庭先での出会い
「ごめんなさい、邪魔をするつもりはなかったの。ただ通りかかっただけなので、どうか頭を上げてちょうだい」
リナフィアの言葉に男達も頭を上げる。そこでリナフィアは一番端に立つ藍色の髪をした男が怪我をしているのに気付いた。胸に置いた右手甲に赤い筋が入っている。
「あら大変、怪我してるわ」
「え、ああ……お気になさらず。これくらいいつもですから」
男は、ルーベントと同じ金色の瞳を柔らかく細め、平気だと手を振ってみせた。
しかしそう言われても、気付いてしまったものは放っておけない。リナフィアはハンカチを取り出し、振られていた手を掴むと素早く巻いた。
「ひ、妃殿下! そのようにしていただかなくても――」
「やらない方が気になるわ。私のワガママと思って受け取ってちょうだい。ああ、このハンカチは返さなくて大丈夫よ。応急処置だから、訓練が終わったらしっかりと手当を受けてね」
目を丸くしている男に、リナフィアは申し訳なさそうに眉間を縮める。
「ごめんなさい。神力なら一瞬でしょうけど……いつ何がおこるか分からないから、神力はできるだけ温存しておきたいの」
「いえ、この程度の傷に神力などもったいない……」
「そう言ってもらえると、気が楽になるわ」
リナフィアはハンカチを巻き終えると、驚きに目を丸くしている男達に軽く目を伏せ、「お邪魔しました」と軽やかに裾を翻らせて去って行った。
男はリナフィアの背が見えなくなるまでずっと眺めていた。
「おーい、ぼーっとすんな、レイス」
「んあ、あぁ……すまない」
手当を受けた男――レイスは、仲間から肘で小突かれようやく我に返る。
「まあ、驚くのも分かるよ。聞いてた噂となんか違ったよな。王妃様」
「おう、それオレも思った。『引きこもりの王妃様』――何をやっているのか、ずっと王妃宮に引きこもってばっかりで、まともに外に出てこない。そこへ正聖女様がきて、ヒステリックも加わったとか加わってないとか……」
「そうそれ! まあ、僕達は内政の外にある騎士団所属だし、王宮内のゴタゴタには関わらない方が無難だよね。あーやだやだ、政治やら派閥やらと疲れるねえ」
レイスをよそに他の三人は「だな」と投げやりに会話を終わらせると、剣を手にして訓練を再開させた。
「サウザード王国の王妃リナフィア・サウザード……か」
リナフィアが消えた先を見つめ、レイスは呟く。
「引きこもりにしては……変な人だ」
手に巻かれたハンカチをレイスは強く握りしめた。




