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勇者の隣は、茨道。〜最愛の少女の隣に立つために、弱肉強食の異世界で必死に足掻く少年〜  作者: とい
3章 運命の分かれ道

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第63話 王国騎士の矜持

 セレノアは遅れた事を反省し、手を差し出す。

 カインが目を背ける。


「ごめん、ここまで来るのに手間取った」


「‥‥‥誰もそんな事は聞いていない」


 その手を取らず、カインが自力で立ち上がった。だが、明らかに動きが鈍い。


「雑魚のくせに余計な時間を取らせるなぁぁぁッ!!」


 当然、魔族の少年が待つわけもなく。

 彼は魔力で身体強化した身体で襲いかかる。まるで直接殴り殺したいと言わんばかりだった。


「ッ!!」


 すると、セレノアが咄嗟に距離を詰め‥‥‥魔族の拳を受け止めた。背後から驚きの声が聞こえる。

 セレノアはそれに反応する余裕が無かった。迫り来る魔族の素手を、必死に捌き続ける。


「! 貴様ッ‥‥‥なぜそれほどの強化術を!? それに人間如きが、無属性をここまで鍛えてーーー」


「はあッ!!」


 そしてセレノアの狙い澄ました右拳が、魔族の頬に直撃した。そのまま勢いよく振り抜き、魔族を後方へ吹き飛ばす。


「ちッ」


 頬を摩った魔族が怒りを露わにするが、セレノアは既に幾つもの魔力の塊で追撃していた。魔族が更に腹を立てながら躱し続ける。


「カインっ、どうして魔術を使わないんだ!」


 セレノアは両手から連続して、魔力の塊を放ちながら話しかける。見よう見まねの、咄嗟の()()()。無属性魔術【魔力放射マナ・バースト】は普段よりも格段に威力が落ちている。

 光線ではなく、塊として飛んでいるのがその証拠だった。


「この()()()()も長くは保たない。あいつを倒さないと全てが台無しなんだぞ!?」


 セレノアは感情の赴くままに、話を続ける。


「僕たちで力を合わせて、あの魔族を倒そう!!」


 そして自分の考えを簡潔に伝えた上で、カインの返事を待ち詫びる。


「‥‥‥お前には王国騎士の矜持プライドは無いのか? 2人がかりで攻めるなんて、騎士として恥ずかしくないのか」


 彼の返事は、セレノアが全く予期していなかった言葉だった。


「ーーーはぁ!? まだ新人なのに何言ってるんだ!! それにそんな理屈、魔王軍には通用しない!!」


「なんだと‥‥‥?」


 セレノアは声を荒げて、カインへと言い放つ。

 子どもを嗜める保護者のように。


「カインは何のために鍛錬を続けてるんだ!?」


「‥‥‥強くなるために決まってるだろうが」


 カインは静かに声を荒げた。セレノアの態度に気づいて不快感を露わにしていた。


「僕だってそうだ!! 僕には絶対に叶えたい目標がある。そのために、最善を尽くしてきたつもりだ!」


 セレノアは真剣な声色で呟いた。脳裏に大切な思い出が蘇るが、今はカインを見つめる。


「戦闘において、敵を倒す事以外に重要な事なんてあるよか!? 目に見えない騎士道を貫いて死ぬなんて、僕は嫌だ。惨めに這いつくばってでも生きたい。生きていれば、何かがあるんだよ!」


 セレノアは大声で気持ちをぶち撒ける。カインが言い返せないほどに。


「今はあの魔族を倒して魔王軍を退けたい。僕は今ここで死にたくないから、君と手を組みたいんだ!!」


 それはセレノア自身、完全に自分本位の言葉だった。


「ーーーその雑な魔術は見切ったぞ!!!」


 すると突然、魔族の少年が大声を出して突進する。セレノアが放つ魔力の弾幕を躱しながら、みるみる距離を詰めていく。


「くそっ」


 セレノアは魔力を全身に流そうとするが、上手くできなかった。魔術の切り替えは、高度な魔力運用を求められる。魔術を学んでから経験の浅い、セレノアには時間が掛かる。

 その間にも距離が縮まっていき‥‥‥魔族の少年が魔力を纏わせた右手を振りかぶる。


「ーーー癪に障る」


 カインが声を出し、全力で腰の鞘を投げ付けた。鉄拵えの鞘が回転しながら、2人の間に割り込む。


「っ!!」


 それを魔族が躱した瞬間、セレノアは咄嗟に彼と距離を取る。魔力による強化術への切り替えが完了したのだ。

 そしてセレノアとカインは互いに、魔族と対峙する形となった。


「助かった‥‥‥カイン、ありがーーー」


「勘違いするな」


 セレノアは礼を言おうとしたが、咄嗟に阻まれた。その態度に困惑していると、カインが話し始める。


「‥‥‥お前、俺が魔力を集める時間を稼げ。俺の()()()()()で、あのクソガキを殺してやる」


 それは、実に口が悪い彼からの提案。

 セレノアは微かに笑う。


「‥‥‥わかった。あいつを倒すアテがあるんだな?」


 そして挑戦的に聞き返した。


「その言葉、後で後悔させてやる」


 そう宣言したカインは、確実に自信があるようだった。


「そっか‥‥‥じゃあ、楽しみに待ってるよ」


 セレノアは不敵に笑うと、全力で地面を蹴って突進していく。


「ーーーはぁッ!!」


「死にたいらしいなッ!!!」


 そして、魔族の少年へ剣を振りかぶる。その直後、派手な音が何度も響き渡る。



「‥‥‥時間稼ぎで、すぐに死ぬなよ」


 そんなカインの独り言は、瞬く間に掻き消されるのだった。

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