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勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜  作者: とい


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2つの道標

  アベルは6歳で‥‥‥1人となった。


「セリカ‥‥‥」


 唯一の家族と思えた少女は、もう隣にいない。

 残ったのは、渋々自分を育ててくれる孤児院の管理者のみ。


「っ‥‥‥」


 孤児院の管理者は今まで以上に、アベルと接するのを控えるようになった。セリカの引き渡しを手引きした、後ろめたさもあったのだろう。


「いつも育ててくれて、ありがとうございます。必ず自立しますので、もう少しだけ待ってください」


 だが何より、アベルの立ち振る舞いが‥‥‥別人のように変わった事に、気色悪さを覚えたのだ。


(勇者になったセリカと、また会うためには‥‥‥)




 後悔の日から、翌日。

 床で目を覚ましたアベルは、2つの言葉を思い出していた。


『15歳になれば、アストリア王立学院に入学できます』


『この世界は、強い奴が全てを奪っていく』


 これは、王国騎士だと名乗った2人が呟いた言葉。


(アストリア王立学院‥‥‥って、なんだろう。でも15歳の時に、そこへ行ければ‥‥‥)


 アベルにとって、1つ目の言葉は意味が分からなかった。孤児院で暮らし、教育も受けていないために。


(王女になったセリカに会うには‥‥‥少なくとも、弱いままじゃ話にならない)


 だが、2つ目の言葉は理解できた。強くならないと、何も手にする事はできないと。


 ・強くなること


 ・15歳までに、アストリア王立学院に行く


 それは、アベルにとっての道標。

 生半可ではない、2つの道標。


(絶対に成し遂げて‥‥‥セリカに会うんだ)


 そして、6歳の孤児が選ぶはずのない‥‥‥あまりにも過酷ないばらの道。


「僕を押さえ付けた人は、魔力が全身に行き届いてた。だったら‥‥‥僕にもできるはず」


 それは先が見えない、誰も手を差し伸べてはくれない‥‥‥終わりなき暗闇。



「とにかく、先に出来そうな方から‥‥‥強くなるんだ」


 アベルはまず、『強くなること』に目を付ける。


「魔力を、上手く扱うとか、言ってた‥‥‥」


 最初に取り掛かったのは、魔力の特訓。

 だが、魔力から派生する魔術は‥‥‥貴族の文化。

 孤児院で暮らすアベルに、知る機会は当然無い。


(自分にできることから、慢心せずやってくんだ。強くなるんだっ‥‥‥)


 まずは体内を流れる自身の魔力を感知し、全身へ均等に流す訓練。


(セリカを連れて行った人だって、魔力を全身に流してた。絶対に意味があるんだっ‥‥‥!!)


 魔力は、本人の力の源。

 思い出したくない昨夜の出来事を振り返り、自分を押さえ付けた男の真似を試みる。

 アベルには、それしか学習機会が無かった。


「‥‥‥だめだ。どうやって流せばいい‥‥‥」


 だがそれは、血の流れを意図的に制御するようなもの。当然、難しいという次元の話では無い。

 しかも、アベルには教えてくれる人がいない。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ‥‥‥」


 アベルは6歳という幼さで、成功するかも分からない血の滲む努力を積み重ねる。


 朝、昼、夜。

 朝、昼、夜。

 朝、昼、夜。


 ひたすら、続けるしかなかった。


「‥‥‥ちくしょうッ!!!」


 数えられないほど失敗した。

 アベルは何度、自分の無力を叫んだか分からない。

 だが、その執念は少しずつ‥‥‥身を結んでいく。



「‥‥‥」


 そして、気が遠くなるような1年が過ぎた頃。



「まだまだ‥‥‥もっと強くならないと」


 アベルは7歳にして、意識的に魔力の流れを制御する技術を身につけた。全身に流すだけでなく、部分的に集めることも可能になる。

 だが、アベルに喜びは無い。


(これで手や足へ魔力を纏わせれば、攻撃力が上がる‥‥‥だったら次は、魔力総量と身体能力の向上を)


