重陽の節句イベント⑤
出し物も終幕となり、人々は解散していきますが、フロリアナは余韻に浸っているのか、うっとりとその場に立ち止まっています。
わかります。私も前世で大道芸やサーカスを見た後は、興奮が冷めやらぬまま夢見心地でした。
けれど、あの大きな猫さん……ではなく虎さんは違うようですが、前世ではサーカスでむち打たれる動物を見て、どこか悲しい気分になりました。
芸を仕込むのには飴と鞭とは言いますが、やはり信頼の上で成り立つ関係が一番ですよね。
「ねえ、もっと近くで見ましょう!」
「ああ!」
ウルフェナイト小公爵の向こう側からそんな声がしたと思ったら、噴水の方に駆けていく小さな影が見えました。
間違いなく第二王子とオイドクシ公爵令嬢でしょうね。
大道芸をしているのはジュエリアと王家の護衛や隠密でしょうから、不意を突かれることはありませんが……。
「ガルゥゥゥゥッ!」
「きゃぁ!」
「うわぁ!」
虎さんは知らない人が不用意に近づいても我慢するとは、限りませんよねぇ。
案の定、虎さんは急に近づいてきた二人に警戒心をあらわにして、大きな声で威嚇し、それに驚いた二人は大声を出して転んでしまいました。
係の人が虎さんを宥めていますが、すぐに転んだことを恥ずかしく思ったのか、立ち上がった第二王子が大声で「そいつを殺せ!」と叫びました。
(なんてことを!)
咄嗟に足が動きそうになりましたが、またもやウルフェナイト小公爵が行く手をさりげなく阻止し、動かないようにと一瞬私を見ました。
つまりはあちらにいる方々で対処するという事でしょうが、簡単に動物の命を奪うと発言するなんて、ありえません。
「ヴェスペリオンお兄様」
「なんだ?」
思わず出た低い声に、第一王子は若干驚いたように私を見ましたが、私の顔を見てすぐに真顔になりました。
「第二王子の教育係、すぐに変えた方がよろしいですよ……」
「……まあ、そうだな」
第一王子も先ほどの第二王子の行いには思うところがあったのでしょう、けれどもこの話は皇后が何度打診しても、離宮の方で断っていると聞きました。
皇后の夫君もジャキルピット男爵令嬢側に立ち、権力を振りかざしているそうです。
皇帝も教育係を変えるよう進言していますが、第二王子を下手に賢くしてしまい、第一王子の立場が危うくなるのを避けるためなど、都合のいい言葉を言ってごまかしているそうです。
(そもそもヴェスペリオンお兄様の立場が危うくなるなんてないのに、なにか問題があるのでしょうか?)
もっとも、教育係がどれほどしっかりしていても、本人にやる気がなければ何の意味もないですけれどね……。
考えている間に係の人が虎さんを素早く避難させてくれました。
うーん、もう少し遠くから眺めていたかったですが、長くいてあの二人から危害を与えられる可能性もありますから、賢明な判断ですね。
それに、ジュエリアや王家関係の人が飼育しているのでしたら、又見せてもらえる可能性がありますね。
……今度、お爺様に聞いてみましょう。
「はあ、もう終わってしまいましたのね」
残念そうに言うフロリアナは、第二王子たちのことは気にしていないようです。
虎さんを見に行くときは、フロリアナも誘うことにしましょう。
「ちょっと! 離してよ!」
「俺を誰だと思ってる! くそっ、お前たち何をしてたんだ! 俺がこんな目に遭ってやっと来るなんて!」
オイドクシ公爵令嬢たちが騒いでいる様子がみえますが、ほとんど人がいなくなった噴水前では、その声はむなしく響くだけです。
護衛の方々は大変ですね。
「フィリー、出し物は終わってしまいましたが、お祭りが終わったわけではありませんよ。ね、お二人とも」
私がそう言って笑うと、第一王子とウルフェナイト小公爵がにっこりと笑いました。
「そうそう、お祭りの醍醐味はまだまだこれからだ! このお兄様がお祭りの楽しみ方を教えてやろう!」
張り切ったように声を上げてフロリアナに手を差し伸べた第一王子。フロリアナはそのしぐさに驚いたように体を硬くしましたが、その手を慎重ににぎりしめました。
その瞬間、第一王子も驚いたように体を硬くしましたが、すぐに嬉しそうに笑ってフロリアナの手を引いて歩いていきました。
二人の後ろ姿を見ながら、私はウルフェナイト小公爵と目を合わせてから、ゆっくりと二人の後をついて歩き出しました。
「タンザナイト公爵令嬢は別格だし、皇女殿下にも皇帝陛下にもヴェスにもそれなりに心は開いていると思うよ」
「そうですね」
聞かずともゆったりとした口調で話すウルフェナイト小公爵に、私はそこに疑いはないと頷きました。
「でも、まあ……あんな風に普通の兄妹みたいに手をつないだのは、初めてかな」
その言葉にウルフェナイト小公爵を見れば、穏やかなまなざしで二人を見ています。
まるで自分のことのように、どこかぬぐい切れなかった緊張が解けたような、そんな気配に、私は「よかったですね」と小さく微笑みました。
きっと、過去のループでは今のように第一王子の手を疑うことなく、恐れることなく取ったことはあったのでしょう。
けれどもそれでも最後は誰かの手で殺される運命を繰り返すうち、その手を掴むことに対して、フロリアナはどこか恐れを抱いていたのかもしれません。
「……本来あるべきものを、取り戻しましょう」
私の小さなつぶやきは、しっかりとウルフェナイト小公爵の耳に届いたようで、「それが僕たちの役目だよ」と返してくれました。
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あ、この作品のPVあります。
見ていただけるとヒャッホーーーーーーーーーイって飛び上がった末の感謝の土下座をします(イマジナリーで!)
↓ こちらです。楽曲もオリジナルです!歌詞頑張りました!
https://youtu.be/lGgzV-qP2d4?si=qfMnJDU_K_SPcavB
↓ 曲 2バージョンあります(歌詞は同じです)
https://youtu.be/0_eG4LgSRxc?si=sVh6MfslAAvzeO6r
https://youtu.be/6nR6zqxGNPY?si=SRqlyHR7kBCSOvNL




