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明日の為に行動開始

 


 人の気配が乏しい裏路地でハイゼットとエッセ、そして三邪王の希望である人の子アトラスが立っていた。


 3人に音も無く近づく一つの影、気配を察したエッセが腕を組んだまま視線を向ける。


 「来ないと思っていたがな」


 エッセが声をかけた人物は唇を軽く噛む、人影は1人の男だった。


 彼はこの港町を警護する騎士団長。


 「お前達の戯言である証明をしにいくのだ」


 ハイゼットは口をつり上げて笑う、失笑もいいところ。


 「好きにしろよ、俺達はお前を戦力として入れていない。ただの法的介入にお前を使うだけだからな、よろしく後始末担当の騎士団長殿」


 軽く扱われ騎士の鎧を着た男はハイゼットを睨む、港町は今日開催される魔道師の武道会で盛り上がっているのだが、まるで光りと影のように自分達が立っている場所は陰気臭く暗い。


 それもそのはずだ、今から港町を支配している貴族の館に入り込む、自分で開催した大会を見に行かないはずが無い。


 だから今のうちに屋敷に忍び込む、その上で此処においでくださった騎士団長殿に事の顛末を任せるつもり。


 一際大きな歓声が大会の会場から響く、どうやら開催したもよう。


 となれば辺境伯のアベニール卿は大会の会場に入って開催の挨拶の一つでも済ませただろう。


 3人にとって館にいないという事実が大切、大会を見に来ているのなら護衛を引き連れて館の警護している自衛の兵士は少ない。


 騎士は街を警護するためにいる国から派遣された者、辺境伯がある程度好きに動かせるが全権を持っているわけじゃない。


 だから騎士団長の青年が側にいなくても、不信にはならない。


 「さて、行くぞ。ミラジーノが時間を稼いでくれるが短気なでな、挑発されるとカッとなる可能性がある」


 エッセが組んでいた腕を動かし、館の方をみる。


 ハイゼットとアトラスはエッセに頷き、歩き始めた。


***


 少女からジュースを買った足でハイゼットご一行は、港町唯一の役所に大会出場の手続きをするために、訪れる。内容は簡単な書類を通すだけ。


 戦士と違って魔道師の数は少ない、五か六人にいるチームに1人いればいいほうだ。


 国が主催するならばもっと厳密な審査があるだろう、しかし今回の大会は街の催しに過ぎず旅人のミラジーノでも簡単に手続きは終わる。


 ミラジーノが役所に書類を作っている間に、役所の前で通行人に聞かれないよう今後の打ち合わせをする。


 「魔族を召喚するって話だけど、確信は高いの?」


 まだ半信半疑のアトラスは隣に立っていたハイゼットに質問した。俯き加減で役所の壁に背を預けている。


 どうやらハイゼットの話を信じられないというより、人間がそんな冷酷な事をするなんて信じたくないという印象が強い。


 「さあな、状況証拠が殆ど揃っているのは確かだ」


 自分だって違うのであった方が嬉しいくらいだ、しかし軍国家といえど奴隷を持つことを禁止されている国で他国への誘拐は異常。


 これほどの数と女性だけを狙った誘拐、過去に何度も調査報告を受けた事例に似すぎている。


 しかし魔界側は人間に対して何も出来ない、人間が同族で殺しあっても魔族には関係がないのだから。どんなに魔族側に被害があろうが肉体的に損傷を受けておらず、運が悪かった程度に済まされている。


 魔族の側からしたら、ただの泣き寝入り。


 魔族と人間が関わり合ってはならない、長い歴史から見て魔族が無理やり召喚されるのは世界を動かすほどの出来事ではなかった。


 ハイゼットは自分の思考に対して眉を顰める。


 アトラスの期待を裏切るように、人は自分達の目の前でサニーは攫われかけた。


 自白した誘拐犯に覇王エッセの魔力で言わせた情報に疑いはない。エッセの魔力に対抗できる人間はもはや、人間どころか天界の主神か魔界の神たちの他に並ぶ実力となってしまう。


