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寧々さん、藤吉郎を振る!~苦労して日本一の夫婦となり、死んだら過去に戻りました。もう栄耀栄華はいりませんので、浮気三昧の夫とは他人になります~  作者: 冬華
第2章 北近江編

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第89話 海の尼は、お市様の『お抱え絵師』となる

永禄7年(1564年)11月上旬 近江国小谷城 友松尼


今、慶次郎様が「松」と呼ばれて、わたしはビクッとした。


「松」はわたしの俗名だが、こんなにかっこいい人にいつの間に惚れられたのかと思うが……よくよく、寧々様との会話を聞いていると、それはどうやら人違いのようだった。大体、そもそもの話、わたしは尼僧だから、恋愛などできない。


だから、こうやって燃料を投下されたら、脳内であれやこれやと考える。慶次郎様は、美里さんとどこかに行っちゃったが、そんなことは関係なく、彼を「誰」と絡ませたら萌える美しい絵になるのかと。


「う~ん、関係性を考えたら玄蕃頭様だと思うけど、顔が釣り合わないから却下よね……」


玄蕃頭様とは、幼き頃より何度かお会いしたことがあり、お優しい方だとは存じているが、兄君と違って絵面的には「ない」と断じざるを得ない。何しろ、言い方は悪いかもしれないが、あれはタヌキとそっくりだ。


ただ、だからといって、流石に殿を描いちゃうとお手打ちが待っているわけで、そんな恐ろしいことは小心者のわたしには無理だ。しかし、そうしていると……


「寧々様、少々よろしいでしょうか?」


「半兵衛?如何しましたか?」


部屋の入口にサッと現れたその方は、今の会話からかの有名な竹中半兵衛様と理解するが……男と思えない線の細さと色っぽさにわたしの心はときめき、脳みそは激しく動き出す。


そして、お二人が何処かに消えた後、誰にも気づかれないように気を付けてわたしも外に出た。今、頭に浮かんだ慶次郎様と半兵衛様の絡みを……せめて下書きだけでも紙に書いておくためだ。


「ああ……たまらないわ」


次第に書き上がっていく二人のその絵に、わたしは感情の高ぶりを次第に抑えきれなくなり、辺りへの警戒を怠った。すると……不意に背後から声が聞こえた。


「あら?あなたは……海北家の友松尼殿では?」


「え……!お、お市様?」


「こんな所で何をやっているの?」


何をやっているって……こんな人目のつかない庭の茂みに隠れてやっていることと言えば、やましいこと以外あるのだろうか。だが、そんなことはとてもいえない。そもそも、言えば全てがバレちゃうし、兄も弟も連帯責任でよくて追放、下手をすればわたしと共に打ち首だ。


「え……そ、それは……」


ただ、隠そうにも背後からは丸見えのため、すでに手遅れであることを理解した。お市様の顔は既に真っ赤で、戸惑っている御様子だ。それゆえに、わたしは全てが終わったと諦めた。しかし……


「あ、あの……こちらから絵をお渡しすれば、慶次郎と半兵衛殿の絵に加えて描いて頂くことはできますか?」


お市様はどういうわけか、わたしを咎めたりはせずに、寧ろかなり恥ずかしそうにしながらも、さらなる燃料投下を提案してきた。その燃料とは……聞けば、兄君であらせられる織田上総介様だという。


「実は、嫁ぐときに兄から『寂しい時は俺の絵を見るように』と頂いたのですが……」


「それはもう、お預け頂けるのであれば、姫様のお望みの絵を描いて御覧にいれますが……本当にそのようなことをして良いのでしょうか?あとでバレて、トカゲの尻尾切りのように、わたしだけ打ち首ってことにはなりませんよね?」


「あら?バレなければいいでしょ。大体そもそも、今、この時点でわたしが声を挙げれば、あなたは打ち首確定よ。だから……あなたには拒否権なんてもの、存在しないと思うのだけど?」


表面上は、いつも以上に優しく微笑んでいるように見える。だが、背中を濡らす汗がわたしに危機を告げていた。逆らったら最後、この方は自分の性癖を隠ぺいするために、本当にわたしを打ち首にするだろうと。


「……承知しました。誠心誠意、お市様のために働かせていただきます……」


「よかったわ!わたしの誠意がきちんと伝わって!」


こうしてわたしは、お市様のたっての要望でお城に上がり、『お抱えの絵師』となることが決まるのだった。描くのはもちろん……淑女のための春画(エロ本)だ。

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[一言] あーぁ、腐っちゃった
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