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第八十四話 終わったけれど謎しかない

 俺がノーティ・イヌマニタスという高位ヴァンパイアを食ってしまった翌日、このマアレ国の一部は密かに大騒ぎになった。


 その密かな大騒ぎになった事件の発端は俺だ、招待されたイヌマニタス家の地下室で惨たらしい拷問部屋を見つけた。そう、ギルド長を通じて王家に向かって密かに報告したからだ。


「これは酷い……、両足が失われている」

「おいっ、こっちにはグールがいるぞ。魔法使いを!!」

「いや、まだダメだ。証拠としてそのままにしておけ」

「人骨がこんなに……、うげぇ」

「この子はまだ生きているぞ、回復魔法を……」


 またノーティ・イヌマニタス自身とその家族が全て姿を消していたそうだ、彼らのいた住居には何故か大量の衣服と灰、そしていくつかの質の良い魔石が残っていたらしい。


「俺は行方不明の新人冒険者を探していた、偶々その時に公爵様と会って話だけは聞きにいったが、地下室の檻を見せられて逃げた方がいいと判断した。その後に、公爵家に何が起こったのかは分からん」


 俺は呼び出されたギルド長にそう証言した、嘘であることがバレないようにそう一貫して同じ証言を繰り返した。公爵家で行われていたことについて、冒険者ギルドと王国の方ではかなり話がもめたようだ。


 なんと言っても貴族の頂点に立つ公爵が消えてしまった、その家族すら一人も残っていない。残されたのは悍ましいグールやゾンビが十数匹に、あちこちで攫われて捉えられていた人間達だった。


 ヴァンパイアは通常、真祖というべき者がいて血を与えることで眷属(しもべ)を作ると言われている。ノーティ・イヌマニタスはこの公爵家のヴァンパイアの真祖だったのだろう、だから彼の滅びと共にその一族も全て滅び去ったのだ。


 今回の件で真祖という存在が本当にいると俺にとっては証明された、だが真祖にもフェリシアの話ではノーティを産んだ親がいるようだった、ヴァンパイアの王であるフェリシアの友人たちとは一体何者なのだろうか。


 俺が一番最初に喰ったローズの時には一気に眷属が滅びたりしなかった、あれは兄とか両親から使用人を借りてきていたのだろうか。グールやゾンビは主に従っていても眷属には含まれないようだ、その法則がよく分からない。


 人間達の方は更に状況がよくわからずにいた、だから失われた公爵家の処遇をかなり迷ったようだ。


 ノーティが死んだことでその血を引いた一族は滅んでしまったと思われる、他にもっと高位ヴァンパイアがいただろうに、奴はどうして闘いに仲間を呼ばなかったんだろうか。最後に戦った時には俺に負けたのに、妙にほっとした顔をしていた。


「……私は人を喰らいたくなかった、どうしてこんな生き物に生まれたのだろう」


「……まぁ、こう(・・)生まれた私が悪いのかもしれない。何百年在ろうとも私が生きた時間はリルとの僅かな時間だけだった」


 公爵家を奴がどうやって維持していたのかも分からない、それをあっさりと放棄してしまった理由も同様だ。今まで築きあげたものが惜しくはなかったのだろうか。


 人を殺めて生きる自分自身に疑問を持ち、またその生き方にノーティが飽きていたのかもしれない。もしくは大切な人間だったリルという女を失って、残された長い生に我慢ならなくなったのかもしれない。そんな理由が何かなければ、あの高位ヴァンパイアはもっと強かったはずだ、俺はきっと戦う時に更に苦戦したはずだ。


「あいつは死にたがっていたのか、俺はその切っ掛けか?」


 死にたがっていると同時に生きたいという意志も捨てきれなかったようにみえた、どちらの感情も混ざり合って結局、ノーティにとってはどちらの終わりでも良かったのかもしれない。


 屋敷に残されていたグールやゾンビ、公爵自身とその家族が消えてしまったこと、それは公爵家そのものがヴァンパイアの巣窟だったのではと憶測をよんだ。


 実はそれが真実なのだが、国側としてそれを公に認めるわけにはいかない。そう、自分の国の最上級貴族がヴァンパイアだったなどと認めるわけにはいかないのだ。


 もしそんなことを認めてしまえば、外の国や教会などあちこちからマアレ国がその責任を問われてそこに付け入る隙を与えてしまう。


 だから、公式発表はざっくりと言ってしまうとこうなった。


「人民を治める公爵として健康に問題があった為に、ノーティ・イヌマニタス公爵は自身の意志で爵位を返還することを望んだ。その為に国に返還された彼の公爵領は他の貴族を陞爵して与える予定である、また厳正な審議後にそれを発表する。それまで公爵領は王家の管轄とみなす」


 俺の方はと言うと王家の方から、公爵家で見たことは何も言うなとギルド長を通して命じられた。俺もやじ馬達に関わるのは嫌だったから、ギルドからの依頼自体を無かったことにして貰った。


「まぁ、これくらいは貰っておいて良いだろう。これで魔法銃のダークの方が改良できるぞ、この国ではやらないほうがよさそうだが」

「それよりもレクスさんがご無事で良かったです、……レクスさんを守りたもうた神に感謝を、亡くなった人々には永遠の安らぎをお与えください」

「はぁ、レクス様が全裸待機を完全に卒業してしまったのですね。なんで退化……いいえ、ご立派な進化でございます!! うぎゃ、尻尾は、尻尾は止めて―!!」

「よく分からないけどレクスが無事で良かった?何故ミゼの尻尾を引っ張る??」


 俺と戦った高位ヴァンパイアだった、ノーティ・イヌマニタスやその他のヴァンパイアの魔石は頂いてきた。向こうに害意があったのは確かだし、戦って勝ち残った俺にはこれを受け取る権利があるわけだ。