 特にオッティ国はサファリの世界全で崇拝されている神を重んじる国、権力のある皇帝や貴族ですら迫害を行えば国民の信頼を裏切る。


 信頼を裏切れば蓄積されてきた不満がこれ好機とばかりに爆発する恐れだってあった。


 娯楽や自分の欲望を満たすためだけならば、オッティ国に行ってまで攫う必要は無い。


 今は苦しい戦争中、誰もが隣人を戦地に送られて長く続く戦争に疲れ始めているから。


 「行動は明日起こそう、館は明日の大会で手薄になっているはず」


 エッセがミラジーノの行った役所の方を見ながら、呟く。


 「でも……実感ないな、魔族を召喚するなんてね」

 「何言っているんだ?俺……じゃなくて俺達の前で魔族の親玉の魔王と遭遇しておいて」


 ハイゼットは笑いながら、アトラスをみた。アトラスは小さく「そうだね」と答えた。


 アトラスの力に対抗できる人間はいない、彼女は単独ならば最強の人間。そのアトラスに勝った者は無条件で人間以外だとアトラスも納得している。


 「それでも僕達が屋敷に侵入して攫われた人たちは助けるとして、張本人はどうする?」

 「うーん、辺境伯ほどの貴族なら何も無かった事にできるな……この国は戦争に大忙しで声は届きづらいなぁ」


 もっと名声を得て、有名人になれば名が売れて正義の味方みたいな立場になれば、民衆から信頼があり堂々と発言力があるかもしれないのだけれども、今は田舎国からきたただの旅人そのAにしか過ぎない。


