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勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜  作者: とい


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3/9

勇者の隣

 数日後、孤児院。


「よし、できたぁ!」


 セリカが笑顔で‥‥‥本の栞を掲げる。


「綺麗‥‥‥」


 それは‥‥‥青薔薇の押し花で作られた、本の栞。


「見て見てアベル〜!」


 セリカが青薔薇の栞を持って、笑顔で駆け寄る。だが彼女はすぐに目を見開き、頬を膨らませていた。


「ーーー動いたらダメっ!! 安静にしてないと!」


「大丈夫だって。セリカがちゃんと手当してくれたからさ」


 アベルは苦笑いを浮かべ、嗜めてくる彼女に言葉を返す。

 数日前の怪我により、アベルの左腕は包帯でぐるぐる巻きに固定されている。それを考慮して、袖の短い服を着ているほどだった。


「跡が残らなければいいんだけど‥‥‥()()()()、傷跡が増えませんように」


 セリカが視線を落とし、小声で呟く。彼女の視線は‥‥‥アベルの()()に向けられていた。


「あ、これのこと?」


 アベルの左肩には‥‥‥何かで切られたような傷痕が残っている。


「そんな気にしなくていいって。この肩の傷痕、いつ出来たか覚えてないんだし」


 アベルは一切気にしていなかった。

 覚えていないくらいの怪我なら、大した事はないと思っていた。


「‥‥‥覚えて、ないの?」


 すると、セリカが小声で慎重に呟く。何かを探るような、視線を向けられる。


「? セリカ?」


「っ、ううん、何でもない。痛かった記憶なんて無い方がいいもんね!」


「うん、セリカの言う通りだね」


 アベルは励ますように呟き、彼女の手のひらを優しく握った。


「‥‥‥セリカが傷付かなくて、本当によかった。女の子なんだから、もっと色んな服を着れないと勿体無いよね」


「私、別に服にこだわり無いよ‥‥‥?」


 遠慮がちに話す彼女に対し、アベルは思わず苦笑いを浮かべる。


「ごめん、無理して着飾らなくてもいい。セリカはいつも可愛いから、つい色んな姿が見たかっただけ」


「アベル‥‥‥」


 セリカが目を見開き、次第に頬が紅潮していく。

 アベルは素直な気持ちを伝え、満足そうに彼女を見つめていた。


「‥‥‥責任取ってよ?」


「へ?」


 だが、ここでアベルは素っ頓狂な声を漏らした。

 頬を赤く染めて見つめてくるセリカ。

 アベルは、理解が出来てない感情が昂っていく。


「大きくなって、自分の力で生活できるようになったら‥‥‥色んな服を着てあげる。アベルには、私に似合う素敵な服を選んでもらうから」


「‥‥‥うん。喜んで」


 アベルは笑顔で即答する。むしろ、自分から頼みたいくらいだった。

 それを見たセリカが少し息を詰まらせながら、上目遣いになる。


「‥‥‥絶対、だよ?」


「わかってるって」


「‥‥‥約束、だからね」


「うん」


 アベルは即座に頷くと、セリカが小指を向けてくる。


「‥‥‥昨日もやったのに?」


「いいじゃんっ、何回やっても!」


 彼女の笑顔に促され、アベルは小指を差し出す。


「ーーー何があっても」


「ーーー離れ離れになっても」


 アベル、セリカと交互に呟き、そして小指を。



      ーーーダン、ダン、ダン!!



 すると突然、孤児院の扉に衝撃が走る。

 外側から強く叩かれ、聞きなれない音が響く。


「な、なに急に」


「セリカっ」


 アベルは咄嗟に、不安げに扉を見つめるセリカを背中に回し、少しずつ下がらせる。



         ーーーダァンッ!!



 やがて扉が勢いよく開かれると、中に入ってきたのは‥‥‥2人の男。どちらも、白を基調とした服を着ている。


(なんの服だ‥‥‥?)


