との距離に気づいた。さやは素早く身を引き、顔を赤らめた。
――すみません……好きなものの話になると、つい熱くなっちゃって。
広人は苦笑いしながら言った。
――いや、全然大丈夫だって。本当に。
そして、さやの後ろに視線をやった。
りかがこちらを見ていた。新しい友達に笑顔を向けながら、広人に向けているのは――まさに殺気としか言いようのない眼差しだった。
広人はその視線を、背筋で感じ取った。




