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魔法少女

かなーり長くなりそうな予感がする作品です。


天丼、蕎麦、刺身定食~カツカレーを添えて~の感覚でどうぞ。


初日は複数話投稿いたします。

 




 かつて──────



 この世界は絶望に包まれた。



 世界に邪悪なる意志が降り立ち、人々の心を蝕み、そして恐ろしい死と悲しみが満ちた。


 終わる事のない悪夢が世界を蝕み、それは耐え難い苦痛となった。



 力無き人々は天に願った。哀しくも切ない祈りを捧げた。



『どうか我らをお救いください。世界に光をお与えください』




 天はその祈りに応え、大いなる力を秘めた“光”を天使に託し、地上へと遣わした。



 やがて、天使によって見出だされ、“光”を宿した戦士が生まれた。



 その戦士は天下無双の力を持って戦い、ついに『悪意』を打ち倒して世界を救った。




 人々はその戦士を讃え、語り継ぎ、いつしかそれは伝説となっていった。












 ────それから数百年後…………────











『グオオオオオオオオオオオオオンッ』



「ひ、ひいいっ……」

「も、もう駄目だ……」

「勝てる訳がない……」


 兵士達の手から武器が滑り落ちる。絶望という名の全面降伏であった。


 落日に朱く燃ゆる町。その中心に蠢く巨大な影。


 ドラゴン──姿は似ていた。しかし、そう呼ぶにはその怪物は生物らしさが希薄で、より禍々しかった。

 生気の無い瞳。白骨化したような牙。生物らしくないヘドロ色の無機質な皮膚。霧のように揺らめく実体のない暗黒の翼。

 まるで、闇という存在その物が竜の姿を(かたど)ってそこに現れたかのように。


 その圧倒的な存在を前に、兵士達は既に戦意を失っていた。

 市民らも、崩れていく自分達の町を呆然と眺めるしかなかった。


『グオオオオオオッ』


 生活が失われていく。

 平和が踏みにじられる。

 人々が涙する。

 恐怖によって意味の無い叫びを上げる。



 平和も、日常も、笑顔も。


 全てが一瞬で奪われた。


 無力。まさに無力。


 目の前の強大な力に、人々は嘆く事しか許されない。

 涙し、泣き叫んで、天に運命を委ねる事しか出来ない。




 それは──どうしようもない、絶望であった。






 しかし、そんな絶望の中。





『止めなさい!』



 暗雲を切り裂く一筋の陽の光のような、凛とした声が響き渡った。


 兵士らが、民衆が、揃って声のした方へ振り向いた。


「あっ、あれは!?」

「もしかして!?」

「本当に現れた?!」


 途端に辺りに希望の声が湧き上がる。



 全ての視線が注がれるその先。礼拝堂の屋根の上。


 そこに一人の少女が立っていた。



 桃色にふんわりと揺れる花弁のようなスカート。風に靡く腰の大きなリボン。

 煌めくハートや花、羽飾り。全身を可愛らしい華やかな装飾で彩っている。

 ツインテールに結ばれたピンク色の髪は膝元まで届き、ダイヤの粉をふりかけたかのようにキラキラ輝いていた。


 白く滑らかな輪郭、ほんのりと赤みをさした頬、小さな薔薇のつぼみのような唇。

 そして夜露が滴りそうにピンっと張った睫毛の下には星のように煌めく瞳。


 成熟しきっていない華奢な身体はしなやかに瑞々しく、乙女の香りが辺りにふんわりと漂うようであった。



 少女の頭の上で羽根飾りが揺れた。


「心無き闇の化身よ! 光に還りなさい!」


 啖呵を切って屋根を蹴り、飛び上がる少女。可憐な小鳥が飛び立つように夕闇へと飛翔し、一輪の花が咲くように空を舞った。


『グオオオオオオオオッ』


 怪物が雄叫びを上げる。辺りがビリビリと震える。

 殺意の溢れる巨大な腕を振り上げ、少女へと向けて振り下ろす。処刑人の斧のような爪が風を断ちながら唸る。


「はっ!」


 唸りを上げるその凶悪な一刀を、桜の花びらの様な少女の手が受け、いなす。


 辺りに旋風が巻き起こる。


「てやあっ!」


 小さな体がつぼみのように縮まり、パッと開いて、夕闇を駆ける流星のごとき蹴りが風を切る。


 その鋭い一蹴で怪物の腕を激しく打ち払い、さらに空中で身を翻し、民家よりも巨大な胴体へもう一撃を叩き込む。


『ギャオオオオオオオオッ』


 (たお)やかな少女の一蹴は、何十倍もある巨大な怪物を軽々と吹き飛ばした。


『グオオオオオオオォォッ』


 宙を掻きながらも、怪物は口から魔力の塊である光弾を少女に向けて複数放った。


 妖しく翔んでくるその光を


「せいっ!」


 少女の鋭い手刀が弾き飛ばしていく。


 弾かれた魔力の弾は地面を抉り、レンガの建物の壁に穴を空けたが、少女の手にはかすり傷一つとしてついていなかった。


 ふわりと着地し、大地を蹴って再び飛び上がる少女。夕闇の中に可憐な花が返り咲く。


「はあっ!」

『ギャオオオオオオッ』


 空中で何度も交わる衝撃。空を切り裂く爆風。

 それらが街中に破裂するかのように何度も響き渡った。



「頑張れー!」

「負けるなー!」

「頑張ってー!」



 人々の希望に満ちた応援があちこちで生まれ、それは大きく広がり、すぐに大歓声へと変わった。



「我らが救世主!」

「伝説の戦士!」

「この世に顕現せし光!」

「神の化身!」

「光の英雄!!」


 その声に押されるように、少女の挙が、蹴りが、その一つ一つが怪物の攻撃を押し返し、反撃し、追い詰めていく。


「でやあっ!!」


『グオオオオオンッ』



 その姿からは想像もつかない剛力が怪物を圧倒し、覆い被さっていた閉塞感や絶望を振り払っていく。




 その少女は、まさに人々の光であった。







 伝説に語り継がれし光の戦士。


 清廉で可憐、美しく華やか。慈愛の瞳には星が宿るように優しき光が瞬き、その声は荒れ果てた人の心を鎮めて憂う。


 嫋やかなること、花のごとし。天に飛び立つ姿は風に唄う鳥のごとく。



 しかし、その姿に反して身に宿す力、天下無双。大地を割り、空を震わし、闇を打ち払う。


 悪を許さず、人々の幸福を護る神の使い。


 常人には辿りつけない神秘の領域に在る者。



 人々は彼女をこう呼ぶ。




『魔法少女』、と。








 だが────




(なんでっ……)


『いけーっ! 魔法少女ー!!』


「たああっ!」

(なんでっ……!)


『頑張れー!! 魔法少女ー!!』


「でやあっ!」

(なんでっ!!)


『頑張れー!! 我らの魔法少女ーー!』



 魔法少女は空に向かって吠えた。


「えいやあああああーー!!」


(なんで()がっ! こんな目に遇わなきゃならねえんだよおおおおお!!)



 その心の叫びの方は、本人の胸の中にしか響かなかったが。











 これは些細な事故によって生まれた奇妙な物語。


 ある一人の男──いや、少女……いや、やっぱり男の、不運から始まった物語。







 事の起こりは少し前に遡る…………。



お疲れ様です。次話に続きます。

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