 十数日間、冒険者ギルドに軟禁されてやっとでてきたと思ったら、ディーレはいつも通りだった。彼は優しいから、まず俺の身の安全を心から喜んでくれた。ファイスも俺に何が遭ったのかはしらないが、純粋に心配してくれていた。


 ミゼもいつも通りだったが、少々発言に問題があったのでその尻尾を少し引っ張って俺は抗議しておいた。全裸待機とは何だそれは、そんな馬鹿なことを俺はした覚えはない。


「俺だって僅かな学習期間で成長しているんだ、もう、多分、全裸にはならない…………と……いいな」


 俺だって好きで今まで戦闘終了後に全裸になっていたわけじゃない、この霧になる能力を使うの五回目だが、やっと使い方がわかったかもという程度だ。


 魔力の消費が馬鹿のように高いので、その場に魔力が高くて喰ってもいい大物がいないと、そこで俺が魔力枯渇で動けなくなってしまう。


 諸刃の剣のようなものだ。強大な敵を倒すことはできるが、俺自身も上手く使わないと自滅するという恐ろしい技だ。


「しかし、わけのわからないことが多過ぎる。ヴァンパイアとは何なんだ、祝福されし者とは何者だ。……フェリシアとキリルがそうなのか」

「ヴァンパイアの真祖を産む親がいる、一体それは誰なんでしょうか」

「難しくて頭がどうにかなりそうです、今なら液晶の向こうの嫁に会いにいける気がする。……って液晶すらないんだった、このダメ世界!?」

「レクスがぜんら? ミゼがえきしょう? 私はわけがわからないよ」


 高位ヴァンパイアの魔石を手に入れたから、魔法銃のダークの為に使えるように加工したい。だが、この国で質の良い魔石を加工すると、公爵家と話を結びつけられてしまうかもしれない。


 だから、充分に休息をとった後で自分達で加工してみるつもりだ。せっかく魔法具の本も買ったわけだから大いに活用してディーレを強化してやろう。


 これでディーレの魔法銃のダークの方がまた強くなる、それに従ってディーレも強くなるわけで、……俺もあまり安心してはいられない。


 そして、ファイスはこの街に残って漁師になろうかという話が出ていた、銛打ちの腕が素晴らしいし、中級魔法まで使える彼にとってはクラーケンなどが出る海で働くのは、周囲の人間にとっても頼りになる仲間ができることになる。


「ほんっと――に漁師になりたいんだな、冒険者じゃなくていいんだな?」

「森が私の故郷、もう二度と帰れないけど傍にいたい。それに海のことも好きになった、これからずっと海で戦って生きてみたい」


 ワンダリングの一族が滅んだことは結局ファイスには伝えなかった、彼はもう一族に帰る気持ちがなかったからだ。二度と帰ることが無いのならば、荒らされてしまった現実の無残な姿よりも、懐かしく思い出の中の故郷だけを覚えているといい。


「ファイスも信頼できる仲間を見つけろよ、もう神の戦士にはならないんたろう」

「漁師の仲間がもういて私にとても優しい、大丈夫。私は戦士だが、神のものではない」


「上級魔法のことは言ってはいけませんよ、これからの貴方に幸多からんことを、朗らかに、健やかに神と共に過ごせますように」

「ディーレはいつも心配してくれる、私は男だ。一人でも立派にやっていける」


「怪しい人に騙されたりとか、親しいからってお金を貸したりしちゃダメですよ。まだ成人したばかりなんですから、無理や無茶はやめてくださいね」

「ミゼは良い猫、二人と一緒で私を心配する。大丈夫、私は必ず生きていける」


 もうしばらくファイスの傍にいようかと思ったが、彼はもう自分の生きていく場所を見つけていた。ファイスは俺達の旅にはついて来ない、それは少し寂しいが彼が故郷の近くにいたいというのなら仕方がない。


 万が一故郷に帰りたくなったら開けろとサクルト達の末路を書いた手紙を用意したのだが、笑ってすぐに『(ファイア)』で燃やされてしまった。本当にファイスにはもう故郷に戻る気持ちは無いようだ。……その手紙を書くのに丸一日くらい、俺はうんうん唸って頭を痛めたのだが、まぁいいか。


 ほんの三月ほどの付き合いだったが、大きな弟がいなくなるようで少し寂しい。でも、それを上回るようにファイスが清々しく笑うので別れの涙は出てこなかった。ほんの少しお互いに離れるだけだと言うように、余裕をもって笑顔で別れることができた。


 俺の一生は長いんだ、また来たくなったら会いに来ればいいだけの話だ。この世界は広いようで狭い、いつかまたどこかで会えるかもしれない。


「それじゃ、次はどこに行ってみるかな。この国は最後以外は良い国だった、またこんな国に来れるといいんだが」

「そうですね、海路で一度ツクヨミ国に行ってみるのも面白いかもしれません。独特の文化がある国らしいですよ」

「ああ、その国は私も是非とも行ってみたいと思います」


 ディーレとミゼの意見を採用して、一度俺達はツクヨミ国に行ってみることにした。まだ俺は十七年と少ししか生きていない、謎だらけの現状だがそんなに焦ってみる必要もない。


 さぁ、仲間達と行きたいところに行って、たった一度きりの一生を楽しく生きるんだ!!

広告の下にある☆☆☆☆☆から、そっと評価してもらえると嬉しいです。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、更に作者は喜んで書き続けます。

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