 だが世間を知らないアベルには、それが何を意味するか分からない。


「‥‥‥間違いない。あの子だ」


「すごい魔力。こりゃあ本物だなぁ」


 男たちが、一点を見つめながら何かを話し合う。

 アベルはその間も警戒を解かずに、後ろのセリカを守ろうと必死だった。


「ーーー驚かせてすまない。私たちは、アストリア王国騎士団の者だ。ここの経営者にも既に()()()()()を納めて、話は通している」


「金品‥‥‥? 納めた‥‥‥?」


 男が淡々と話し始めると、アベルは更に警戒を強める。後ろのセリカを守るべく、無意識に。

 騎士団という存在は分かっていないが、只事では無い事をアベルは本能で悟っていた。



「ーーーセリカ()()()()()()様」


「‥‥‥ぇっ?」


「あなたはアストリア国王陛下の、側室の御子。更に()()の血筋であると判明しました」


 話されたのは、あまりにも突拍子の無い話。



「っ‥‥‥」


 セリカが息を漏らし、アベルの背中に強く抱き着く。彼女の両手が、酷く震えている。


「よって、お迎えに上がりました。これからはこんな劣悪な環境ではなく、何一つ不自由なく幸せに暮らせるのです」


 男の言葉は、アベルにとって‥‥‥あまりにも聞き入れ難いものだった。


「15歳になれば、アストリア王立学院に入学できます。多くの事を学び、セリカ様は幸せにーーー」


「っ!!」


 するとセリカが、アベルの背中をいっそう強く抱きしめる。離れたくないと、態度で分かる。


「いやっ!! 絶対に行かない!!!」


 やがてセリカが、大声を出していた。

 そして縋り付くように、アベルの背中に頭をくっ付ける。


「王家の血なんて知らない!! 勇者なんて知らないッ!! 今の暮らしが私にとって、何よりも幸せなの!!」


 セリカの言葉を聞き、アベルの気持ちは定まった。


「‥‥‥セリカはこう言ってる」


 絶対に、セリカを守るという決意を固める。


「帰ってくれ。セリカは行きたくないそうだ」


 アベルは右手で彼女の頭を優しく撫で、キッと男たちを睨み付ける。体格が二回りも違う大人に、少しも躊躇しない。

 彼女を守るためなら、誰にだろうが噛み付いて見せる。


「‥‥‥なるほど。泣ける話だねぇ」


「ーーーお前、セリカ様から離れろ。さもないと、痛い目に遭うぞ」


 すると、片方の男の態度が一変。

 セリカに向けるものとは違う、冷たい視線。


「そんな事で引き下がるほど、ぼくの気持ちは軽くないッ!!」


「アベルっ‥‥‥!」


 アベルは声を荒げて、2人の男を更に睨み付ける。

 まるで、『セリカを怖がらせるな』と言わんばかりに。



「ーーー軽いよ。子供の我儘なんてものは、根拠も無く鬱陶しいだけだ」


「っ!?」


 1人が床を蹴って突進し、アベルたちに近付く。その姿を、アベルは目で追えなかった。


「ーーーがっ!?」


「アベルっ!!」


 突然、アベルの身体が宙に浮く。セリカの手が離れていき、視界の上下が反転していた。

 アベルは、勢いよく蹴り上げられたのだ。


「気安く王女様に触れるな。孤児の分際で」


 背後で男の声が聞こえた瞬間‥‥‥アベルは腹を蹴飛ばされていた。


「ぐぁっ!!?」


 呻き声を漏らしながら扉の外まで吹き飛び、地面を何度も転がる。子供と大人‥‥‥まさに雲泥の差がある。


「く、そっ‥‥‥」


 溢れる唾液と、零れる血。

 アベルは必死に右手の力を振り絞り、うつ伏せの状態から立ちあがろうとする。


()()も碌に扱えない奴が、大口を叩くな」


 扉から外へ出た男が、そんなことを呟く。


「ま、りょく‥‥‥?」


 アベルは腹を押さえながら、男を睨み付ける。


「セリカ様を見てみろ。とんでもない魔力反応だ。まさに勇者の血筋。孤児のお前はもちろん、王国騎士の俺たちとも次元が違う」


 男が淡々と話す。

 アベルは家の中から駆け寄ってくる、セリカを見つめる。


(もしかして、セリカが化け物を倒した時から感じる‥‥‥()()のことか)


