食べさせられ過ぎにもご注意を
五月九日(火曜日)
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昨日のお昼、後輩の彼女さんの弁当を食べたでしょう?
そうそう、人間が食べ切れる量ではない弁当。
その弁当を胃に歯がないのに、意地で食べたでしょう?
そうそう、完食できなかったけどね。
意地で食べた結果、胃薬を飲む破目になったでしょう?
そうそう、俺の胃に歯がないばかりに。
胃薬を飲んで、胃の調子が回復したかって?
残念ながら回復しなかったんだよね。
えっ? 薬を飲んでも回復しなかったのって?
考えてもみなさいよ、人間が食べ切れる量の弁当を完食しようとしてたんだ。
会社には無事に出勤できたのかって?
ご心配ありがとう。無事に出勤できませんでした。
じゃあ、欠勤したの?
またもご心配ありがとう。急きょ、テレワークに切り替えました。
柔軟にテレワークに切り替え可能の会社に勤務してて、本当によかったと思ったよ。
胃の調子が回復せず、青白い顔で胸を擦りながら仕事したくないもの。
俺のそんな姿を見て、職場の人たちに心配させたくないもの。
なんてたって、後輩の顔を見たくないもの。
そういうわけでね、家で仕事をこなしたわけだが、俺に同居人がいましたね?
そうそう、戦いの女神です。
その戦いの女神がね、青白い顔をしてテレワークに励む俺のために、胃に優しい食事を用意してくれたんですね。
そうそう、胃に優しい食事といったらお粥。
「いくら胃腸の具合が悪くとも、少しでも食べなければ体に悪い」
「お粥なら食べられそう」
「おかゆ?」
「わからなかったら、店員さんに訊いて」
「店員に訊けばいいのだな」
戦いの女神はそう言い残し、お粥を買いにコンビニに向かいましたよ。
俺はね、お粥を買いに行く為に部屋を出ていく戦いの女神の背中を見て、ジーンと来ましたよ。
俺のことをシモベ扱いしていた戦いの女神が、俺を心配してコンビニにお粥を買いに行く。
シモベの俺の為に戦いの女神がわざわざですよ?
戦いの女神のシモベとしてジーンと来たわけですよ。
十数分後に家に帰って来た戦いの女神。
両手にレジ袋。
大量のお粥のレトルト袋でレジ袋の形状が刺々しくなっている。
おい、何日分のお粥を買ってきたんだよ。
「今日の分だけで良かったのに。安静にしていれば、明日にはほぼほぼ胃の調子が戻りそうだからね」
「これが今日の分だ」
刺々しいレジ袋を下に置いた戦いの女神。
刺々しいレジ袋を指差す俺。
「今日の分?」
「そうだ。これが今日の分だ」
「……はい?」
「おっさん、胃腸の具合が悪いと申しても、少しは食べねば体に悪い。さあ、食すがいい」
なに言ってんの、こいつは。
「いやいや、何日分のお粥を今日一日で食べなくちゃいけないんだ。食べ切れるわけがないだろ」
「何を申すか。これくらいの量を食べねば、体に悪いと申しているではないか」
「いやいや、逆に体に悪いって」
「我はおっさんの胃腸と体と頭部の抜け毛を案じているのだぞ」
「抜け毛は余計だっ」
「おっさん、胃と体と頭髪の毛根が衰弱しているというのに、意地を張るとは情けない」
「毛根は衰弱していないぞっ」
「まったく困った奴ぞ。我が食べさせてやろう」
下に置いたレジ袋を再び持ち上げ、部屋を出ていく戦いの女神。
「食べ切れないって言ってるだろ。あと、俺の髪の毛根は衰弱なんてしてないぞっ」
数分後、お粥が零れそうな茶碗とスプーンを持って部屋に帰って来た戦いの女神。
嫌がる俺を拳で制し、お粥をスプーンで掬って口まで運んでくれた戦いの女神。
茶碗が空っぽになると、部屋から出てゆき、お粥が零れそうな茶碗を持って部屋に帰って来た戦いの女神。
それを繰り返すこと十数回。
戦いの女神が用意してくれた胃に優しい食事が、短時間で十数回。
バファ〇ンの半分は優しさでできていますが、戦いの女神が用意してくれた食事は完全無欠の優しさでした。
完全無欠の優しさのおかげで、意識が朦朧としてきました。
「……も……もう……いい……げん……きに……なった……お腹が……いっ……ぱい……になっ……眠く……なっ……寝……る」
はちきれんばかりの胃を擦りながら、その場で横になる。
その後の記憶がない。
記憶が戻った時、俺は学生の制服を着て、学校の教室にいた。