 最悪には罪を擦り付けられる可能性だってあるさ。


 それでは面白くない、アトラスを勇者として名前を轟かせて名声を与えたいと考えているハイゼットとエッセは唸る。


 「公平な立場にいる地位のそこそこ高い誰かを立ち合せると良いですわ」


 ハイゼットのポケットに下半身を突っ込んだシビリアンが、自分の頭上にあるハイゼットを見上げた。


 流石はお姫様、上に伝わりやすい訴え方は心得ている。


 と、なると……。


 上層部に犯人と訴えやすく、民を守るとなると。


 街を警護する兵士……はアベニール卿の犬だ、役には立つまい。町を守るようにアベニール卿に雇われていた。


 「騎士……」


 ハイゼットに小さくエッセが頷く。


 サファリにおいて騎士は皇帝か王が任命するもの。


 騎士になれるのは代々由緒ある騎士の家系、または騎士を目指し騎士になる為に訓練されて認められるか、戦闘で功績を残した者に与えられる地位。


 つまり騎士は皇帝や王から借りた戦力、当然街の平穏を守り続けるのが任務として与えられているが、貴族が不正または街を私物化していないか監視する立場にあった。


 戦争で多くの騎士が戦地に派遣されていても、有事の為に最低限の騎士団は在中している。


 だから例え辺境伯のアベニール卿が騎士に訴えられたらただではすまないはず。


 「明日に備えて下準備が必要か…アトラス、お前はハイゼットと共に行動しろ」

 「エッセ?」


 ハイゼットは1人で歩いていく姿に肩をすくめて見送る。


 「彼は何処へ?」

 「大丈夫、アイツの得意分野だって」


 まだお互いを知らないアトラスは少し躊躇う。


 「俺達は積荷を調べようか……オッティ国に出航した船の数と持ち帰った荷物の差を詳しくな」


 オッティ国に例年にない船の出港と、持ち帰った荷物の数が証拠になってくれればいいが。


 ミラジーノにド突きまわされていても、魔王。頭脳は聡明なハイゼット。


 だた知識があれば賢い者とはいい難いのだけれど、頭の回転は速い。


 船長に賄賂を渡す……いや船を取り締まる役人に金を握らせて船の積荷の書類を持ち出させるほうが手っ取り早い……。


 何て考えていると役所から、爆発音が響いた。


 通行人ともどもハイゼットとアトラスは驚き役場を見ると、役場の建物の一部から焦げ付いた臭いが漂い黒い煙も見える。


 「あっのバカ!!」


 ハイゼットは呆れて叫び顔を掌で押さえる。


 周囲の人々は悲鳴を上げて逃げる、アトラスは微笑んで。


 「役人の人にも魔法を見せてあげたんだねミラジーノは優しいな」


 そんなアトラスにハイゼットの頭痛は益々酷くなっていく。


 一分ほどしてミラジーノが大会許可書をもって、満面の笑みで戻ってきた。


 「お待たせ☆」


 ミラジーノが悠々と歩いてハイゼットとアトラスに近づく。


 「何があったって聞いた方がいいか?」


 ジロッとハイゼットは眉を顰めてミラジーノに問う、しかしミラジーノ本人はシラッとした顔で。


 「魔道師だって信じないから魔法を見せてあげたのよ?役人の癖に魔道師のこと知ったかぶりしちゃってさ、ほんと腹が立つ男ね」


 役場の中では焦げて変色したカウンターの前に、呆然とした役人が1人何とも言えない顔で立っていた。それは後に彼は語る。ピンクの悪魔には気をつけろと。


 ミラジーノの実力を疑った哀れな役人にはまったく気にも留めずに、簡単にミラジーノにも今日中に突き止めなければならない用件を伝えた。


 「とりあえずお前は宿で待機、顔を知られたら出場停止になっちまう」

 「そうね、騒動を私が一緒に起こすのは得策じゃないわ」


 シビリアンは納得しかねる顔で反論し始めた。


 「わたくしはご一緒させてもらえないのでしょうか?」

 「駄目だ、妖精と一緒にいるなんて直ぐに素性がばれる」


 ぷ~っと膨れるシビリアンをポケットからハイゼットは出した。


 「だからお前は館の兵士の配置を大まかでいいから調べてくれ、なに魔法を使えば簡単にできるさ」


 シビリアンを俺の手の上に乗せて、お願いをする。


 愛しのハイゼットの役に立てるのか、案の定シビリアンはモジモジと恥じらいながらも嬉しそうに。


 「お任せください、わたくしがハイゼット様の為に全力を尽くしますわ!」


 キラキラとした目で妖精の羽を動かし、小さくお辞儀をすると館の方へ飛んでいく。


 「アトラスは頑張ってね」


 ハイゼットが館に向かうシビリアンを見守っていたら、横でミラジーノがアトラスにエールを送る。そしてその一言に何か引っかかりを感じるハイゼット。


 「おい、アトラスはってなんで俺が含まれていないんだよ」


 全然余裕ですけど、この温度差はやめて欲しい。


 「別に?自意識過剰か被害妄想でもあるんじゃない?アンタはへまをしないでよね、私が大変になるんだから」


 まったく可愛くない妹分もいるもんだ。


 やれやれとハイゼットが溢したら、アトラスが笑った。


*** 


 エッセは1人で大通りを歩いていく、騎士の集る施設はもう調べ済みで迷い無く其処へ向かっていくと一人の新米の騎士が街の見回りで巡回に向こう側からやってきた。


 狙いを定めたエッセはさり気なく近づき、すれ違う小さく呪文を唱え、次の瞬間に街を覆い包むほどの魔力を開放。


 すると街全ての時間が止まった。人間どころか動物も植物も果てには海の波や風すらも止まり時間は停止する。


 本当は無言でも時間を止める魔法くらい使えるが、加減を間違えて数千年時間を止めたままにしてしまうのを恐れて。


 新米の騎士を停止したままの姿で掴み、人気の無い場所まで騎士をつれて行く。


 無人の小屋に押し込むと、時間を止める魔法を解除。


 そして時は動き出す。


 街を巡回していたはずの自分が見知らぬ小屋にいるのに、新米騎士は大きく目を開いた。


 新米の騎士は瞬間移動したように突如変わった場所にパニックを起こして、声すらでなく脳みそをフル回転させて状況を把握しようとするが、エッセが大きな手で新米騎士の顔を軽く掴み。


 「おやすみ」


 放す、新米騎士はエッセの掌から離れた顔は寝ていた。数時間は強制的に寝ている。


 崩れる騎士の体を、怪我しないように横たえてやって小屋の扉を閉めた。


 周囲に人がいないことをエッセは確かめて、指を鳴らす。小さくも心地いい音が響くとエッセの体は先ほどの新米騎士と全く同じに変化する。


 騎士が拠点としている施設には新米騎士に化けて、入り込む。これなら難なく入り込めるだろう。


 もしばれても覇王の自分なら如何にでもできる。


 ハイゼットとアトラスが餌を集めている内に、辺境伯の館で行われている悲惨な行為を裁ける人物を探さなければ。


 出来るだけ上位の騎士で、周囲からも信頼のある騎士を選ばないと魔族を召喚する儀式を止めて解決とは行かないのが人間に成りすましている自分達の面倒な所だ。


 それにまだハイゼットとミラジーノには伝えていないが、異世界からの侵入者の件も片付いていない。

 

 当面は天界の闘神たちが見張っているので今の所は心配していないが、未知数の相手。油断は禁物、用心を重ねて困らないだろう。


 だから対処するための時間が欲しい、せめて次の街へ行く移動時間でもあれば何か進展があるかもしれないのだ。


 ハイゼットとミラジーノにはアトラスを旅させて魂を鍛えるのに専念して欲しかった。


 お兄ちゃん体質のエッセは縁の下の力持ちのように、頑張ってます。


 しかも異世界の住人の狙いはアトラス、詳しい事情は不明なのも気に掛かる。


 それに…………。


 異世界から来た住人の姿を思い浮かべると、エッセは唸りながらも頬を染めてしまった。


 まさか自分が恋に落ちるとは思いもしない、その上相手は異世界の侵入者。


 敵対心どころか恋心を抱くなんて……。


 不覚だが、どうしょうもできなのが恋というもの。今の自分にアトラスやシビリアンの想いがよく分かる、情けないが許されぬ相手を愛してしまった。


 エッセの気持ちを表すように、空は雲が覆い始め太陽の恵みを遮っていく。


どうも、超も種の猫です。時間が随分空いてしまいました。

ツナギが続きますね、早く本番のどんぱちをしたくてしょうがないです!!

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