 セリカの全身から湧き立つ、謎の気配。アベルが直感で怖いと感じてしまった、異質なもの。


「セリカ様が魔力で身体を強化したら、こんな孤児院はデコピンだけで破壊できるだろうな」


 そして、それは自分を押さえ付ける男の全身からも感じられる。


「諦めろ。お前が何度生まれ変わっても、セリカ様とは釣り合わない」


「いや、だ‥‥‥!!」


 そんな言葉に、アベルは反射的に首を横に振る。四つん這いの状態で、必死に両手足に力を込める。


「我儘な子どもは嫌われるぞ?」


「うぎッ‥‥‥!?」


 するとアベルは右腕を掴まれ、そのまま地面にねじ伏せられてしまう。


「正直、無駄な殺しはしたくないが」


 そして、アベルは首筋に剣を突き付けられた。

 怪我をした左腕は今も布で固定しているため、アベルは身動きが取れない。


「くそっ、放せッ!!!」


 アベルは怒りを込めて、右腕を掴んでくる男を睨み付ける。



          「やめてっ!!!」



 アベルの耳に、甲高い叫び声が届く。胸が張り裂けそうなほど苦しく、突き刺さるように痛かった。


「わたし、行くからっ‥‥‥」


 セリカが涙を流し、小声で言い放っていた。


「まっ、て‥‥‥セリカっ」


 アベルは必死に、縋り付くように話しかける。右腕を捻り上げられている事など、どうでも良かった。


「もう、潮時だったのね‥‥‥」


 セリカの口から漏れ出た言葉。

 アベルは息をするのも忘れ、絶句してしまう。何も出来ない、不甲斐ない自分に、嫌気が差す。


「やっぱり‥‥‥夢はね、いつか終わるって思ってた」


「っ、セリカっ」


 アベルは不安に呑み込まれていた。必死に名前を呼び、彼女を見つめる。そして‥‥‥絶望した。


「アベルっ‥‥‥」


「ぁッ」


 セリカが‥‥‥小指を向けている。アベルだけが、その意味に気付く。



『ーーー何があっても』


『ーーー離れ離れになっても』



「お前っ、何を!? 暴れるなっ!!」


「うぎっ、がぁっ、セリカっ!!!」


 アベルは必死に男の腕を振り解き‥‥‥右手の小指を差し出す。限界まで伸ばし、必死に、必死に。


「‥‥‥‥‥‥」


 セリカが、小指をギュッと握り締めた。

 アベルの小指を無視した形で、無機質に。

 まるで‥‥‥もう絡む事は無いと、言わんばかりに。


「ーーーセリカっ」


 アベルは勝手に息が上がり、唇が震える。

 儚い約束さえも、残してくれない。


「私のことは、忘れて‥‥‥それが、絶対にあなたのためだから」


「何言ってるんだッ!? セリカを忘れられるわけ無いだろっ!!!」


 彼女の言葉を、アベルは到底受け入れられない。

 無我夢中で叫び、視界が涙で滲んでいく。

 セリカが顔を上げて、優しく微笑む。


「‥‥‥じゃあね、アベルっ。私がいない方が、あなたは絶対に幸せになれるから」


 そう言った彼女は、止めどなく涙を流していた。

 彼女の手には‥‥‥青薔薇の栞が握られている。


「待ってッ!! 待ってくれッ!!!?」


 アベルの声は、彼女の歩みを止められない。


「元気でね‥‥‥アベルっ」


 そう言って歩いていく、セリカ()()()()()()

 彼女の後ろ姿を‥‥‥アベルは見届けることになる。


「セリカっ‥‥‥セリカぁぁぁぁッ!!!!!」


 アベルは、自分の無力を呪った。

 自分が弱いせいで、彼女が要求を受け入れるしかなかった。全て、自分自身が招いた最悪の運命だと。

 連れて行かれるセリカは、どうなってしまうのか。

 考えるだけで、吐きそうだった。


「ぅぐっ‥‥‥!?」


 突然、左肩が激しく痛み出す。

 それは思わず、歯を食いしばるほどの鈍痛。

 アベルは声も出せず、身動きすら取れない。


「なん、なんだよッ‥‥‥!!?」



「ーーー辛いよな。到底、受け入れられないよな」


 左腕を押さえて蹲っていたアベルは、前に立っていた男に話しかけられた。

 さっきの2人と同じ隊服に、乱れた茶髪と顎の無精髭が印象に残る謎の男。


「っ‥‥‥!!!」


 アベルは涙目で睨み付けながら、男を見上げる。乱れた茶髪の中にある、彼の目と合う。


「この世界は、強い奴が全てを奪っていく。それが真実だ、少年」


 男が淡々と呟いた後、踵を返して歩いていく。



「セリカっ‥‥‥!!」


 動けないアベルには、もうセリカの後ろ姿も見えない。幸せだった時間は、まるで嵐のように過ぎ去ってしまった。


「ぼくは絶対っ、君のもとまでッ‥‥‥!!」


 涙を滲ませるアベルは、必死に右手を伸ばす。


「がッ‥‥‥!!?」


 だが左肩の激痛が、遂に頭へと影響を及ぼす。


「絶対っ‥‥‥また、会いにっ‥‥‥‥‥‥」


 まぶたが、勝手に閉じていく。

 だがアベルは、視界に映る最後の時まで‥‥‥彼女が去っていった方向を見つめていた。


「い、く‥‥‥‥‥‥」


 これは、勇者の隣にいた少年の話。



「‥‥‥すまない、少年」


 たとえいばらの道だろうと突き進む‥‥‥勇敢な少年の物語。

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― 新着の感想 ―
ええええええええええええええええええ! 驚きました。 そして本当にすごいなと思ったのが、ここまでそれほどの文章量がないのに、相当多くの情報や感情が込められている点です。 ここまでがプロローグに当た…
勇者ではなく、勇者の隣に立つ者の物語 大切な人の隣に立ち続けることがいかに難しいことか けど、強い者が全てを奪っていけるのであれば いつかきっと奪い返せるはず そんな希望の欠片を感じました!
Xからきました。 ここからが、アベルの物語というところですね。 セリカの物語と再び交差するときは来るのか… 星とブクマはしました。
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