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28話 【精霊剣職人】の炉

 店からお客さんが引いた時や、閉店後にミスリルを打って試行錯誤すること数週間。

 定休日でも延々と作業場に引きこもった結果……


「で、できたぞ……! どうにか完成だ」


 俺は苦難の末に完成したミスリルの加工品を眺めながら、その場に座り込んだ。

 プラムの力を借りて薄く伸ばしたミスリルを、工具を使って地道に加工していくのは中々に骨だった。

 けれどどうにか完成したのだ……まず一つ目だが。


「おめでとうございます、ご主人さま」


「ラルドさん、お疲れさまです」


 横で見守っていたマロンとシルリアの賛辞を受け、俺は「ありがとうな」と応えた。


「しかしこのミスリルは柄に接合するように見えますが、これはどの【精霊剣】に……?」


「もちろん、作った順番的にマロンだ。その後からチョコ、プラムとミスリルで強化していく」


「何と、わたしが最初に……!」


 マロンは瞳を輝かせて、感激したように両手を胸の前で組んだ。


「ではご主人さま、早速お願いします!」


「ああ、俺も早速取り掛かりたいのは山々なんだけどな……」


 最後の問題はここから、上手くプラムの柄に接合できるかだ。

 正確にはバランスを損なわないよう、ミスリルは鍔や柄頭にはめ込むような形に仕上げている。


 ただしブロンズソードの主な素材である特殊な銅の魔力とミスリルを馴染ませて一体にする際、その過程で強引なことをすれば最悪ミスリルが割れかねない。

 その上恐らく、ブロンズソードに接合させようとすればその時点からミスリルの硬化は始まって作業はより困難になってしまう。


 ……と、そのあたりの懸念をマロンに伝えてみたところ、


「でしたらご主人さま。わたしとミスリルを【精霊剣職人】スキルの炉に入れてください」


 そう言いだしたマロンに、俺は目を見開いた。


「おいおい、スキルで作った炉は魔力の塊だぞ。それにミスリルは薄く加工してあるから、今のままだと本当に割れやすい。下手をすれば、炉に入れた途端にミスリルが使い物にならなく……」


 そう言うと、マロンは首をゆっくりと横に振った。

 それからこちらに、柔らかく微笑みかけてきた。


「いいえ、きっと大丈夫です。……前にも言いましたが、わたしたち【精霊剣】は現代の【聖剣】です。では太古にアーティファクトや【聖剣】を作った職人は、どうやってミスリルを加工して武器にしていたと思いますか?」


「それは……」


 俺も不思議に思っていた点だ。

 まさか溶かして鋳型に流し込んでいた訳でもあるまいと、俺は感じてもいたが。

 マロンは話を続けた。


「わたしが思うに、ご主人さまの【精霊剣職人】と似た特殊なスキルを持っていた者がその能力を行使して、ミスリルを【聖剣】などの素材として加工していたのではないかと。そしてその加工手段はご主人さまの場合……」


「……武器に精霊を宿して【精霊剣】にもできる炉って訳か」


 マロンはこくりと頷いた。

 なるほど、そういえばサフィアにも「太古の昔に【聖剣】を作った者もあなたと似たようなスキルを持っていたのではないか」と言われたのを思い出した。

 それに単なる武器に精霊を宿して、遺跡から発掘される【聖剣】並みかそれ以上の存在に仕上げる【精霊剣職人】スキルの常識外れの炉なら、もしかしたら。


「それにご主人さまのミスリル加工の経験値も、【精霊剣職人】スキルに加算されている筈ですから。恐らく強く望めば、その通りに力が働くかと」


「今までのことを思い返してみれば……案外、そういうもんか」


 よく考えなくとも、俺の【精霊剣職人】スキルで作り出せる炉は武器に精霊を宿すってあたりからして摩訶不思議な代物だ。

 それならミスリルと【精霊剣】を上手く接合して強化できたとしても、今更驚くこともないのかもしれない。


「……ま、それにこれで失敗してもまたミスリル加工なら頑張ってみるさ」


「ええ、その意気ですよラルドさん! わたしも頑張ってミスリルいっぱい増やしますから。だから失敗分は気にしないでくださいね」


 シルリアの頼もしい言葉もあって、俺は意を決して【精霊剣職人】スキルのウィンドウを開いて炉を出現させた。


「では、お願いしますね」


「ああ、手早くいこう」


 ブロンズソードの姿となったマロンへと、あまり硬化しないうちに加工したミスリルを素早く嵌めた。

 それから上手く接合して強化できてくれと願いながら、炉の中へマロンを入れた。


 ……そうして、それからしばらく。


「中々出てきませんね……」


「三十分以上経過しているけど、全然だな」


【精霊剣】を作る時でさえ、こんなに時間を食ったことはない。

 それに加えて……


「ラルドさん、魔力の消費が凄いようですが大丈夫ですか?」


「シルリアも半精霊だし、やっぱり分かっちゃうか」


 俺は苦笑してみせたが、実際には想像以上の魔力消費に驚いているところだった。

 幸い魔力切れで倒れるまでには至っていないが、いかんせん炉の中で何が起こっているのか。

 そう不安になりかかった時、炉が開いて中から剣が出てきた。


「おっ、マロン! 大丈夫か、どこかに不具合とかないよな?」


 まさか何かあったんじゃないだろうなと、飛びつく勢いで聞いたところ。

 帰ってきたのは、普段通りのマロンの明るい声だった。


「大丈夫ですご主人さま。不具合どころか、大成功です!」


 そう言いながら、マロンは剣の状態のまま魔力の光を放った。

 すると光が一層強く放たれている箇所には、上手くミスリルが一体となっているようだった。

 ミスリルをはめていた鍔、柄頭、さらには刀身の一部までも。

 それらを見て、俺は力強く頷いた。


「よし、強化は成功したみたいだな。ちなみに何か変わったところはあるか?」


「はい。ミスリルのお陰でわたし自身が保持できる魔力量がぐっと増えました。これならご主人さまから離れていても、非戦闘時なら数日は精霊状態を維持できるかと」


「おお、そりゃいいな……!」


 今までは魔力供給の都合上、俺の近くにいないとマロンは剣の状態に戻ってしまっていたのだが。

 つまりこれからは、単独で街への買い出しや遊びにも行けるようになると。

 マロンの自由度が増したようで、俺も嬉しかった。


「それじゃあチョコやプラムも、同じように強化してやらないとな」


 二人もこれまで以上に精霊状態で活動しやすくなれば、きっと喜んでくれるだろう。

 俺はチョコやプラム用にも薄く伸ばしたミスリルを加工しようと、早速専用工具を手に取った。


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