5,波乱と波乱と暖かさ
『では、自由取得スキルの選択を開始します』
その言葉と共に、目の前のステータス画面に一面の文字列が表示される。
先程までの職業固有スキルとは異なり、そこに並んでいるのは職業を問わず取得できる様々なスキルだった。
《身体強化》
《魔力操作》
《気配察知》
《集中》
《鑑定》
《採取》
《料理》
《応急処置》 etcetc……
「……多いわね」
『現在取得可能なスキルは五百二十三種類です』
「多すぎるわ」
《草》
《まだ初期やぞ》
《ここで一時間以上悩む人普通にいる》
《ようこそスキル沼へ》
「ちなみにおすすめとかあるの?」
『ございます。初めてVRゲームを遊ばれる方であれば《身体強化》《魔力操作》《気配隠密》などの取得を推奨しております』
「…それ戦闘職の場合じゃない?」
『みなさんなぜか生産職であっても「二段ジャンプしたい」「気配消すの癖にしたい」という方が大勢いまして……』
「ああ……大変ね、あなたも」
「そうねぇ……ヴァイさん。この中で、画家や付与魔術師と相性がいいスキルってある?」
『ございますよ。画家との相性が良いものですと、《観察眼》《精密操作》《集中》《素材知識》などがございます。付与魔術師の場合は《魔力操作》《魔力感知》《魔力制御》なども推奨されますね。』
「へー……これって進化スキル手に入れられないの?」
『できなくはないですが、多くSPを消費するため推奨はあまりしませんね。』
《待ってなんだその仕様》
《検証班〜!!!!!》
《やらかすと思ってました》
《ごめんこれは聞いたことない》
「なんかコメントの方々が騒いでいらっしゃいますが」
『聞かれていませんので』
《ツヴァイくんそういうとこあるよねぇ!?》
《ツヴァはあんま悪くない、大体の悪いのは運営》
《ヴァイさんは胃痛枠だから…》
「つまり」
『はい』
「進化スキルの《魔法召喚》をSPを多く消費して最初から得ることは可能ですか?」
『……推奨しません。』
「そんなに??」
『はい。初期段階で取得すること自体は可能ですが、相応のSPを要求されます。』
「どれくらい?」
『25SPです』
「わお」
《草》
《30SPのうち25!?》
《ほぼ全部じゃん》
《やめとけライネ》
《でもライネならやりそう》
「残り5SPになるのね」
『はい。なお、《魔法召喚》は最低限の実行にも魔力が多く必要であり、魔力量に比例して実行できるものが増えるため魔力増強スキルとの併用が推奨されます。』
「……なるほど」
ライネはしばらくステータス画面を眺めた。
五百を超えるスキルの一覧。
その中でも《魔法召喚》は、明らかに異質な位置にある。
確かに魅力的だけど……
「ヴァイさん」
『はい』
「これ、今取らなかったら後から普通に取れるのよね?」
『条件を満たせば取得可能です』
「じゃあ今じゃなくてもいいのね」
『はい。むしろ現在のライネ様の状況を考慮すると、他のスキルを取得することを推奨します』
「そう」
《あれ?》
《取らないの?》
《意外》
《経験者だからこそ取らない判断か》
「じゃあ、まず《観察眼》」
『3SPです』
「《精密操作》」
『3SPです』
「《素材知識》」
『2SPです』
「《魔力操作》」
『3SPです』
「《魔力感知》」
『3SPです』
「《集中》」
『3SPです』
ライネは指を止めた。
「……合計17?」
『はい。残り13SPです』
「思ったより余るわね」
『初期スキルを一つに集中させることで、通常より高位の状態へ進化させることも可能です』
「……なるほど」
《またなんか言ったぞ》
《おい》
《ライネさん聞き逃して》
《聞き逃すわけないんだよなぁ》
《検証班の胃痛増やすのやめてもらっていいですか》
「ヴァイさん」
『はい』
「《魔力操作》に残りのSPを全部入れたら?」
『推奨しません』
「さっきからそればっかりね」
『事実ですので』
「じゃあ……」
ライネは少しだけ考えてから、画面を操作した。
「《魔力操作》に10SP追加」
『承知しました……ライネ様。』
「なに?」
『《魔力操作》が進化条件を満たしました』
「あら」
《!?》
《は!?》
《13SPで!?》
《初期進化結局するやんけ!!!》
《検証班ーーーー!!!!!》
「進化先は?」
『通常進化先の《魔力制御》となります』
「はえー」
ライネは表示されたスキルの説明を眺める。
《シンプルに使い勝手がいいスキル》
《魔術系のお供》
《初期で取れるのマジかよ……操作から進化した途端めっちゃ使い勝手良くなって喜んだ俺の苦労はどこに……》
《割とマジで魔術系の初手攻略情報になりそう》
「これ、付与魔術師なら相性いいよね?」
『はい。魔力をより精密に操作できるようになりますので、付与魔術との相性は良好です』
「じゃあ、これでいいわ」
『《魔力制御》を取得しました』
《さらっと取った》
《本人はそこまで気にしてないの草》
ライネはコメント欄を一度だけ見て、それ以上は気にせずスキル一覧へ視線を戻した。
「じゃああとは、《集中》に3SP強化して」
『承知しました。以上で30SPを消費し、スキル選択終了となります。』
ステータス画面に、取得したスキルが並んでいく。
《観察眼》
《精密操作》
《素材知識》
《魔力制御》
《魔力感知》
《集中》
その中でも、《魔力制御》だけは他のスキルとは異なる光を放っていた。
「……これで終わり?」
『はい』
「次は?」
『次は能力値の割り振りとなります』
「テンプレートあります?」
『魔術系生産職のおすすめならありますが…』
「それでお願い」
《急に雑》
《ライネ疲れてんじゃねえか》
《まあ自分自身に興味がない割によく選んだ方ではある》
「こーれで終わりかしら?」
『はい。以上となります。何か聞きたいことは?』
「ない!あ、ヴァイさんの絵描くけどいい?」
『はい?……まあ、いいですが』
戸惑ったように受け答えをされる。あら、こんなにしゃべるのに誰にも教えられてないのかしら。
「あなた人気キャラよ。つらったーでよくあなたのイラスト見かけてたもの。」
『イラストが……?』
「バリストのみんなから、愛されてるのよあなた。知らなかった?」
『私は、ただ皆さんの案内をしているだけですが…』
「あなたにとってはそうでも、みんなは違うから。
ヴァイさんの対応が優しかったから続けてる、なんて人もいるらしいわ。」
《そうだそうだ〜》
《これはライ姐》
《実際めちゃくちゃ親身で嬉しかった》
『…それは、良かった。』
「誇りなさいな、どうせなら。それじゃあ、行ってきます。」
『いってらっしゃいませ、ライネ様。』
『……嬉しいなあ』
目の前が真っ白になり、転移される間際ヴァイさんの呟きが聞こえる。
本来ならAIの出来に感心する所だろうが、彼女はその前にキャラクターを愛している創作者。
「良かった、伝えておいて。」
そこにあるのは、心から嬉しがる少女の姿だった。
やっと…街につく……