 魔力の流れを掴む訓練が上手くいったことで、アベルの中で迷いが消えた。


(強くなるために、どんな事でもやる‥‥‥)


 全ては、セリカと会うためにーーー。




 アベルは、全身の魔力を制御しながら考え込む。


(身体は走り込みや筋トレで鍛えられるけど、魔力はどうやって‥‥‥)


 身体能力向上の特訓はすぐに始めたが、魔力総量を増やす事については、行動しかねていた。


「自分だけじゃ、分からないな」


 アベルは答えが出なかった。そして、大胆な行動に出る。



「‥‥‥‥‥‥少ないな。あの人は‥‥‥‥‥‥」


 近くの街へ赴き、多くの人を観察し始めたのだ。



 魔力総量の違いを、実際に見て比べる。

 何か決まった原理があるかを確かめるために。


「ママぁ、あの子なにやってるのぉ?」


「見ちゃダメっ、関わっちゃだめよ!」


 アベルは病的なまでに多くの人を観察し続けたため、周囲から嫌がられる。


「‥‥‥‥‥‥無関係な人に、何を思われようが」


 今のアベルは、勇者となったセリカに再会するためだけに、生きている。それは、決して過言ではない。

 全く知らない他人の視線などに、気を取られている場合ではなかった。

 いや、アベルにはそんな暇などなかった。



(‥‥‥そうか。そういうことだったのか)


 そして‥‥‥()()()と見続けた時。

 アベルは魔力総量の原理に気付いた。


(まず子どもより、大人の方が確実に多い。これは魔力を蓄える身体の大きさ‥‥‥器の大きさだ)


 1つ目の原理。

 それは単純な身体の大きさ。

 魔力を保有する器が大きいほど、魔力総量は多くなる。


(大きいコップには、水が多く入るのと同じ理屈か)


 だが身体の成長に左右されるため、意図的に鍛えるのは困難。どうしても、時間を待つ必要がある。


(あとは、器としての身体の強度‥‥‥魔力を多く扱う魔術師は、極端に魔力総量が多かった)


 2つ目の原理。

 それは魔力を扱う身体の強度。


(魔力を消費していく過程で、身体も徐々に慣れてくる‥‥‥そういうことか)


 魔力を使えば使うほど、少しずつ魔力総量が増えるという事。これは積み重ねで、幾らでも実践可能。

 アベルは、すぐに目をつけた。


(しかも身体の慣れは、魔力出力にも大きく関わってくる。魔力総量と並行して、鍛えられるのは大きい)


 アベルは2つ目の原理を発見した際の、副産物。

 魔力出力の仕組みを理解する事ができたのだ。


 魔力総量が多い者ほど、魔力出力‥‥‥つまり強力な魔法が発動できることに。


(さっそく今日から実践だ。魔力は全部消費して、自然に回復した瞬間に、また全部消費する)


 強さへの渇望。まさに、常軌を逸していた。

 全ては、勇者となった彼女セリカに追いつくため。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ‥‥‥走り込み終わり。魔力回復したから使い切って、次は筋トレだ」


 アベルは走り込み、魔力の消費、筋トレ‥‥‥1日の自由時間を、惜しみなく使う。信じられない強度の特訓を継続して続けていく。

 ついでに魔力の流れを感知する特訓も、定期的に行いながら。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ‥‥‥」


 それは当然、辛い事の連続。

 アベルは何度も挫けそうになり、地べたを這いつくばったか分からない。



『元気でね‥‥‥アベルっ』


 涙を流して笑顔を見せる、セリカ。

 彼女の姿を思い浮かべ、アベルは立ち上がった。


(あれが最後で良いのかっ‥‥‥良いわけないだろっ!!)


 自分の無力を、心の逃げ道を塞ぐ戒めとして。




 そして、2年が過ぎた。


「もっと強くならないと‥‥‥」


 9歳となったアベルの身体能力、魔力総量、魔力制御は‥‥‥また、2年間の努力の積み重ねで、精神も強く鍛えられた。


「そろそろ‥‥‥魔物討伐に挑んでみるか」


 そしてアベルは‥‥‥死の危険がある実戦へ向かう。

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